ペテン師の技*仁王
「ほう、強いな」
勝ちを確信している私に対して、何故だか先輩は余裕そうだ。
全然ヤバそうな表情を浮かべていない。
…いやでも、まさか…
先輩の持っているカードに目線を向ける。
ゆっくりと表向きになったそのカードの絵柄に、目を見開いた。
「A…!」
仁王先輩のカードは、ハートのエース。
信じられない、という表情で先輩を見上げる。
「俺の勝ちじゃな」
「っず、ずるいです!何かしたでしょ!」
バッと先輩の持っていたトランプを隅々まで調べる。
「物騒じゃなぁ。何もしとらん」
「嘘…じゃあ本当に?先輩がAだったなら私が何引いても勝てませんでしたね…」
凄い、敵わない…先輩はペテン師なんて呼ばれているけど、きっと運も良いのだろう。
ガックリと項垂れる私に先輩が優しく頭を撫でた。
「そう落ち込みなさんな。お前さんは面白いの」
…あ、またお前さん呼びになってる。
仁王先輩て、ほんとによく分からない人だ。
「まぁ、負けは負けですもんね…お願い、聞きますよ」
お願いと言っても、ジュース買ってこいとか、そういう可愛いお願いごとだと思っていた。
現に私が勝ったら、そういうお願いをするつもりだったからだ。
「…そうじゃのぉ。そしたら」
仁王先輩が手を伸ばし、私の頬を包み込むように撫でた。
「キス、してくれるか?」