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芸能界パロ

水の音と共に、聞いたことのない曲が未だ交合の余韻が抜けぬ頭の中に流れてくる。
「…………あー…………こりゃ没だなぁ」
せっかくの良い曲が桓騎の声に遮られて、雪は不服そうな顔を見せた。
「ん……?目が覚めたか、雪」
「ああ……勇ましく囀る鷲の声だった故、子守歌かと……」
と皇帝然とした口調で言いかけたが、ハッと気付いて咳払いをする。
そして、
「『Bloody Flame』のインディーズの頃の曲みたいなかっこいい感じだったから、とてもいい感じだったけど……没にしちゃうの?」
と、桓騎と向き直って言い直した。
それを聞いた桓騎は、少し寂しそうな顔をしてから雪の頬に手をやって何度か撫でる。
「少なくとも、今の『Bloody Flame』にはちょっとな……という感じだろ?白老にスカウトされてメジャーデビューして以来、メタルのサウンドを全面に出すのは封印した」
桓騎の言葉を聞いて、雪は頭の中にいくつかの曲を思い浮かべる。
そうして、ああ……そういうことだったのか……と、納得した。
「――そうだとしても、私は『Bloody Flame』の音楽が好きだよ。桓騎の声には、人を魅了するそれがあるし……その声で『最後まで思うまま進め』とか言われたら勇気が出るし……」
雪は桓騎を優しく抱き締める。
すると、桓騎は「そういう時」のように雪の腰を撫でた。
「な……桓騎……?」
「……こんな熱烈なラブコールされて、応えないでいるのは……なぁ?」
「も、もう……!って、ここで……するのか……?」
「むしろなんで戸惑ってんだ?雪が俺と初めて肉体関係を持ったのがどこだったか……忘れてなんかねぇだろ?」
それを聞いて、たちまち雪の顔が赤くなる。
「そ……俺たちが最初に繋がったのは、震国の皇帝の避暑地……あの時のめくるめく逢瀬……ただの男と女の、愛と快楽を得るSEX」
――昼も夜も、政や民のことも気にせず、空白の時間を埋めるようにひたすら愛を交わしあった……あの時。
あの時は、寝所だけでなく東屋や浴場でも愛し合った。
そして李牧の手によって「女」にされた雪は、その時の桓騎の手によって更に「傾国の女」へと変わってしまった。
雪が天青国に戻り、李牧と会った時に、桓騎の香の香り……今で言う「ホワイトムスク」に近い香りがしたため、李牧は震国で何があったか全て悟ったらしい。
そうして、ますます李牧も雪に溺れることになったのである……。
「――そうであった、お前たちは別にどこであろうとも私を求めるのだったな。……さて……此度はどうやって私を……?」
雪の言葉を聞くと、桓騎は雪を抱えて浴槽から出る。
「李牧の奴、体よくヨガマットを風呂場に置きっぱなしにしてるようだからなぁ」
流れるようにヨガマットを敷いた後、桓騎は雪をそこに寝かせた。
「やはりお前の慧眼は全く狂いがないな」
桓騎を褒めている内に、雪は脚を大きく広げられた。
「さっきは微妙に暗かったが、今ならハッキリ見えるな……雪の――が」
桓騎の妖しい目がジッと雪の秘められた場所を凝視しているのを見て、雪は羞恥で蜜壺をヒクつかせる。
「そんな……まじまじと見ないで……」
「アァ……?今更隠すもんでもねぇ……だろ?」
それはそうだが、と雪は桓騎の言葉に同意するが、それでも恥ずかしいものは恥ずかしい。
「桓騎……」
「前の世でも下生えは薄かったが、此の世ではツルツルにしてんだ……より俺や李牧と密着できるだろ?」
そう言われて、思わず雪は桓騎の屹立を見てしまう。
「そういえば……さっきの時も、すごく……」
「よかっただろ?……思い出したら濡らすくらいには、な」
桓騎は、雪の蜜壺にぐぷりと指を差し入れる。
「あ、あぁっ……」
