繚乱〜東雲
「それ…」
「何でもない、お前は、部屋にいろ」
桐哉が桂を部屋へ戻そうとするが、桂はするりとその手を抜け、そのまま店の戸を開け放つ。
途端に明るくなる店の中。
外を見る桂の目には、桂の姿を見て怪訝な顔をする「近所の人々」の姿。
「いつから、こうなの?兄様」
外を見る虚ろな目を店に、桐哉に移しながら桂が言う。母親が桐哉に何も話すなと言わんばかりに首を横に振る。
が、桐哉はそれを制止して静かに口を開く。
「お前が、ぼんやりしたまま帰った日の、翌日だ」
「そう…」
桂はゆっくり店に入り、一枚の紙を手にする。
「この字…そう…やっぱり、そう、なのね」
「桂はいるかい?」
ぼんやりした桂の声に重なったのは、椿の声。桂はゆっくりと椿に目を移す。
「桂…お前さん大丈夫かい?」
椿はそう言いながら桂を抱き締める。ふわりとした温かさに、だんだんと桂の頭がはっきりする。自分の置かれた立場がどんなものか、それが次々と心に刺さる。
「椿さ…わ、私…」
桂は自然と椿にしがみつく。
堪えていた涙が、寂しさが、切なさが、何もかもが溢れる。
椿は何も言わず、桂の涙を受け止めていた。
「ちょいと上がらせて貰いますよ?この子を、このままには出来ませんから」
椿がそう言うと、それまでの桂の行動に言葉を失っていた両親の代わりに桐哉がしっかりと言う。
「宜しくお願い致します」
ゆっくり頭を下げる桐哉の心中をも察したのだろう、椿は桐哉に頷くと、桂を支えながら奥にある桂の部屋へ入り込んだ。
そこで椿が目にしたのは乱雑に置かれた着物や簪、櫛。
まるで桂の頭の中、胸の内を表す様な光景だった。
「何でもない、お前は、部屋にいろ」
桐哉が桂を部屋へ戻そうとするが、桂はするりとその手を抜け、そのまま店の戸を開け放つ。
途端に明るくなる店の中。
外を見る桂の目には、桂の姿を見て怪訝な顔をする「近所の人々」の姿。
「いつから、こうなの?兄様」
外を見る虚ろな目を店に、桐哉に移しながら桂が言う。母親が桐哉に何も話すなと言わんばかりに首を横に振る。
が、桐哉はそれを制止して静かに口を開く。
「お前が、ぼんやりしたまま帰った日の、翌日だ」
「そう…」
桂はゆっくり店に入り、一枚の紙を手にする。
「この字…そう…やっぱり、そう、なのね」
「桂はいるかい?」
ぼんやりした桂の声に重なったのは、椿の声。桂はゆっくりと椿に目を移す。
「桂…お前さん大丈夫かい?」
椿はそう言いながら桂を抱き締める。ふわりとした温かさに、だんだんと桂の頭がはっきりする。自分の置かれた立場がどんなものか、それが次々と心に刺さる。
「椿さ…わ、私…」
桂は自然と椿にしがみつく。
堪えていた涙が、寂しさが、切なさが、何もかもが溢れる。
椿は何も言わず、桂の涙を受け止めていた。
「ちょいと上がらせて貰いますよ?この子を、このままには出来ませんから」
椿がそう言うと、それまでの桂の行動に言葉を失っていた両親の代わりに桐哉がしっかりと言う。
「宜しくお願い致します」
ゆっくり頭を下げる桐哉の心中をも察したのだろう、椿は桐哉に頷くと、桂を支えながら奥にある桂の部屋へ入り込んだ。
そこで椿が目にしたのは乱雑に置かれた着物や簪、櫛。
まるで桂の頭の中、胸の内を表す様な光景だった。