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繚乱〜東雲

桂をとりあえず座らせてから、椿は着物や簪を片付ける。
「駄目じゃないか…こんな良い物を、こんな風に」
「…ごめんなさい…」
ある程度片付けた椿は桂の隣に座ると、その小さな頭を自分の方へ引き寄せる。
「悪さしたのは…お前さんの惚れた男だね?」
「…はい…あの字は…間違えません」
「お前さんは、どうしたい?」
桂は少し考えてから言う。それは今までの様なぼんやりした声ではなく、いつもの「桂」だった。
「家を出ます。人の噂も、と言いますけど、商いにはそんな時間はありません…私が家を出れば、噂なんてすぐに消えます」
「宛てもないのにかい?」
半ば桂の次の台詞に心当たりがある様に椿が問うと、桂は椿から体を離し、椿に頭を下げる。
次いで出た言葉は椿の予想通りだった。
「私を江戸に、吉原に…あの簪の似合う花魁の所へ、連れて行って下さい」
「どういう意味があるか、分かって言ってるんだね?」
吉原へ行く。
花魁の所へ行く。
それはただ遊びに行くという意味にはならない。
桂の言う「花魁」は陰間。
男が男を買う廓の花魁だ。
そこへ行くという事は、自ら望んで「陰間」の世界へ入るという事。自ら望んで男に身を売るという事だ。
椿も小物や着物を買い付けるだけではなく、当たり前に色子に向く少年を捜す事もあるのだが、自分から来ると言い出すのは稀な事らしい。
桂は頭を上げると真っ直ぐに椿を見る。
「分かっています」
私は、ずっとあの簪に合う様になりたかった。その存在が「花魁」なら。
「私も、そうなりたい」
桂の意志の固さはその目を見れば明らかだ。
椿は仕方ないね、と独りごちると桂の手を取り部屋を出る。
両親や桐哉に話を通さなくては桂を連れては行けないのだ。
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