恋人は名乗った後で / 短編
初めて出会った時の彼の印象は最悪だった。
ふんわりと華の香りを纏い、自己肯定感の塊のような態度、口を開けば息を吸うように甘い言葉を囁いてその場の乙女を虜にする。
そんな姿を見てすぐに感じた感想は、
なんだこの人は?
そんな嫌悪感が心の中に沸々と充満していたことを覚えている。
「ねえ聞いて!あのカレに話しかけられちゃってね、今夜どう?って!!誘われちゃったの〜♡」
「キャ〜!!いいなぁ、私も誘われたいなぁ」
彼らが会議をしている大きな部屋の隣の扉の前で、私の周りにいた同僚の女子たちがキャッキャと話す黄色い声を耳にして更に嫌悪感が増した。
もちろん彼らの立場的に一番敬わないといけない存在の方々であるし、挨拶やら受付やら最低限のコミュニケーションは取らないといけない訳なのだが、
例の”カレ”とやらは個人的には一番関わりたくない人物ナンバーワンだったと思う。
そして何よりの要因は、彼らの中にいるとある人物に私は憧れを抱いていて、例の”カレ”はその私の憧れの人にいつも皮肉をかましている行動が見受けられていたからだ。
好きな人を貶されるなんて溜まったもんじゃない。
だから尚更に強い嫌悪を感じていたんだと思う。
まあ結局のところ、そんな感情は後になって粉々に砕かれて覆されてしまうわけだけど───
*****
各国の会議が終わった後、彼らが去った後のこの大きな部屋を手短に片付ける。
同僚の女子たちは「ごめん私お誘いされてるから!あと頼んでも良い?」だの「今日は早く帰らないといけなくて〜」だの残業をしないための口実を各々言い残して、特に用事があるわけでもない私に最後の後片付けを置き去りにして帰ってしまった。
そこまで仕事が苦な訳ではないから良いのだけど。
そんなこんなでコロコロと床の埃をとりながら掃除をしていると、ふと小さな紙切れが目に入る。
拾って内容を確認してみると、この建物の近くの宿発施設の予約券らしい。
きっと誰かの忘れ物だろう。
…というよりむしろ、無いとまずいものなのでは…。
でももしかしたら、私の憧れのあの方の落とし物かもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら片付けに戻る。
しばらくして、もうそろそろ帰れそうかなというタイミングで勢いよく扉が開き、一人の男性とパチっと目があった。
「ねぇ、そこのマドモアゼルちゃん。ここに宿泊券、落ちてなかったかな?」
私に向かって話しかけて来た男性は、華の香りを纏う乙女を誑かしている、例の”カレ”。
前言撤回、淡い期待なんて抱くんじゃなかった。
私の勝手な想像はやっぱり想像でしかなかったようだ。
「宿泊券…、てまさか、これですか、ね?」
「あぁ!そうそう!お兄さんってば大事なもの忘れちゃってさぁ。こんなんじゃ乙女たちも部屋に招けなくて困ってたところ」
あぁ、最悪。
なんでよりによってこの人なんだ。
出来れば関わりたくないのに。
「まあとにかく!拾ってくれてありがとね、マドモアゼルちゃん。そうだ、よかったら君も今夜どう?」
宿泊券を渡そうとするとその距離が妙に近くて、ふんわりと薔薇の香りがする。
匂いの強い香水だろうか。
「いえ、遠慮しときます」
あえて強い口調で彼に返答する。
「まぁたそんな怖い顔しちゃって。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?ほ〜ら、笑って?」
この人本当に何言ってるんだろう。
女慣れしている感じがますます腹立たしい。
相当遊んでいるんだろうな。
「…あの、そろそろここの部屋閉めますので」
「そっかそっか。じゃあまたね!マドモアゼルちゃん」
部屋を去る”カレ”からウィンクと一緒に投げキッスが飛ばされた。
何故あんなにも調子良く居られるのだろうか。
ふんわりと華の香りを纏い、自己肯定感の塊のような態度、口を開けば息を吸うように甘い言葉を囁いてその場の乙女を虜にする。
そんな姿を見てすぐに感じた感想は、
なんだこの人は?
