俺様*跡部
最近、よく頭が痛くなる。それは偏頭痛だとか風邪っぽいとか、そんなのとは違う。
「楓様。こちらの資料に目を通してすぐにご返答頂きたいとあちらの社長からー」
「分かってる、分かってるから。直ぐに取り掛かるからそこに置いといて頂戴」
社員の言葉に食い気味に答え、短くため息を吐き前髪を掻き上げる。
「し、失礼します」
バタン
最近忙しすぎて、ろくに睡眠もとれていない。食事だってマトモなものを食べずに肌が荒れてきた。
今日だって家に帰れていないし、オールで目の下には隈が出来ている。
「…はぁ」
社長室にある大きなソファーに腰を下ろす。
家柄上、私が後を継がないといけないのは昔から理解はしていた。けれどこんなに荷が重い役割だなんて、お父様は説明してくれなかった。
周りは将来安泰、敷かれたレールの上を歩くだけで楽だと私を羨ましがるが何も中身を理解していない。
自分の時間なんて今まさに無いようなものだし、いつもいつも誰かと会っては愛想笑いを浮かべて女だからと媚びへつらう。
学生時代教わっていないことの繰り返しで日々勉強だし、下への指示も的確ではならない。いつもプレッシャーで押しつぶされそうな気持ちになる。
カチャカチャ
「…休んでいられない」
パソコンを立ち上げて自分の仕事に打ち込む。
…社会人になってから、こんな事の繰り返しだ。マトモに友達とも会えていないし、同窓会だって行けなかった。
…学生の頃に、戻れるものなら戻りたい。
「ひでー顔じゃねぇの、アーン?」
幻聴まで聞こえるようになったのか、聞き覚えのある声に手を止める。