願いを込めた贈り物
愛しい彼の誕生日まであと三日。
で、あるはずなのに、未だに何を贈ろうか一向に決めきれていない。
昨年は一緒にフルコースを食べた。
……何故だか彼のお勧めのお店にご馳走になってしまった。
その前はお花を贈った。
……何故だか彼の方から数十本に彩られた薔薇の花束を貰ってしまった。
確かその前もサプライズをしようとしたのに、あれ? 私の方が誕生日だったっけ? みたいな錯覚を起こすような事が起こってしまった気がする。
こんな調子で、毎度毎度私が贈ろうとしている以上に彼からは倍以上の気持ちを返されてしまっていて、私の生誕祭計画は彼の手によって簡単に覆されてしまうのである。
いつも私ばかりが愛情を貰ってしまっていて、私だってその数百倍──いや、数億倍くらい彼に気持ちを返したい。
愛おしく想う気持ちを、彼に負けないくらい目一杯伝えたい。
だから今年こそは。
とは思いつつも、彼の誕生日はもう目前にまで来てしまっていて、そして何をどうしたらいいのかまだまだ決まっていないのである。
そして、三日後にも会うというのに今日私はフランシスさんと会う約束をしてしまっているのだ。
待ち合わせ場所に向かうまでの途中で精一杯考えてみてはいるものの、良い案が全然浮かばないままバスに揺られていた。
待ち合わせ場所に着くと、いつものように彼に手を取られて美しい街並みを散策する。
表面的には楽しい気持ちではいるものの、頭の中ではとぐろを巻いた感情と共にどうしよう…。という言葉がぐるぐると駆け巡っていて。
「どうしたの? 今日元気ない?」
「そ、そんなことないですよ!」
「ん〜? そう? 何か悩みでもありそうな顔、してるけどなぁ。良かったらお兄さん聞くよ?」
流石、彼は鋭い。
ふんわりと微笑んだフランシスさんに顔を覗き込まれてしまうと、全てを見透かされているような気がしてついつい内に留めてるはずのものを言語化してしまう。
「な……なんで分かるんですか?」
「そりゃぁもう!君の事だったらなんでもお見通しだよ♪」
フランシスさんにはいつも隠し事ができない。
何か悲しいや辛い事があった時、特に口に出していないはずなのに何かを察知するように感づかれていて、結局白状するのが毎度のオチだ。
今回だってそうだ。
すぐ隣にいる大好きな彼をどうやって祝ったら良いか頭を悩ませているのだから。
だけどそんなこともお構いなしに彼はこうやって気にかけてくれてしまう。
そんなさりげなさが好きだなと感じる所でもあったりして。
さて、どうする…?
これはもう変にサプライズとか考えようとしないで本人に直接聞いてしまった方が良いのか?
「あ…あのフランシスさん、お誕生日プレゼント何が欲しいですか?」
「何って、君が隣に居てくれるだけでお兄さんそれで十分だよ」
「そ、そうじゃなくて! 私ちゃんとフランシスさんにいつもたくさん愛をもらってるお礼がしたいんです!!! だからちゃんとお祝いしたくて、大事な日だから…」
「もう君って子は…。そんなこと言ってくれるだけで最高のプレゼントだよ」
そうやって口にしているうちに彼の腕の中にしっかり閉じ込められてしまっていて、髪の際にキスが落とされていた。
不意な出来事にキュンと胸が弾んでしまっている──けど、違う、そうじゃない。
「あの! その、ハグはとっても嬉しい! …んですけど、真面目に答えてください!」
「そう? う〜ん、真面目に、かぁ……。あ、じゃあ、ペアリング、なんてどうかな?」
ペアリング。
少しむず痒い言葉の響きに心臓がドッと揺れた。
だってお揃いの指輪をするって、まるで──
私よりも長い年月を生きる彼とは、私のようなごく一般的な普通の人間の”結婚”という形式が叶わない。
けれども、何も愛を誓う手段は結婚だけではなくたっていいはずだ。
「二人の愛の形に。どう?」
どう? って………。
そんなの、嬉しいに決まっている。
結局これではまた私も嬉しい状況になってしまうような気もするけど……。
──でもそれが彼のお望みというのであれば。
「じゃあ私から、プレゼントさせて頂いてもいいですか?」
「もちろん」
*****
デートの予定を急遽変更した私たちは、早速宝石店に足を運んでいた。
店内に並ぶ煌びやかに輝く様々な指輪を選んでいるうちに、一際心を惹かれる指輪に気を取られているとこのデザイン凄くいいですね、なんて二人で意気投合して案外すんなりと決まった。
『これからもかけがえのない未来を一緒に描いていけますように』