「さっき、名器かどうか証明してやるって言ってたよな?」
「そうだな……どうだった?特に差し障りのないものだと思うのだが」
桓騎は、それを聞いて不機嫌を表現するように指を中で拡げた。
「う、あっ……!子種が……!!」
蜜壺で混ざりあった李牧と桓騎の欲液が、ドロリと入口から垂れる。
「特に差し障りのない――だと?ハッ……ミミズ千匹、数の子天井、タコ壺、俵締め、他にもまだあるが……此の世でも奇跡かってくらいの名器だぜ、雪。それに、濡れやすい……並の男なら3分と持たねぇ……な!」
勢いよく指を抜いた後、桓騎は深々と蜜壺に屹立を突き刺した。
「いっ……あっ……!」
「雪の蜜壺は普通の女より襞の数が多い……それでもっともっととうねるし、誘われてナカに入れると先がザラザラしてて病みつきになる……ま、そんで極めつけのようにエロい締め付けで男はイッちまうんだが。李牧も珍しくすぐイッてたしな……前の世のレベルを想定してたら、それ以上だったんだろうなぁ……ッツ!……そんな俺も、想像以上のエロい――でますます惚れちまったぜ、雪……愛してる」
桓騎が滅多に言わない愛の言葉を耳元で囁かれた雪は、それは最早絶頂へと至るトリガーのようなものだった。
「だめ、だめぇ…………!!」
「うっ……!やべぇ、ますます締め付けてきやがる……!」
桓騎は、本能のまま雪の蜜壺で深い快楽を得ようとする。
交合に耽る男女の息遣いと、肌と肌がぶつかる音が浴室内に響く。
「雪、自分で脚を持て……!」
桓騎は、空を泳いでいる雪の手を掴んで自らの脚を持たせる。
「んあっ……!あっ、桓騎っ……奥っ……!奥ぅ……!入口と先っぽがキスしてるよぉ……!!」
「あぁっ……こうやって下の口でもっ……!キスできるんだぜ……!」
そうして奥に奥にと屹立を押し込みながら、桓騎と雪は口付けを交わす。
一際奥を突いて突かれて、桓騎と雪は深い絶頂を手にする。
欲液を欲する締め付けに応えるように、屹立は蜜壺を真っ白に染め上げんべく長く長く欲液を吐き出し続ける。
その勢いの良さで、雪の蜜壺はますます締め付けを強くした。
――絞り尽くして来やがる。
つい先程処女を失ったばかりであるはずの雪の蜜壺の貪欲さが、愛おしくて仕方ない。
ようやく絶頂から落ち着いた二人は、互いの体の結合を解く。
屹立が抜けきった後、雪の蜜壺からはいやらしく桓騎の欲液が溢れる。
「また、いっぱい出たのね……桓騎や李牧は、絶倫なの?」
「おそらく、雪限定の絶倫だな」
そう来たか……と、思っていると、桓騎は雪の花芯に舌を這わせた。
「んんっ……!さすがにもう一度は無理だ……!」
「分かってるって、綺麗にしてやってるだけだよ」
本当か?と、疑って雪が身を起こすと、桓騎はニヤリと笑ってわざとらしく舌を見せて花芯を舐める。
「っは……」
その息と呼応するように、蜜壺は口を開いてドロリと欲液を吐き出す。
「……ッツ!」
あまりの淫靡さに、雪は口元を押さえる。
「これは王翦に教えてもらったんだぜ」
「な……王翦……の、父様……に……?」
自分が天青国の公主と知る前は真の父だと思っていた王翦の名を出され、雪は混乱する。
「王翦はパドミニ様とベタベタの夫婦だからなぁ……愛し方に関しては、王翦と割と話が合う」
「父様……………………」
前の世で王翦とパドミニは愛し合っていたからこそ敢えて別れて政争の渦へと飛び込んだというのを思い出して、雪は頭を抱えた。
ならば、此の世にて再び執着の強い王翦が前世の我が母・パドミニに出会ったらどうなるか……想像するのは朝餉の前でも容易だった。
「さて……そろそろ李牧も寝所の準備を終えているはずだ……しっかり洗い流して、もう寝ようぜ。詳しい話は、起きてからだ」
「ん?詳しい話……?」
「あぁ、まぁさっき俺が決めたことだからな。そんな大した話じゃねーよ」
