落下する車内だったはずだ。

　俺の目の前に飛び込んできたのは、白いシーツが掛けられた布団だった。

　俺が落下した衝撃に備えた受け身のポーズで着地したのは、薄暗い場所だった。

　オレンジの淡い光が照らすそこは、見慣れぬ場所だった。

　ワンルーム。僅かな明かりの向こうにキッチンとドアが見えた。

　俺は周りを見回していると、明かりの向こうにあるドアが開錠され、ドアが開いた。

「お腹空いた、お腹空いた、弁当、弁当〜」

　中に入ってきた人物は、部屋の電気を付けて、キッチンにある冷蔵庫の上に乗せられた電子レンジに手にしている白い袋に入っている黒い板上の物を入れて、手を洗い、こちらの部屋に入ってきた。

　彼との初対面の瞬間だった。

　部屋の電気をスイッチで点けた彼は俺とガッチリ目が合った。

　眼鏡に黒髪、端正な顔立ち。ダッフルコートにシャツとセーターを合わせた彼は背中にリュックサックを背負っていた。

「うわぁあああっ！　誰？　誰？　誰なんやー！？」

　しかし、彼は俺が彼のベッドの上に土足で上がっているのを見て、再び悲鳴を上げた。

「きゃあああ！　俺の布団に土足で乗っているぅー！！　意味わからんー！！　…」

　散々騒いだあとに、彼は眼鏡を外し、また眼鏡を掛けた後、サッとテレビの前に移動した。

　テレビの脇に置いてある機械の脇に積み上げられたDVDの外箱を取りそれを見てから、俺を見た。

「あー、なーんだ。レオン・Ｓ・ケネディじゃん…」

　外箱は照明で反射して見えなかったが、彼は何かを納得した後にDVDの外箱を元に戻した後にまた俺を見た。

「…ぅえええええっ！！」

　何処から出てきたか分からない悲鳴をあげた彼に俺は苦笑した。

　しかし、彼に言われた言葉に落ち込む。

「…酒くっせ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

　彼は初対面の俺にシャワーを貸してくれた。
　真新しい髭剃りを渡され、着替えを用意してくれた。彼は俺が土足で乗った布団のシーツを交換しながら、俺に「シャワーを浴びろ！　臭い」と言った。

　そして、薄汚い俺の服を洗濯し、代わりに自分の衣服を貸してくれた。身長や体格が似ている事が幸いした。

　下着は、新品を渡された。

　貸してくれたのは、普段は絶対に着ないパーカーとスウェットパンツ。パーカーはフードが引っかかるからだ。

　まるで、10代が着るような服装だ。

　俺のサッパリした姿を見た彼は俺の隣に素早く立つと、四角い板を用いて、俺の肩を抱き、四角い板を起動させると画面には俺と彼が写り込み真ん中の画面端にあるボタンを押すと写真を撮られた。

「うぉっほー！　す、すごっ！　レオンだ！」

「俺を知っているのか？！」

　彼は俺の質問に答える。

「もちのろんだ！　レオン！　キミはめちゃくちゃ有名な…ってこういう話って本人に話して、大丈夫なんかな？　ドッグがあかんって言うとったなぁ…たしか…」

　彼はぶつぶつ一人で話していると、俺の腹の虫が鳴った。

「あ…」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

　彼と小さいテーブルを挟んで、一緒に食事をした。彼が用意したのは、『コンビニ弁当』と言うものだった。レーションよりは、豪華だが味気ない弁当だった。楓が作ってくれたライスボールやタマゴヤキ、タコの形をしたウィンナーやミニトマトが入った弁当を思い出した。

　彼はペットボトルに入っている緑のラベルに日本語で書かれた日本茶を煽り、喉を鳴らして飲む。

　俺は、久しぶりに食べる真面な食事を胃に流し込む。同じように日本茶を流し込んだ。

　弁当の容器を回収した彼はテーブルを挟んで俺と対面する。

「…あっ、自己紹介しよう！　俺は七海航！　いいネーミングだろ？　俺のじーちゃんが付けた名前」

　ナナミは俺に聞いてもいない事をペラペラと話し出した。

　ナナミワタル、27歳。彼女無し、童貞。
　職業は、大学で理論物理学を研究をする博士。

　趣味はテレビゲームとネットサーフィン。
　彼女募集中。

　特技は極真空手。文武両道だ。

　俺も自己紹介をした。簡潔に。