合わさった想いをひとつに束ねて、二人の願いを指輪にのせる。
これではまるで本物のマリッジリングみたいだ。
……なんて、思っているとどうやら本当にマリッジリングだったらしく。
「せっかく二人で選んだわけだし、いいんじゃないかな?」
そんなフランシスさんの囁きにまんまと乗せられて、数時間後には綺麗な紙袋を片手に握って宝石店を後にしていた。
「ペアリング、って話だったのに、結局マリッジリングになっちゃったねぇ」
「えへへ、そうですね…」
「選んでる最中も『奥様』『旦那様』なんて呼ばれちゃったしねぇ?」
すぐその場で指輪にお互いの名前を彫って、そのまま二人で誓いのリングを嵌め合ったりなんかして。
どうしよう、思わず口元が緩んでしまう。
「これで本物の夫婦だったら良かったのにな?」
そんなことを儚く笑いながらいうのだから、私はこれからも彼のことを愛おしく想い続けるのだろうな、とそう悟った。
いや、私はこれからもこの人のことを愛したい。
命が尽きるその瞬間まで。
「まあでも。そんな形式的なことよりも、俺は君の隣にこれからもいれたら。というのがやっぱり一番の願いだよ。ありがとうね、最高のプレゼントだ」
でもこれではお祝いの前倒しになってしまっている。
雰囲気に乗せられて舞い上がってしまっていたのもあり、そのまま指輪を付けて帰ってきてしまったけど、これでは本番どうするのかまた水の泡なのでは…。
「フ…フランシスさん……、当日渡そうとしてたものだったのに私うっかり舞い上がっちゃってました……」
「君がいれば十分、って言ったろ?俺の誕生日は二人でゆっくり過ごさせて。それが俺からのお願い」
帰り道、美しい輝きにうっとりしながら指輪を重ねるように腕を伸ばして目の高さまで手を挙げてみると、左手の薬指に煌めく指輪が夕焼けに照らされてキラキラと瞬いていた。
彼の愛の深さは宇宙以上よりも膨大で、計り知れない。
そんな彼だからこそ、これからも愛し続けていきたい、と、心の底から想いが湧き溢れてしまうのかもしれない。
で、あるはずなのに、未だに何を贈ろうか一向に決めきれていない。
昨年は一緒にフルコースを食べた。
……何故だか彼のお勧めのお店にご馳走になってしまった。
その前はお花を贈った。
……何故だか彼の方から数十本に彩られた薔薇の花束を貰ってしまった。
確かその前もサプライズをしようとしたのに、あれ? 私の方が誕生日だったっけ? みたいな錯覚を起こすような事が起こってしまった気がする。
こんな調子で、毎度毎度私が贈ろうとしている以上に彼からは倍以上の気持ちを返されてしまっていて、私の生誕祭計画は彼の手によって簡単に覆されてしまうのである。
いつも私ばかりが愛情を貰ってしまっていて、私だってその数百倍──いや、数億倍くらい彼に気持ちを返したい。
愛おしく想う気持ちを、彼に負けないくらい目一杯伝えたい。
だから今年こそは。
とは思いつつも、彼の誕生日はもう目前にまで来てしまっていて、そして何をどうしたらいいのかまだまだ決まっていないのである。
そして、三日後にも会うというのに今日私はフランシスさんと会う約束をしてしまっているのだ。
待ち合わせ場所に向かうまでの途中で精一杯考えてみてはいるものの、良い案が全然浮かばないままバスに揺られていた。
待ち合わせ場所に着くと、いつものように彼に手を取られて美しい街並みを散策する。
表面的には楽しい気持ちではいるものの、頭の中ではとぐろを巻いた感情と共にどうしよう…。という言葉がぐるぐると駆け巡っていて。
「どうしたの? 今日元気ない?」
「そ、そんなことないですよ!」
「ん〜? そう? 何か悩みでもありそうな顔、してるけどなぁ。良かったらお兄さん聞くよ?」
流石、彼は鋭い。
ふんわりと微笑んだフランシスさんに顔を覗き込まれてしまうと、全てを見透かされているような気がしてついつい内に留めてるはずのものを言語化してしまう。
「な……なんで分かるんですか?」
「そりゃぁもう!君の事だったらなんでもお見通しだよ♪」
フランシスさんにはいつも隠し事ができない。
何か悲しいや辛い事があった時、特に口に出していないはずなのに何かを察知するように感づかれていて、結局白状するのが毎度のオチだ。
今回だってそうだ。
すぐ隣にいる大好きな彼をどうやって祝ったら良いか頭を悩ませているのだから。
だけどそんなこともお構いなしに彼はこうやって気にかけてくれてしまう。
そんなさりげなさが好きだなと感じる所でもあったりして。
さて、どうする…?
