このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

繚乱〜肆

その日の床入りは、いつよりも幸せなものだった。
互いの心が分かったからなのだろう、熱はいつもより熱さを増し、朧月は半ば意識を手放しながら近藤にすがりつく。
そんな朧月が静かに眠りに落ちた、それを近藤が見届けた、刹那。
近藤の脳裏に忘れていた事が蘇る。
自分はこの太夫の旦那だった男を手にかけた。
それ以外にも人を手にかけて、その命を金に替えた。
全てを桜花に注ぎ込んでいる訳ではないにしろ、ここへ来る為の金はそうして得た物だ。
近藤は眠る朧月の乱れた髪を指先でそっと直すと、着物を雑に羽織って窓辺へ移動する。
そこには少しの酒と肴が用意されていて、近藤は杯を手に酒を干す。
酔ったとて「それ」を忘れられる訳はない。
愛しい者を何度抱いたとて忘れられる訳はない。
独特の手応えと、溢れかえる鉄の臭い。
それはもう、どうあっても近藤から離れないほどに手や、体に染み付いているのだ。
幅のある窓枠に座り込んで少しだけ窓を開けると、涼やかな秋の風が入る。
それを肴に、用意された酒を粗方片付けた時。
「近藤…様?」
声の方を見ると布団の上で体を起こした朧月が目に入る。
長い黒髪が白い肌に流れている姿が何とも美しい。
「起こしてしまったか?」
杯を置きながら近藤が言うと、朧月は緋色の襦袢を整えて近藤の側へ座り込む。
窓枠に座る近藤の足にもたれ掛かる朧月。
そんな朧月の頭を愛しげに撫でる近藤の手。
二人の姿は、どこから見ても文句なし、似合いの二人。
「何を…見ておいででした?」
「この街を。春には桜、夏には笹、今は紅葉や銀杏…通りの木にすら金のかかる、贅沢な場所だな」
「ここは外とは違う場所です…皆、ここへ夢を買いに来る。私達は、その夢の一部」
俺は、と近藤の手が朧月の顎にかかり、上向きにさせる。
黒い瞳が近藤を見る。
「ここへ来て良かったのだろうかな…」
近藤の問いに朧月は微笑んで言う。
あなたが来てくれて、良かった、と。
16/27ページ
スキ