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繚乱〜肆

当たり前だが桜花でも同じ瓦版が回し読みされている。
ただし、朧月が近藤と交わした札の内容を誰も知らないのが幸いして、誰も下手人の名前や、まさか朧月と繋がりがあるなどとは思っていなかった。
廓の中、鮮やかな着物に身を包んで各々の事をしながらの賑やかな大部屋で、数枚の瓦版に目をやる色子達。
そんな中で、ただ二人。
その名に心当たりのある二人は何でもない振りをするのが精一杯だった。
近藤が顔色を変えた一枚は特に皆の目を引いている。
下手人の手がかりがあるのだから当たり前なのだが。
「熊野神社の札が半分ねえ…どこの女郎屋の流行りだか」
「もしお調べがあったって見世は沢山あるし、第一、情人の事でも何でも、吉原でお客の事に口を開くなんてしませんよ」
「お上もそれを知ってるからお調べはないだろうけどね」
色子達の笑い声を耳に、朧月は隣に座る紅葉の手を知らず知らずに強く握る。
紅葉もその理由が分かるのだが顔には出さず、回ってくる瓦版を朧月と一緒にじっと見つめる。
「…姐さん、私、姐さんに着付けを見て頂きたいんです…宜しいですか?」
紅葉は「さも今思い付いたかの様に」瓦版を置きながら朧月に笑う。
そこにある意味に気付いた朧月は「勿論」と笑顔を浮かべ、紅葉に手を引かれて朧月の部屋へ戻る。
部屋の外に誰もいない事を注意深く確認して戸を閉めると、紅葉は崩れ落ちる朧月に駆け寄った。
「姐さん、しっかり」
紅葉が声をかける。
返ってくる朧月の声はいつもの様にはっきりではなく、震えながら途切れながら、紅葉の耳に届く。
「紅葉、あれは、やっぱり」
「違うかもしれません、だって、姐さんの字と血判は」
「返り血で、消えただけでしょう?あんな、札を切るなんて事は」
「どこかの廓にも同じ事をした人がいたかもしれません、決めてしまうのはまだ」
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