「…俺がいつか、自分の世界で楓と行きたかった場所だ。こんな形で来るとは思わなかったが…」

「… 楓さんさ、実は…結婚した時に駆け落ちして、アメリカに行ったんだ…だけど、こっちの世界のレオンが事故で亡くなって、心配した楓さんのママさんが日本（こっちに）呼び寄せたんだけど…、茜ちゃんが飛行機に乗れる年齢になるまで、待ってから来たんだけど…、茜ちゃんアメリカ（あっち）で色々あって、グレたって楓さん言っていたよ」

「…」

　俺は深呼吸をした。楓はよくグレなかったなと感心する。

　あれだけ、あれば普通はグレる。

「…茜ちゃんとレオンがどう接するかは任せるよ。俺は強制しない」

　ワタルはそう言って、水を煽る。

　運ばれて来た料理。オススメは、ワンプレートにまとめられた鶏肉のソテー、ライス、サラダが乗せられたものだった。

　ワタルと食べる食事はいつも静かだ。
　店内は日曜日なだけあり、観光客や地元の人間が賑わっている。

　食事を終わらせて、今日は俺が支払った。
　俺達が帰る時に、アカネと目が合った。

　アカネはすぐに目を逸らした。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

　翌日、俺は仕事が休みだがワタルは大学で仕事をしに朝早く出かけた。
　机の上にメモと伊達メガネがあった。
　ワタル曰く、俺はこの世界ではある意味有名人だ。だから、メガネを普段は掛けて印象を変えるというものだ。

　俺はワタルの代わりに洗濯、掃除をしたあと俺は昨日見たあの少女の事を考えた。

　また上手くいかなかった…。

　まるで、俺が何度もミスをしているような言い方だった。

　考えていても仕方がないと思い、俺は外出をする事にした。

　俺は、街をぶらついた。
　歩いていると、地元の女性達に話しかけられて写真を一緒に撮ったり、話しかけられたりした。

　しばらく歩いていると、かなり広大な土地に塀が建てられ、巨大な日本家屋が建てられていた。

　何となく、表札を見るとそこには実相寺とあった。

　俺はそれを見た時に何か繋がるような感覚を得た。

　楓の母親の実家かもしれないと思った。

　しばらく立ち尽くしていると、巨大な年季の入った門の脇にある小さな門が開き、高齢の女性が出てきた。

「…あら、家に何か御用ですか…」

　女性に話しかけられ、俺はダメ元で名前を名乗る。

　すると、女性は俺に「ずっと待っていましたよ」と言った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

　女性に案内され、敷地内に入ると広大な敷地の中にあるとある家屋に案内された。

　玄関で、靴を脱ぎ、中に入る。
　畳の和室が広がる。アメリカにいた時はテレビで見だ事がある位の場所にいる。

　女性は俺に日本茶を出してきた。日本茶は楓が好きでよく出された。

　俺も好きな物だ。

「まず、どこから話しましょうか…。私は、あなたの世界の楓さんをあなたが探しに来た時に助けるのが役目です」

　突然だった。

「ど、どういう事ですか？」

「あなたは、楓さんを守ってあげる騎士様になられましたよね？　あなたは楓さんと出会うと必ずそのプロセスを踏みます。契約の接吻を交わしますが、あなたは途中で様々な要因から契約違反をしていました。だから、楓さんは死ぬまたは消えて行くのです」

「契約違反…」

「あなたは、他の女性と接吻をしましたね？」

　それに、俺はやはりかと思った。

　あの時アパートの共同廊下でしたエイダとの接吻を思い出した。

「…しました」

「騎士様は、契約者以外との接吻、まぐわう行為をしてはいけません。あなたが彼女に渡す“気”が薄れるのです」

「…俺のミスです…ね」

「もう、次は有りません。あなたは彼女を99回失ったのですから…」

　99回という回数に俺は固まる。
　俺が、初めて会った時に感じた気持ちにようやく腑に落ちた。

　俺は何度も何度も彼女を失い、また彼女を探して彷徨い、また出会うという事を繰り返していた。

　繰り返し大人になって、何度も逝ってしまい、彼女を思い焦がれて時が過ぎる。

「そして、騎士様にはもうこの実相寺家の忌まわしい連鎖を断ち切ってほしいのです。橘家のお坊ちゃんからずっと預かっていた物があります」

　女性は俺に布で包まれた物を渡してきた。
　それを広げてみると、そこにはPhoenixのドライバーIDとPhoenixの鍵。

「これ…」

「騎士様には、白馬が必要でしょ？　しかし、まだ、あなたは帰れない。帰れない理由は、楓さんの娘さんを助けてあげるためです。この世界のあなたが私に死ぬ直前に連絡をしてくれましたから、その約束を守ってあげてください。時が来たら、またいつでも、ここに来てください。実相寺家のこの残酷で、馬鹿げた事を終わりにしてください。そして、あなたは一人ではありません。仲間がいます。皆と協力してください。私は時子と言います…この地で何か困った事が有れば私に頼りなさい…そして、これを渡します」

　そう女性が言うと、分厚い書物を風呂敷に包み持たせてくれた。

「騎士様に代々渡しています、頑張ってくださいね…」
」

　そう言うと女性の体が光に包まれて、体が光の中で変形し、一体のユニコーンになる。

「楓さんの体に流れる私を鎮めてくださいね…あなたにしか出来ませんよ…」