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繚乱〜肆

「わ、私で良いのなら」
涙声を何とか立て直して、朧月はゆっくりと襖を開く。
「涙顔だね…どうかしたかい?」
「いえ、何でも…で、お絹さんの仕事って、何をすれば」
「街にね、仕入れに行きたいんだけど手が足りなくて…どうだい?」
朧月は「街」という一言で首を縦に振った。
もしかしたら会えるかもしれない。
そうしたら本当の事が聞けるかもしれない。
そんな淡い期待。
絹は朧月が断ると思っていなかった様に「これを着て、目立たない髪でね」と着物を渡し、半時後に玄関に来る様にと笑う。
朧月は紅葉に頼み、出来るだけ目立たない様、まるで町娘の様に髪を結い、絹の渡した赤い縞の着物に袖を通す。
薄い桜色の羽織りを肩に、待ち合わせた頃に玄関に現れた朧月は「まさかこの子が」と思うほどで、絹は満足げな顔で朧月の手を引いた。
「吉原から出るんですよね、お絹さん」
少しばかり絹に引っ張られながら朧月が言うと、絹は「当たり前だよ」と笑う。
「飾り小物に酒の器、筆と紙、皆の簪に…ああ、緋襦袢もある。早く回らなきゃね」
そう言う絹の手を握り締め、目の前の大門を抜けると、朧月はくすくすと笑い出した。
「ん?何かあったかい?」
少し歩調がゆっくりになった絹に並んで朧月は懐かしそうに言う。
「私、大門に入る時もお絹さんに手を引いて貰ってましたね」
「そうだったね…あんな小さかったのに、立派になったよ」
「まだまだです」
半時前の涙顔は、すっかり笑顔に変わっている。
絹はそれを見て安心した様に「街にいる間は朧月とは呼べないから」と朧月の呼び名を考え始め、最初に訪れた筆と紙の店に着く頃、朧月には「菊」というなんともあっさりした呼び名が付いていた。
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