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繚乱〜肆

「お色は、この様に揃いでございます」
真一郎は次々紙を開き、美しい緋色を朧月に見せていく。
「間違いない…だろう?朧月」
「わ、若旦那」
突然の真一郎の呼びかけに朧月は珍しく慌てた顔をする。
真一郎はそれを目に少しだけ表情を和らげて言う。
「そんなにびっくりしなくても良いよ。桜花の注文を取りに来るんだから、色子の誰かかと思ってね。まさか太夫が来るなんて」
「私も、まさか仕入れの手伝いに吉原を出て、ここへ来るなんて思っていませんでした」
「本当にね。それに朧月、随分良い顔をする様になって…安心したよ」
真一郎はそう言いながらてきぱきと桜花へ着物を納める為の書を作り、朧月に差し出す。
「後から品物はお届けに上がります。こちらが目録でございます」
商売人の顔で真一郎が笑うと、朧月も自然と表情を緩め「有り難うございました」と真一郎に頭を下げ、入って来た時よりも落ち着いた様子で店を出た。
「…大きな御店…」
まだ絹との待ち合わせには早いと思いながら眺める九重屋の店構えに、朧月は自然と九重屋の周りを歩き始める。
古い店だと常々真一郎から聞いてはいたが、当たり前に目にするのは初めてで、吉原にあるどの廓よりも立派な店だと思う。
「…裏庭がある」
建物の壁を抜けると生け垣が現れ、きちんと整えられた庭木や花のある庭が目に入る。
朧月がそこにさしかかり、庭に目をやった、瞬間。
「…!」
朧月は息を飲む。
そこにいたのは誰あろう。
「近藤…様」
朧月の小さな、震えた声が耳に入ったのだろう、庭で枯れ葉を燃やしていた人物は焚き火を掻き回す手を止めて朧月を見る。
「朧、月」
近藤が立ち上がり、裏木戸を入ってきた朧月がその胸に飛び込む。
まるでそうする事が当たり前の様に。
「朧月、どうしてお前」
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