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繚乱〜肆

近藤はそれを耳にしながら、今まで腕にあった布を握り締める。
捨てる事は出来ない。
これは、朧月が巻いてくれた物だから。
昔は物に執着がなかった。
許婚がくれた袱紗や根付けさえ、古くなれば手離した。
それなのに。
柄の血をごまかす為に、古いさらしを切った、それだけの物がなぜこんなにも大事なのか。
理由などもう既に分かりすぎる位に分かっている。
朧月。
あのしなやかな指が触れたから。
あの体を抱いた後、まだ艶の残る肌で触れたから。
「…重症だ…」
まさかこうも惚れるとは。
男で色子で、雇い主の息子の気に入り。
いつからかなど分からない。
無表情だった朧月を美しいと思った。
真一郎の手を引く手を、自分も取りたいと思った。
手を取ったなら、抱きたいと思った。
抱いたなら、また次もと、もう一度と思った。
そして目にした笑顔。
自分は朧月の旦那を手にかけたのだと、打ち明けるつもりがずっと言えずにいるのも、朧月に惚れているからだ。
打ち明けて、もう手も触れられなくなるのが嫌だからだ。
着物を替え、縁側への戸を開けば朝日が差し込む。
秋を予感させる柔らかな日の光。
近藤は無意識に小さく呟く。
「お前が…これほどに愛しい…ただの客で良いと、思っていたのにな」
日の光は朧月にも届いているだろう。
近藤はまるでそこに朧月が微笑んでいる様な、そんな錯覚を覚えながら空に呟いた。
「なぁ朧月…お前にとって、俺は何なのだろうな…」
出来るなら、ただの客でなければ良い。
そう願う自分が気恥ずかしいのか、咳払いを一つ、近藤は体を店の方へ向けた。
きっと店では真一郎が山ほどの荷物に辟易しているに違いないのだ。
早く手伝いに行かなくては。
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