ハッピー×ハッピー
・腐向け(予定)です。
・出久×夢主
・暴力描写や悲惨な描写を含みます
なんでも許せる方のみどうぞ
・・・
幸与 幸 の人生はごくごく当たり前に平凡なものだった。
明るくてドジな母親との二人暮らしはいつも笑いが絶えず、プロヒーローとして多忙だったであろう母はできる限り自分との時間を取ろうとしてくれていた。そのせいでサイドキックの人とは喧嘩ばかりで、毎日俺にハグしては引きずるように連れて行かれる光景は、我が家にとって日常みたいなものだった。
どんなに忙しくても欠かさず持たせてくれたお弁当は幼い俺にとっては宝物だったからあの日の中身も鮮明に思い出せる。ちょっぴり焦げた卵焼き、占い付きの冷凍海老グラタン、タコの形のウィンナーはどれも俺が大好きだったものばかりで。……もしかしたら母は持ち前の第六感でなにかを感じとっていたのかもしれない。
5時限目の体育の授業、先生に呼ばれてよく分からないままに向かった職員室には、いつも母と喧嘩していたサイドキックの人が待っていて。
……そこから先はよく覚えていない。サイドキックの人はしきりに声をかけたり背中を摩ったりしてくれていたが、幼い自分にはうまく噛み砕くことが出来ずにただただ放心していた。
襲撃事件の後方に配置されていた母は、流れ弾から怪我人を庇い内蔵を大きく損傷。ヴィランの攻勢は激しく、やっと病院へと搬送された時にはとっくに手遅れだったらしい。
「個性で自己を修復すればもしかしたら助かっていたかもしれない。だがそれでも重症の民間人に治療を施し続けた。そのお陰で死傷者はゼロ。ハッピー・ハッピーは最後まで立派なヒーローでした。」
一時保護された先で流れていたニュースではみんなが母のことを褒めている。立派であった、ヒーローであったと。彼女の献身が多くの民間人を救ったのだと。
サイドキックの人がすぐに消してしまったからそれ以上はわからない。でもきっと母は、お母さんは、ハッピー・ハッピーは正しくて凄いことをしたのだと。そのコメントに対して腹が立って叫び出したくなる自分の方がおかしいのだと。
そう自分に言い聞かせて思考を止めないと頭がおかしくなりそうだった。
・・・
その後俺は残党に狙われないため、という名目で預けられた孤児院でほぼ監禁に近い暮らしを強いられた。どうやら母の個性はかなり貴重なものらしく、自分の勢力に引き込みたいと考えている者は少なくないらしい。母という後ろ盾を無くした俺は連中にとって絶好のカモだったんだろう。
そこからの日々は思い出したくもない。まだ小学生だったおれを従わせるために振るわれた暴力や食事に混ぜられた薬の数々に、徐々に俺の心も個性もすり減っていた。ぼーっと天井を見つめては幸福な思い出をなんとか反芻して死なないようにする事以外、何も考えられないくらいには終わってたんだと思う。
しかし比較的平和な日本でそんなことを続けていればいつかはボロが出る。孤児院は不正な金の動きとやらで怪しまれ、呆気なく関係者は捕縛され解体となったらしい。
薬漬けでまともに身体を動かせず、知能は小学生のままの青年、という厄介ごとでしかない俺は中々引き取り手が見つからず、そもそも一般家庭ではまた同じような事件が起きた際に守ることができないのでは?と、俺は特別保護枠として警察預かりとなるのであった。
とは言ってもしばらくは薬物を身体から抜くための入院生活だったので、ようやく社会復帰出来たのは2年後。本来であればちょうど中学を卒業するであろう頃だった。
まだ身体は不自由で場合によっては投薬も必要だから、と最初は反対されていたが、俺は必死に頼み込み保健室登校なら……となんとか了承を得て中学校へ通わせてもらった。
すでに自分はセキュリティと医療体勢が整っている遊英預かりになることは分かっていた。俺自身の身を守るためにもヒーローにならなくてはいけないからだ。
けど、俺はヒーローになんかなりたくない。俺から母さんを奪った事件を名誉ある死なんて讃え方をする奴らのために死にたくなんかない。でもそれ以外に道はないから、俺はヒーローになるために生きて死ぬしかない。
だから遊英入学までの数ヶ月を、幸与幸の余生にも等しい時間を、自分のために使いたかった。最後くらい普通の生活がしたかったのだ。
・・・
なんて意気込んではいたものの、卒業間近に転入して来た保健室登校の生徒なんて、すでに形成されたコミュニティに入り込むことなど出来ずに見事に腫れ物扱いで。自分の見通しが甘すぎたことを悟った。
少しはハッピーが貯まるかな、なんて打算が無かったこともないがそれにしたってあんまりである。むしろ数年ぶりの学生生活もあってストレスはストップ高。タンクの中身がゴリゴリに削れていく日々は非常に虚しいものであった。
個性のせいでいつもより重だるい体を引きずって廊下を歩く。理科準備室までの道のりが途方もないものに思えた。ふらふら揺れる体を制御しきれずに廊下の中腹で座り込んでしまう。
こんな事なら少しでも褒めてもらおうと頼み事を引き受けるんじゃなかった。荒い息を整えながらどうにか立ち上がろうと床に手を突いて__