これはもう変にサプライズとか考えようとしないで本人に直接聞いてしまった方が良いのか?
「あ…あのフランシスさん、お誕生日プレゼント何が欲しいですか?」
「何って、君が隣に居てくれるだけでお兄さんそれで十分だよ」
「そ、そうじゃなくて! 私ちゃんとフランシスさんにいつもたくさん愛をもらってるお礼がしたいんです!!! だからちゃんとお祝いしたくて、大事な日だから…」
「もう君って子は…。そんなこと言ってくれるだけで最高のプレゼントだよ」
そうやって口にしているうちに彼の腕の中にしっかり閉じ込められてしまっていて、髪の際にキスが落とされていた。
不意な出来事にキュンと胸が弾んでしまっている──けど、違う、そうじゃない。
「あの! その、ハグはとっても嬉しい! …んですけど、真面目に答えてください!」
「そう? う〜ん、真面目に、かぁ……。あ、じゃあ、ペアリング、なんてどうかな?」
ペアリング。
少しむず痒い言葉の響きに心臓がドッと揺れた。
だってお揃いの指輪をするって、まるで──
私よりも長い年月を生きる彼とは、私のようなごく一般的な普通の人間の”結婚”という形式が叶わない。
けれども、何も愛を誓う手段は結婚だけではなくたっていいはずだ。
「二人の愛の形に。どう?」
どう? って………。
そんなの、嬉しいに決まっている。
結局これではまた私も嬉しい状況になってしまうような気もするけど……。
──でもそれが彼のお望みというのであれば。
「じゃあ私から、プレゼントさせて頂いてもいいですか?」
「もちろん」
*****
デートの予定を急遽変更した私たちは、早速宝石店に足を運んでいた。
店内に並ぶ煌びやかに輝く様々な指輪を選んでいるうちに、一際心を惹かれる指輪に気を取られているとこのデザイン凄くいいですね、なんて二人で意気投合して案外すんなりと決まった。
『これからもかけがえのない未来を一緒に描いていけますように』
合わさった想いをひとつに束ねて、二人の願いを指輪にのせる。
これではまるで本物のマリッジリングみたいだ。
……なんて、思っているとどうやら本当にマリッジリングだったらしく。
「せっかく二人で選んだわけだし、いいんじゃないかな?」
そんなフランシスさんの囁きにまんまと乗せられて、数時間後には綺麗な紙袋を片手に握って宝石店を後にしていた。
「ペアリング、って話だったのに、結局マリッジリングになっちゃったねぇ」
「えへへ、そうですね…」
「選んでる最中も『奥様』『旦那様』なんて呼ばれちゃったしねぇ?」
すぐその場で指輪にお互いの名前を彫って、そのまま二人で誓いのリングを嵌め合ったりなんかして。
どうしよう、思わず口元が緩んでしまう。
「これで本物の夫婦だったら良かったのにな?」
そんなことを儚く笑いながらいうのだから、私はこれからも彼のことを愛おしく想い続けるのだろうな、とそう悟った。
いや、私はこれからもこの人のことを愛したい。
命が尽きるその瞬間まで。
「まあでも。そんな形式的なことよりも、俺は君の隣にこれからもいれたら。というのがやっぱり一番の願いだよ。ありがとうね、最高のプレゼントだ」
でもこれではお祝いの前倒しになってしまっている。
雰囲気に乗せられて舞い上がってしまっていたのもあり、そのまま指輪を付けて帰ってきてしまったけど、これでは本番どうするのかまた水の泡なのでは…。
「フ…フランシスさん……、当日渡そうとしてたものだったのに私うっかり舞い上がっちゃってました……」
「君がいれば十分、って言ったろ?俺の誕生日は二人でゆっくり過ごさせて。それが俺からのお願い」
帰り道、美しい輝きにうっとりしながら指輪を重ねるように腕を伸ばして目の高さまで手を挙げてみると、左手の薬指に煌めく指輪が夕焼けに照らされてキラキラと瞬いていた。
彼の愛の深さは宇宙以上よりも膨大で、計り知れない。
そんな彼だからこそ、これからも愛し続けていきたい、と、心の底から想いが湧き溢れてしまうのかもしれない。
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