そんな嫌悪感が心の中に沸々と充満していたことを覚えている。
「ねえ聞いて!あのカレに話しかけられちゃってね、今夜どう?って!!誘われちゃったの〜♡」
「キャ〜!!いいなぁ、私も誘われたいなぁ」
彼らが会議をしている大きな部屋の隣の扉の前で、私の周りにいた同僚の女子たちがキャッキャと話す黄色い声を耳にして更に嫌悪感が増した。
もちろん彼らの立場的に一番敬わないといけない存在の方々であるし、挨拶やら受付やら最低限のコミュニケーションは取らないといけない訳なのだが、
例の”カレ”とやらは個人的には一番関わりたくない人物ナンバーワンだったと思う。
そして何よりの要因は、彼らの中にいるとある人物に私は憧れを抱いていて、例の”カレ”はその私の憧れの人にいつも皮肉をかましている行動が見受けられていたからだ。
好きな人を貶されるなんて溜まったもんじゃない。
だから尚更に強い嫌悪を感じていたんだと思う。
まあ結局のところ、そんな感情は後になって粉々に砕かれて覆されてしまうわけだけど───
*****
各国の会議が終わった後、彼らが去った後のこの大きな部屋を手短に片付ける。
同僚の女子たちは「ごめん私お誘いされてるから!あと頼んでも良い?」だの「今日は早く帰らないといけなくて〜」だの残業をしないための口実を各々言い残して、特に用事があるわけでもない私に最後の後片付けを置き去りにして帰ってしまった。
そこまで仕事が苦な訳ではないから良いのだけど。
そんなこんなでコロコロと床の埃をとりながら掃除をしていると、ふと小さな紙切れが目に入る。
拾って内容を確認してみると、この建物の近くの宿発施設の予約券らしい。
きっと誰かの忘れ物だろう。
…というよりむしろ、無いとまずいものなのでは…。
でももしかしたら、私の憧れのあの方の落とし物かもしれない。
そんな淡い期待を抱きながら片付けに戻る。
しばらくして、もうそろそろ帰れそうかなというタイミングで勢いよく扉が開き、一人の男性とパチっと目があった。
「ねぇ、そこのマドモアゼルちゃん。ここに宿泊券、落ちてなかったかな?」
私に向かって話しかけて来た男性は、華の香りを纏う乙女を誑かしている、例の”カレ”。
前言撤回、淡い期待なんて抱くんじゃなかった。
私の勝手な想像はやっぱり想像でしかなかったようだ。
「宿泊券…、てまさか、これですか、ね?」
「あぁ!そうそう!お兄さんってば大事なもの忘れちゃってさぁ。こんなんじゃ乙女たちも部屋に招けなくて困ってたところ」
あぁ、最悪。
なんでよりによってこの人なんだ。
出来れば関わりたくないのに。
「まあとにかく!拾ってくれてありがとね、マドモアゼルちゃん。そうだ、よかったら君も今夜どう?」
宿泊券を渡そうとするとその距離が妙に近くて、ふんわりと薔薇の香りがする。
匂いの強い香水だろうか。
「いえ、遠慮しときます」
あえて強い口調で彼に返答する。
「まぁたそんな怖い顔しちゃって。せっかくの可愛い顔が台無しだよ?ほ〜ら、笑って?」
この人本当に何言ってるんだろう。
女慣れしている感じがますます腹立たしい。
相当遊んでいるんだろうな。
「…あの、そろそろここの部屋閉めますので」
「そっかそっか。じゃあまたね!マドモアゼルちゃん」
部屋を去る”カレ”からウィンクと一緒に投げキッスが飛ばされた。
何故あんなにも調子良く居られるのだろうか。
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