「……ねえ、君大丈夫?」
・出久×夢主
・暴力描写や悲惨な描写を含みます
なんでも許せる方のみどうぞ
・・・
明るくてドジな母親との二人暮らしはいつも笑いが絶えず、プロヒーローとして多忙だったであろう母はできる限り自分との時間を取ろうとしてくれていた。そのせいでサイドキックの人とは喧嘩ばかりで、毎日俺にハグしては引きずるように連れて行かれる光景は、我が家にとって日常みたいなものだった。
どんなに忙しくても欠かさず持たせてくれたお弁当は幼い俺にとっては宝物だったからあの日の中身も鮮明に思い出せる。ちょっぴり焦げた卵焼き、占い付きの冷凍海老グラタン、タコの形のウィンナーはどれも俺が大好きだったものばかりで。……もしかしたら母は持ち前の第六感でなにかを感じとっていたのかもしれない。
5時限目の体育の授業、先生に呼ばれてよく分からないままに向かった職員室には、いつも母と喧嘩していたサイドキックの人が待っていて。
……そこから先はよく覚えていない。サイドキックの人はしきりに声をかけたり背中を摩ったりしてくれていたが、幼い自分にはうまく噛み砕くことが出来ずにただただ放心していた。
襲撃事件の後方に配置されていた母は、流れ弾から怪我人を庇い内蔵を大きく損傷。ヴィランの攻勢は激しく、やっと病院へと搬送された時にはとっくに手遅れだったらしい。
「個性で自己を修復すればもしかしたら助かっていたかもしれない。だがそれでも重症の民間人に治療を施し続けた。そのお陰で死傷者はゼロ。ハッピー・ハッピーは最後まで立派なヒーローでした。」
一時保護された先で流れていたニュースではみんなが母のことを褒めている。立派であった、ヒーローであったと。彼女の献身が多くの民間人を救ったのだと。
サイドキックの人がすぐに消してしまったからそれ以上はわからない。でもきっと母は、お母さんは、ハッピー・ハッピーは正しくて凄いことをしたのだと。そのコメントに対して腹が立って叫び出したくなる自分の方がおかしいのだと。
そう自分に言い聞かせて思考を止めないと頭がおかしくなりそうだった。
・・・
その後俺は残党に狙われないため、という名目で預けられた孤児院でほぼ監禁に近い暮らしを強いられた。どうやら母の個性はかなり貴重なものらしく、自分の勢力に引き込みたいと考えている者は少なくないらしい。母という後ろ盾を無くした俺は連中にとって絶好のカモだったんだろう。
そこからの日々は思い出したくもない。まだ小学生だったおれを従わせるために振るわれた暴力や食事に混ぜられた薬の数々に、徐々に俺の心も個性もすり減っていた。ぼーっと天井を見つめては幸福な思い出をなんとか反芻して死なないようにする事以外、何も考えられないくらいには終わってたんだと思う。
しかし比較的平和な日本でそんなことを続けていればいつかはボロが出る。孤児院は不正な金の動きとやらで怪しまれ、呆気なく関係者は捕縛され解体となったらしい。
薬漬けでまともに身体を動かせず、知能は小学生のままの青年、という厄介ごとでしかない俺は中々引き取り手が見つからず、そもそも一般家庭ではまた同じような事件が起きた際に守ることができないのでは?と、俺は特別保護枠として警察預かりとなるのであった。
とは言ってもしばらくは薬物を身体から抜くための入院生活だったので、ようやく社会復帰出来たのは2年後。本来であればちょうど中学を卒業するであろう頃だった。
まだ身体は不自由で場合によっては投薬も必要だから、と最初は反対されていたが、俺は必死に頼み込み保健室登校なら……となんとか了承を得て中学校へ通わせてもらった。
すでに自分はセキュリティと医療体勢が整っている遊英預かりになることは分かっていた。俺自身の身を守るためにもヒーローにならなくてはいけないからだ。
けど、俺はヒーローになんかなりたくない。俺から母さんを奪った事件を名誉ある死なんて讃え方をする奴らのために死にたくなんかない。でもそれ以外に道はないから、俺はヒーローになるために生きて死ぬしかない。
だから遊英入学までの数ヶ月を、幸与幸の余生にも等しい時間を、自分のために使いたかった。最後くらい普通の生活がしたかったのだ。
・・・
なんて意気込んではいたものの、卒業間近に転入して来た保健室登校の生徒なんて、すでに形成されたコミュニティに入り込むことなど出来ずに見事に腫れ物扱いで。自分の見通しが甘すぎたことを悟った。
少しはハッピーが貯まるかな、なんて打算が無かったこともないがそれにしたってあんまりである。むしろ数年ぶりの学生生活もあってストレスはストップ高。タンクの中身がゴリゴリに削れていく日々は非常に虚しいものであった。
個性のせいでいつもより重だるい体を引きずって廊下を歩く。理科準備室までの道のりが途方もないものに思えた。ふらふら揺れる体を制御しきれずに廊下の中腹で座り込んでしまう。
こんな事なら少しでも褒めてもらおうと頼み事を引き受けるんじゃなかった。荒い息を整えながらどうにか立ち上がろうと床に手を突いて__
「……ねえ、君大丈夫?」