いや、そんなはずはあるまい、とその策を思い付いたような顔を見ながら雪は感じたが、かと言って今聞いても情報を処理できる体力・気力はないと知っているので素直に従う。
二人で軽くシャワーを浴びた後、寝室で待っていた李牧と共に三人で安らかな眠りについたのだった……。

――翌朝。
「あれ…………」
目が覚めた桓騎と李牧は、間にいたはずの雪の姿がないことに気付く。
「まさか夢とか!?」
「馬鹿!あんなにガッツリSEXしてそんなことあるかよ!」
李牧と桓騎が雪の行き先を考えていると、
「おやおや、相変わらずだなぁ」
階下から雪の声がする。
「雪様」
「朝ごはんを作ったよ、降りておいで」
「えぇ……」
予想外に家庭的な雪に、二人は戸惑う。
とりあえず下に降りると、テーブルには温かそうな鹹豆漿(シャントウジャン)が乗っていた。
「24時間営業のスーパーにも行ったが、簡単なものしか作れなくて申し訳ない」
簡単とは……と、李牧と桓騎は顔を見合わせた。
「あれ……もしかして朝ごはんはパン派だった?」
その選択肢があることに気付いて、雪はしまったという顔をする。
「い、いえ……!そのような……!陛下御自ら作られた食を賜うなど、あまりに畏れ多いと……!」
「此の世では、もう皇帝ではないと昨夜も言ったであろう……それに前の世では李牧や桓騎、そして政や春申君はおろか、民にも茶を振る舞っていたではないか」
――その気前の良さが、春申君様に付け入る隙をお与えになったのでしょうに。
しかしそれが雪という皇帝の唯一性や神聖性を高める一端でもあるのだから、頭ごなしに否定するのは筋が違うというもの。
「でしたら、後片付けはこの李牧と桓騎にお任せくださいませぬか」
「……わかった、お任せするね」
李牧はようやくそれで納得したようで、テーブルに着く。
「はい、それではいただきます」
雪の号令で、三人は鹹豆漿を口にする。
桓騎は心から嬉しそうな顔をして、
「雪は料理の才能もあるんじゃねぇか」
と、雪を褒めそやした。
それに対し、
「あ……いや……私は高校まで児童養護施設にいたの……それで、皆にご飯をよく作っていたから……慣れてるだけ」
と、予想だにしない答えを雪がしてきたので二人は固まる。
「え…………?」
「は…………?雪が、かよ」
単純に驚いた李牧とは対象的に、桓騎はグッと唇を噛んだ。
「あ、いや、児童養護施設はそんな世間で思われてるような寂しいところじゃなくて……単に私が里親を拒み続けただけなの……。記憶がなくても、引き取られた後に……この顔が家庭にもたらすものは決していいものではないと……体の底で察していたんだな……と、今では思う」
――それは、立場によりては破滅を招く。
と、これは前の世で公主の号を賜る際に高名な人相見に言われた言葉だった。
決して現代の里親制度に、多大な問題ありというわけではない。
センセーショナルなことばかり取り上げられるから、偏見を持ってしまうのだ……。
しかし幼い頃から傾国の素養を備えていた美しい雪を何ら邪心なく育てられるのは、それこそ廉頗や藺相如、王翦、蒙驚といった前の世にて雪の幼少期を見守ってきた者たちくらいだろう。
……と、李牧と桓騎は悔しいが納得するしかなかった。
それでいて特待生で有名大学を優秀な成績で卒業し、天職として廉頗のマネージャーになったのだから、雪は驚異的な努力家とするに相応しい。
「本当に……あなたには敵いません、雪様」
「雪……お前って奴は……」
「そんな、別にすごいと思ってもらう必要なんてないから……。あ、だからクリスマス当日はごめんなさい、子どもたちとの先約があって……。あなた達のことだから、きっと何か大きなイベントを用意してくれるつもりなのでしょうけど……」
その通り、どこかいいレストランでクリスマスディナーを……と考えていた二人は図星を喰らう。
