ペテン師の技*仁王
「あ、今のは…」
友達の弟です、と先輩の方を振り返った瞬間。
先輩の顔がすぐ側にあり、そのまま触れるようなキスをされた。
「っ…!?」
目を見開いた私と、伏せめがちの先輩の目が至近距離で見つめ合う。
一瞬だった気もしたし、ずっとそうしていた気にもなる、不思議な瞬間。
ゆっくりと離れた唇に、今起きたことがふつふつと頭の中で巡る。
「な、…なっ、何して…!」
今私、先輩とキスした…!?
「賭けのご褒美じゃ」
ペロッと舌舐めずりした先輩にまた顔が熱くなる。
「先輩、私まだ言ってないことが…」
「あぁ。聞かせてもらう…後でな」
再び先輩の顔が近づき、今度は先輩の目が閉じている事に気づき私もゆっくり目を閉じた。
ドォンッ
後ろの方で、大きな花火が上がる。
「っん…」
そんな事はどうでも良くなるくらい、私は目の前のことに精一杯だった。
「お前さんの事になると余裕…なくなるぜよ」
そう言いながら頬に触れた指先。先輩の熱い視線に、私は再び目を閉じる。
仁王先輩は胸元からハートのAを取り出し、そこに自分にだけしか分からない印がついているのを横目に地面に落とした。
FIN