スキンシップ*四天宝寺
ミーンミンミンミン…
ジーワジワジワジワ…
「あ〜うるさい…」
近頃の蝉は元気過ぎて困る。
夏にしか出会えないからこそまだ許せるが、蝉が季節関係なく鳴いているような昆虫だったら今頃私はノイローゼになっている。
今のうちだ、元気に鳴け鳴け…
寛大な心を持って額の汗を拭い、みんなの分のドリンクを用意する。
「ほないくでぇー!」
コートでは金ちゃんが元気に走り回っている。
…凄いなぁ、金ちゃんの体力は底なしだ。
「やっとるやっとる」
その様子をしばらく眺めていると、フェンスからのしのしと上がってくる帽子が見えた。
「あ、オサムちゃん」
「おう、ご苦労さん」
監督のオサムちゃんがダルそうに目を顰める。
「今日はまた一段と暑いなぁ…素麺でも食いいくか」
「また素麺ですか」
「暑い日は素麺に限るでぇ。行くか?」
オサムちゃんはハッハー、と笑うと私の肩を抱く。
「えぇ!?今からですか?部活…」
「ええやん。バレへんて」
「バレてます」
いつの間にかオサムちゃんの背後に立っていた白石が眉間に皺を寄せて私を引き剥がす。
「白石、いつの間におったんや」
「…油断も隙もないですわ。オサムちゃん…マネージャー拉致らんといて下さいよ」
「つまらんなぁ…お。ちょい待ち」
オサムちゃんは何やら耳に手を当てると真剣な表情を浮かべる。
その真剣さに私も白石もゴクッと息を呑む。
な、なに…どうしたの?
「当てよった!当てよったでー!」
暫く聞き耳を立てていたオサムちゃんは急に手を上にかざしながら走っていってしまった。
…な、なに…?
「…あの人、競馬やな」
ポツリと横で白石が呆れ顔で呟く。