「だったら、雪様……あなたのお手伝いを、させてくれませんか」
「そういえば今年は俺もクリスマスLIVEじゃなくて年越しLIVEにしたから、雪の手伝いができるぜ」
「本当?だったら施設長に何かできないか相談してみる。実は最近は、現物よりも現金の方がありがたいの。その方が、施設の子たちが本当に欲しいプレゼントを贈れるから」
それよりも、早く食べないと冷めちゃう……と雪は話を終わらせて鹹豆漿を口にする。
せっかくの温かいものだ、と李牧と桓騎も納得して鹹豆漿を美味しそうに食べたのだった……。

**

――午後。
雪は桓騎に連れられて秦プロダクションのオフィスに来ていた。
そして、前の世以来に王翦とパドミニに再会する。
「お久しぶりでございます」
「雪…………!!」
パドミニは、雪を抱き締める。
「『Schnee』の広告が出た時には、本当にびっくりしたんだから……!あなたも此の世に生まれてきてくれてたんだって」
「そんな……」
「此の世では血の繋がりはないけれど、私と王翦様を本当のお母さんやお父さんだと思って頼ってくれていいのよ?」
そう言われて、雪はびっくりする。
「しかし……」
「あなたは、此の世でも世界一幸せになる権利があるの」
「か、母様、父様…………」
此の世で初めて発するその言葉に、雪は涙を流した。
「雪はもう、李牧と桓騎に出会えて世界一幸せです。それなのに、母様と父様にまた会えるなんて……」
これほど嬉しいことはありません、とパドミニを抱き締め返した。
ほう……と、王翦と桓騎はその美しい親子にため息を漏らす。
「……ところで、お前が魏所属の雪を秦プロダクションにわざわざ連れてきたのには何かあるのであろう?」
その見とれているのから正気に戻った王翦は、桓騎に問いかけた。
「あぁ、あるぜ。大アリだ」
「その言い方、ろくなものではないな」
「アァ?むしろ雪を『Bloody Flame』に呼ぶところのどこがいけねぇのか教えて欲しいくらいだぜ」
「え……?」
雪は、桓騎の発言を聞いてキョトンとする。
「あら、いいんじゃないの?」
パドミニは、思いの外すんなりと賛成した。
「パドミニ……確かに、お前の娘故……歌舞には秀でておろうが……」
「いいじゃない『Schnee』には顔、『Bloody Flame』には声で売り出せば。桓騎が呼ぼうって決めたんでしょ、なら間違いないはず」
う、と王翦は反論の余地を無くして黙り込んだ。
「さすがパドミニ様、雪の才を見抜いておられる。……ってことで、これから『Bloody Flame』の他のメンバーに会わせてくるわ」
「ちょ……ちょっと……待って桓騎……!」
ガシッと雪の手を掴んでから、桓騎は王翦とパドミニの元をあとにした。
そして、途中で震国の将軍だった騰などとすれ違うも会釈だけで済まして、『Bloody Flame』の他のメンバーがいるスタジオに辿り着いた。
「…………陛下…………!」
雪の姿を見た瞬間、『Bloody Flame』のメンバー……かつての桓騎の配下たちは一斉に拱手をした。
「待て待て、そのように畏まるな」
「しかし……」
「私はもう皇帝じゃないから……それに、音楽の先輩!」
「そんなこと言われても、こいつらにはいきなり対等……ってのは難しいから、許してやんな」
桓騎は、雪の肩を優しく持つ。
「……さて、桓騎。お前にはいくつか聞かねばなるまい……まず、私を『Bloody Flame』に呼ぶだと?」
「あぁ、これは嫌と言ってもやらせる。じゃねぇと12月発売のアルバムは発売中止だ」
「は……?そんなお前の一存で何百、何千もの人を巻き込むのか!?」
雪は、桓騎がことも無げに言った言葉の重大さに震える。
「それよりも、出来のいい曲を提供するのがプロの役目だ」
「確かにそうだが……しかし私は此の世の歌に関しては、素人に近いぞ」
