俺様*跡部
「……」
どれくらい時間が経っただろう。重たい瞼を少し開けば自分に毛布が掛けられていて、ゆっくり体を起こす。
「やっと起きたか?遅いお目覚めだな」
上半身だけを起こした私を、デスクに座っていた跡部が気づいて声をかける。
「…跡部、まだいたの…」
「俺がいちゃマズイのか?」
「そういう訳じゃー…って、今何時!?」
ぼんやりとする頭を叩き起して時計を確認すると、もう既に時刻は20時を回っていた。
嘘、6時間も寝てたの…!?
「っどうしよう、今日までに送る資料がー」
飛び起きて跡部の座っているデスクに行きパソコンを奪い取る。
「あぁ、これの事か?」
私の慌てっぷりを笑いながら、跡部がパソコンの画面を見せる。
「…何これ…」
私がしなきゃいけない仕事内容や確認事項が、跡部の名前になっている。いや正しくは私と跡部の名前に変わっている。
私が今日送るはずだった資料も、完璧な状態で先方に確認された後だった。
「お前の仕事、手伝ってやる」
「…は…?」
「俺様の会社も加わってやるって言ってんだ」
跡部が言った言葉を理解するのに、寝起きの頭じゃ時間がかかる。
「えっと…それって、跡部財閥が手を貸してくれるってこと…?」
「そういう事だな。名前を貸してやるし、俺の所の人手もくれてやる。文句ねぇだろ?」
文句ないどころか、こっちとしてはあの跡部財閥が力を貸してくれるなんて願ってもない事だけど…
「それって跡部に何のメリットがあるの?」
私の会社に肩入れしても、跡部からしたら泡銭だろう。むしろ多数の企業と手を組むのはリスクもあるしデメリットの方が多いような気もする。
ただでさえ、跡部財閥と言えば世界に通ずる名前。忙しさなんて私の比にもならないはずなのに。
「女の寝不足な顔を見るのは好きじゃねぇんだよ」
ただ一言、跡部はそれだけを言った。