俺様*跡部
自慢ではないけれど、氷帝に通っていた自分も一応令嬢だ。
小さい頃から良いものに触れてきたし目も肥えている。
「…何ここ。広過ぎ」
…けど、やはり跡部家は格が違う。
どんなお金持ちでも、跡部の前では1歩引いてしまうだろう。
「お帰りなさいませ。お坊ちゃま」
お待ちしておりました、とその場にいる全員が頭を下げる。
…執事、メイドの数も凄い。私の家とは比較にならないレベルだ。
「あぁ。今日コイツが泊まる。食事を用意してくれ」
跡部がネクタイを外しながら私を見下ろした。
へ…泊まる…?
「え、跡部ー私」
「畏まりました。お部屋は如何しましょう」
「俺と同じで構わない」
行くぞ、と跡部に手を引っ張られて訳も分からないまま足を進める。
広すぎる御屋敷には至る所にメイドや執事がいて、跡部が横を通る度に頭を下げる。
同じところをグルグルしているようで、まるで異空間に来たみたいだ。
バタン
一際大きい部屋を開けて、掴んでいた手を離し中に放り込まれる。
「あ、あの跡部…私、ここに泊まるの?」
「もう帰れる時間でもねぇだろ」
「確かに、それはそうだけど…」
跡部の好意だろうけど、付き合ってもない男女がひとつ屋根の下で一緒に夜を共にするのはどうなの…?
私はそういう教育を受けてないけれど、跡部にとっては普通…なの?
いや、やっぱりおかしいはず。
「跡部、泊まらせてくれるのは甘える…ありがとう。けど、一緒の部屋にいる必要はないでしょう?」
ゲストルームなんて山ほどあるはず、余っていないなんて事はないでしょう。
「何だ、俺と一緒が嫌なのか?」
跡部は着ていたジャケットを脱ぎ、苦しいのかワイシャツのボタンも数個外す。
「…嫌とかじゃなくて、駄目でしょう…その、倫理的に」
後半少し言葉を濁した私に跡部がニヤリと笑う。
「間違いが起こると困るか?」