魔法少女ペチカはヒーローである。

お母さんが最後に帰ってきてから2週間。おにぎりやパンはとっくに食べ切って、少しずつ食べていた内緒のチョコレートも無くなった。後で叩かれちゃうかもしれないから悩んだけど、どうしても辛くて舐めていたマヨネーズもついさっき底をついた。
いくら水道の水を飲んでもお腹が空いたままで、布団代わりに敷かれた段ボールを齧ってみてもそれを噛む元気すら残ってなくて。この固い板がむかしお母さんが作ってくれたふわふわのホットケーキだったら、なんて考えながら目を閉じようとしたその瞬間。頭の中にとあるヒーロー・・・・の記憶が流れ出した。
智香そっくりのその女の子はコックさんの帽子と可愛いドレスに身を包み、たくさんのかわいいヒーロー達と共にお鍋を囲んでいる。場面が切り替わり大きなフライ返しで怪物と戦うその姿はテレビに映るヒーローそっくりで。そのままぼんやりと眺めていると、その女の子は激しい戦いの中で地面をまるごとスープに変えてヴィランを追い詰める。その姿を見てなぜか私はできる・・・と思った。

できる?なにが?……わからないけど、今なら私は彼女になれる。そう何故か思い込んだ智香は、小さな噛み跡か残った段ボールに手を伸ばした。

これはヒーロー【ペチカ】のオリジン。
平凡な少女が憧れのヒーロー魔法少女を目指すべく駆け抜ける物語。


段ボールだったふわふわのホットケーキを胃に収め、鍵のかかったドアをあの子みたいに南瓜のスープに変えて、智香は部屋から脱出し無事に警察へと保護された。
その後小さな孤児院に預けられた智香はなかなか同年代の子供たちに馴染めずにいたが、院長先生や兄妹たちに優しく手を引かれ続けた結果心を開き、少しずつ自分のやりたいことを口に出せるようになっていった。
はじめての我儘で作ってもらったホットケーキは暖かくて、泣きながらおかわりをした智香を見た院長先生がとても優しい顔で笑うので、すっかり先生のことが大好きになってしまったのだ。


10歳の誕生日を迎え院の中でも年長さんになった智香は院長先生にお願いして憧れのヒーローになるための特訓の許可を貰った。学校がある日は院長先生の朝ご飯や夕飯を作るお手伝いをして、休みの日は庭の草むしりで出た雑草や段ボールを貰いスープやおにぎりに変えてお弁当箱に詰め、孤児院の周りを走って体力作りをするのが日課になっていた。

特訓をしていて気付いたことはたくさんある。
料理に変えれるのは智香が目一杯広げた手のひら4つ分。それ以上たくさんを変えるには少し時間がかかるし、あんまりやりすぎると手のひらがピリピリして頭が痛くなってしまうこと。
智香の知らない料理は色水や粘土のように味がしない何かになってしまうこと。……あの子が作っていた南瓜と海老の冷製?スープを食べてみたかったけど、邪魔になっていた庭の石はほかほかの南瓜スープになってしまった。きっと智香が食べたことがあるのはカップの南瓜スープだけだったからだ。すこし残念。


とにかく沢山の料理を学びながら体力を付けて個性も鍛える。そんな毎日を続けている内にいつの間にか智香は中学生になっていた。内気な智香は自分から話しかけたりするのは苦手で、クラスの中で目立たないグループに所属してなんとなくの人付き合いに留めたまま受験シーズンまで来てしまった。

「建原さんは進路ってもう決めた?」
「えっと……私は雄英に行こうかなって。」
「うそー!あの雄英!?偏差値も倍率も高いって聞いたよ!?」
「智香ちゃんってヒーロー志望だったの?」
「あっ、うん。そうなの。ヒーロー科はちょっと厳しいけど、普通科でも雄英出てるとお得だから。」
「なるほど、堅実……。」
「智香ちゃん頭良いもんねー。」
「頑張ってね建原さん!わたし絶対応援するから!」
「ありがとう、頑張ります!」

愛想があまり良い方では無い智香にも声をかけてくれた友人たちに胸が温かくなる。
先生にも智香の偏差値なら問題が無いと太鼓判を押され、院長先生と相談しながら奨学金についても勉強して、いざ受験に備えるのみ!と思っていたある日雄英高校から封筒が届いた。
もしかして願書に不備があったのかと慌てて開封すると、どうやら私の個性を知った雄英の先生が是非とも特別推薦で招きたいと言ってくれたそうだ。びっくりして院長先生に相談すると、もし本当だったらこんないい話は無いから一度話を聞いてみましょうと電話をかけてくれた結果、面接も兼ねて雄英高校に向かうことになったのであった。


「つまり、新しく作られる支援系個性推薦枠に私を選んで頂けた……ということでしょうか。」
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