「足りねぇところは、俺がキッチリ指導してやるよ……。心配すんな、お前の声にも……人を惑わすそれがある」
確かに、天青国の兵を奮い立たせることはできたがな……と、雪は思い直すが釈然としない。
「……分かった。では一曲『Bloody Flame』の曲を歌って、黒桜や摩論達が納得したら受けようでないか……。リクエストは?」
「はいはいはいはーい!!」
それまで雪に見惚れていたらしいオギコが、勢いよく挙手した。
「久しぶりだな、オギコ。君のリクエストならば、『Bloody Flame』の本質を突いていよう」
「オギコはねー、雪様にお頭が雪様の為に作った曲を歌ってほしいなー!!」
「ほうほうそうかそうか…………んん?」
雪は、桓騎の方に視線を向ける。
「オギコてめぇ……。チッ!雪、2時間やるから……その間に練習しとけ」
雪に一通りの楽譜を渡してから、桓騎は部屋を出て行ってしまう。
「はぁぁ〜〜??桓騎はどういうつもりなのだ?」
雪に渡された楽譜を横から見た黒桜と摩論は、
「あー……これ確かに『Schnee』の広告見た時に作ってた曲だねぇ」
「作ってから『没!』とか言ってデモ収録もしなかった奴ですね、なるほど……陛下が歌われる想定で作ったんでしょうな……」
と、曲ができた経緯を思い出す。
「いやしかし、これかなり歌いにくいだろう……参ったな、一度音を聞いてみたいが……演奏してくれるか?」
「陛下がお望みならば」
急いで楽譜をコピーして、メンバー総出で音をいくつか合わせる。
「じゃ、通しで演奏してみるから聞いてな。それと厘玉、録音して」
黒桜の合図で、メンバーは曲を演奏し始める。
雪は、楽譜と共に音を追う。
――確かに、これは桓騎が歌ってもかっこいいけど……今の『Bloody Flame』にはそぐわないのかもな……。
そこで、雪は昨晩の桓騎の言葉を思い出す。
――もしや桓騎、想像以上に没曲を作っているのでは……?
メジャーデビュー以降はインディーズ時代の桓騎が得意としていたメタルサウンドも鳴りを潜めた曲も多いし、突然そのジャンルの曲が作れなくなったとは考えにくい。
そうなると、考えられるのは一つ……。
――作れなくなったんじゃない、作って、歌わなくなったんだ。
雪は、そのことに気付いて目が潤む。
桓騎が、再び世界の片隅に閉じ込められてしまっていたことに。
前の世よりも此の世のそれは名声を手にした故、まだ報われていたのかもしれない。
しかし、桓騎はそれで満足するような男ではないと知っている。
――自由に歌えないから、自由に歌える私に曲を託したいんだ。
それを知って、楽譜を抱き締める。
「桓騎……お前は、私に」
「――陛下」
摩論は、雪の前に膝を着く。
「ありがとう……『Bloody Flame』……その更なる躍進に、私も協力させてもらいたい」
摩論や黒桜たち『Bloody Flame』のメンバーが見た雪の顔は、固い意志を宿したものだった……。

――2時間後。
桓騎は、王翦やパドミニ、白老こと蒙驚を連れてきて戻って来た。
「あ、お頭ー!」
オギコが桓騎に気付いて、雪たちはハッと演奏を中断する。
「白老のお爺様!」
「おお、雪。大きくなったのぉ」
「はい、白老のお爺様も元気そうで嬉しいです」
フォッフォッフォッと調子のいい笑い声を上げて、蒙驚は雪の頭を撫でた。
「相当練習してたみたいじゃねぇか」
「桓騎が作ってくれた大事な曲だ、誠心誠意挑まねばなるまい」
雪の顔は、慈愛に満ちたものだった。
「……そうか、なら……聞かせてくれ」
「心得た。皆、頼む」
「これは念の為録音したほうが良さそうね、聞く側の人たちはコントロール・ルームに退避しましょう」
パドミニの声で、桓騎達は移動する。
「準備オッケーよ、雪。思い切りやってちょうだい」
