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繚乱〜肆

「近藤様…やっとお会い出来た…」
近藤の着物を握り締めて朧月は近藤の名を呼ぶ。
近藤はそんな朧月の体を愛おしさを込めて強く抱き締める。
その後、焚き火が小さな種火を残す頃には、近藤と朧月は並んで縁側に座り込んでいた。
真一郎は店にいるのだが、裏庭の音や声は店までは届かない。
「吉原の外でお前を見るとはな…それに、その髪と着物も」
「仕入れの手伝いで…私も、お会い出来るなんて思っていませんでした…本当に」
朧月はそう言いながら近藤の手を取る。
今、絶対に聞かなくてはいけない事があるのだと、どんな答えでも受け入れると、近藤を見つけた瞬間に朧月の心は決まっていた。
「近藤様、正直に、私の問いにお答え下さいませ」
いつにない朧月の表情と声に近藤は頷く。
「私と交わした札は、持っておいででございますか」
近藤の目が一瞬ゆらりと、何かを語る様に揺らぐ。
勿論朧月がそこにある言葉を見逃すはずはない。
「あの、瓦版にあった札は、やはり私が、近藤様にお渡しした物なのですね」
近藤は何も言わずに朧月と向かい合う。
「瓦版にあった事…あれは、近藤様の所行、なのですね」
「朧月」
「あなたは、人を殺めたのですね」
「朧月、俺は」
「なぜ人を殺めたんですか」
真っ直ぐな朧月の目。
近藤は深呼吸をゆっくりすると、静かに口を開く。
「それが俺の仕事だ。番屋や、お上が手を焼く輩を斬り、報酬を取る」
「…その金で、桜花へいらしたのですか」
「ああ。お前に、伝える事があった…今も伝え損ねたままだ」
「私に伝える事?」
ふと朧月の目が不思議そうに変わる。
近藤は目を閉じて、ほんの少し考えてからゆっくりと言う。
それはあの日からずっと、朧月に打ち明けなくてはならないと思い続けた事だった。
「数年前、俺はある依頼を受け、一人の男を斬った」
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