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繚乱〜肆

近藤の言葉を朧月は何も言わずに聞いている。
「依頼主は男の生死は問わないと言ってきた。斬らない事も選べたが、俺は男のした事を考えると斬る事しか選べなかった」
近藤が言葉を選んでいるのが朧月に伝わる。
そうまでして自分に伝えなくてはいけない事。
「男はすぐ見つかった。その日の夜に斬った。だが」
近藤の手が朧月の手を握り締める。
「男が盗んだ金や、品は何一つ取り戻す事が出来なかった…」
「盗んだ金…?」
「覚えているだろう?そんな昔の事じゃない」
朧月の目が一瞬伏せられて、すぐに見開かれる。
数年前。
盗まれた小箱の金子と、簪や櫛や着物。
しばらくして桜花から聞いたのはただ一言。
「あのお人、始末されてしまいましたわ。人斬りを生業とする人がいて、その人が」
寂しい?と聞かれたけれど、特に何かを感じはしなかった。
あの人を。
一度は愛した人を。
「太一さんを…斬ったのは…」
朧月の声が震える。
近藤はそれでも言葉を止めなかった。
「俺だ。せめて、何か取り戻してやりたくて探したが、何も見つからなかった」
朧月の目が潤む。
当たり前だ、と感じながら近藤は続ける。
「それが噂になって、江戸へ呼ばれた。あの男がお前の情人だ、と真一郎から聞いて…あの時、何も取り戻せなかった事を思い出した」
「それじゃあ、私や紅葉に色々と下さったのは、その事が」
近藤が頷くと、朧月は近藤から目を離さないまま言う。
「人を斬った金子で買って…桜花へ来る為の花代もそうやって」
「…そうだ」
朧月の目から涙が落ちる。
次から次、涙が頬を濡らし、着物に染みを作る。
「私は…人を斬った金子で…あなたに買われたんですか」
「朧月」
「私はそんな金子でなど買われたくありません…人の命を換えた金子でなど」
す、と朧月の手が近藤の手から離れる。
近藤はその手をかろうじて引き留めて、また強く握る。
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