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繚乱〜肆

それから数ヶ月。
秋から冬へ変わる頃には近藤と朧月は廓の中でも知らない者がいない仲になっていた。
誰しもがそんな朧月を羨み、誰しもが祝福した。
だが。


それはまだ雪には程遠い冬の朝。
近藤の部屋にどかどかと乱暴に走り込んだのは誰あろう、九重屋の若旦那だった。
「近藤!お前何呑気に寝てるんだい!ちょっと、これ!」
騒々しく近藤を叩き起こすと、真一郎は布団の上で「俺は仕事明けで…」とぼやく近藤に朝一番で売られていた瓦版を叩き付けた。
「寝呆けてないでちゃんと見な!ほら、ここ!」
近藤の寝ぼけた目がゆっくりと字を追い、真一郎の言う場所へ差し掛かると、勢い良く瓦版を両手で掴む。
そこには昨夜、また辻斬りの仏が出た事と、もうひとつ。
「…っ!」
近藤は瓦版を放り出して、布団から急いで這い出ると、疲れた勢いで脱ぎ捨てた着物と帯、果てはさらしの中まで探る。
「その様子だと…これは、間違いなくお前のなんだね?」
箪笥に持たれて近藤の様子を見る真一郎が溜め息混じりに言う。
「ま、熊野神社の御札って言ったって、たかが半分の紙切れだし、吉原での流行りもあるし…そこから身元が割れる事の方が珍しいだろうけどね」
でも、と真一郎は溜め息と一緒に言葉を続ける。
「…この半分を持ってる子が、下手人はお前だって言わない保証はあるのかい?」
「恐らくは…」
「そうか…ならお前、しばらく仕事はするんじゃないよ?どうにか、私が裏から手を回して取り戻してみるから」
思いも寄らない真一郎の台詞に、近藤の目が真一郎を見据える。
真一郎はふうと一息、言葉を続けた。
「親父殿からずっと、その辺りの技だけは仕込まれてるからね…私は」
「そうか…済まないが、宜しく頼む」
その代わりしっかり店は手伝って貰うからね?
真一郎はそう言うと瓦版を近藤の前に残したまま部屋を出る。
近藤の頭には、ただ一人、この事を知られたくない、と近藤が心底願う人物の顔だけが浮かんでいた。
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