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繚乱〜肆

「分かっていたんです…!」
朧月はまるで血を吐く様に、震える体を抱きながら言葉を出す。
「あの時…刀に汚れがあったあの時から、漠然と」
「姐さん…」
「あの人は、庭木で切ったと…刀の柄に汚れが付くほどの傷で、お酒も入って、私を抱いた後なのに」
朧月の肩が溢れる涙を押さえきれずに揺れる。
崩れ落ちた着物の上には瞬く間に涙が染みを作る。
「私が見た腕の油紙には、血も滲んでいなかった…」
「まさか姐さんは、主様が怪我をしたと仰った事が嘘だったと思ってるんですか」
「あなただって、知っているでしょう、紅葉。酷く怪我をして酒を飲んだらどうなるか」
朧月の涙に濡れた目が紅葉に向く。
紅葉は何も言わずに頷く。
血が流れ落ちるほどの怪我。
そんな怪我で酒を飲めば、当たり前に血が滲む。
油紙と薬があったとしても、恐らく油紙に血の色が透けて浮かぶに違いない。
あの人が怪我をしたのがあの日の昼間なら、酒が入り朧月を抱いた後、いくら血の固まるのが早くとも、多少は滲むに違いないと、紅葉も思う。
そして、布を巻き直した朧月はその目で何も滲んでいない油紙を見ている。
「…主様が…あの瓦版の」
悲しそうな紅葉の声に、朧月は紅葉を抱き締めて言う。
「違う…あの人は、そんな人じゃない…でも」
もしそうだったら。
そうとしか考えが纏まらない事が怖い。
もしそうだったら、なぜ「人の命」を奪わなくてはならないのだろう。
「人の命」を奪って、あの人に何があると言うのだろう。
そして、自分は。
そう思った時。
「朧月」
襖の外。
声の主は絹。
朧月が返事をせず、紅葉を離し、着物の裾で涙を拭っていると、外からの声が届く。
「あんた、ちょっと私の仕事を手伝ってくれないかい?花魁には許しを貰ってあるから」
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