「ありがとうございます、母様」
その声聞いた後に、雪は目を閉じて深く深呼吸をする。
「…………!!」
そして目を開けた瞬間、かつての戦陣に立っていた時のような気迫に近いオーラを感じる。
それと共に『Bloody Flame』のメンバーは演奏を始めた。

 生きるは毒杯 杞憂の苦しみを
 飲み干す術を誰か授けよう

ダークで独自の世界観を持つ難易度の高めな歌詞を、雪は難しそうな様子を見せずに歌い上げていく。
「嘘……雪、本当に本格的に歌うのはこれが初めてなの?」
「これは舞台のオーディションでも十二分に通用するではないか」
パドミニと王翦は、伸びやかな雪の声に釘付けになる。
「フォッ、桓騎よ……そなた……」
蒙驚が桓騎の方を見て声をかけようとしたが、思いとどまる。
桓騎は何か有り難いものを目にしたかのように目を閉じて手を組み、雪の声を一心に聞いていた。
――そなた、本当に作りたかった・歌いたかった曲を雪に託したのじゃな。
蒙驚は『Bloody Flame』をインディーズからメジャーへとスカウトした一人だ。
それ故、桓騎のクリエイティブな面をずっと見てきた人でもある。
――そんなの、才能がバツグンにあるからだろ。
……とはいえ、己の趣味に従って作った曲を没にし続けたら……いつかどこかでフッと燃え尽きてしまうのではないかと、蒙驚は危惧していた。
それが、もしや雪の登場で変わるのでは。
そして『Bloody Flame』は新たなフェーズに至るのでは、と雪の歌声を聞いて誰もが期待する。
それほどまでに、雪の歌声は可能性を秘めていた。
「――ありがとうございました」
歌い終わると、雪は深々と礼をする。
それが終わった瞬間、桓騎は録音ブースに飛び込んだ。
「――桓騎、どう……」
雪の言葉が言い終わる前に、桓騎は雪を抱きしめてから口付ける。
桓騎は、それ以降もぎゅっと雪を抱きしめて離れない。
「そうか、それほどよかったか」
それが桓騎の最大限の喜びの表現だと知っている雪は、そのまま臆することなくよしよしと背を撫でる。
「は…………尊……………………」
その光景を見て、黒桜は鼻血を垂らしている。
「桓騎、お前のオーディションに私は合格したか?」
落ち着いたと見た頃に、雪は桓騎の顔を見た。
「何言ってんだ……合格も何も、こっちから参加を依頼したいくらいだぜ……」
桓騎は雪を抱き上げた。
「うわっ!どうしたのだ桓騎……」
「やっと見つけた……俺の歌のパートナー」
その声音に何一つ偽りのないことに気付いた雪は、桓騎の頬をそっと包み込む。
「お前の為なら、いかなる努力も惜しむまい」
「やっぱお前は最高の女だぜ……」
額を合わせて、そっと微笑み合う。
「……あの者たちは、周りが見えておらんのか」
「あらあら、王翦様……あなたも言えたものではございませんよ」
王翦の言葉に、パドミニはフフフと笑ってスルーする。
「若いのぉ……フォッフォッフォッ」
蒙驚は、桓騎の新たなる一歩を祝福するように快活に笑った……。

**

夕方、魏芸能事務所に寄った雪は輪虎に呼び止められる。
「輪虎さん」
「寄ってくれてよかった、実はちょっと相談事があって」
「……なんだかよっぽどっぽいですね、その感じ」
此の世ではお互い中学・高校以来の長年の付き合いであるので、雪は輪虎の感情の機敏までよくわかった。
「あのさ、雪、嫌じゃなかったらなんだけどさ……来年の、かくし芸大会で……一緒に、變臉(へんれん)やらない……?」
變臉、と雪は輪虎の言葉を繰り返した。
變臉とは四川の川劇に属する伝統芸能であり、身に着けた面が十数枚と瞬時に変わる技は、中国の国家秘密ともいわれている。
雪は、かつて同じ中高一貫校に在学していた輪虎と共に二年ほどステージ企画で變臉をやっていた。
それ以降も何度か地元の商店街のイベントだったり、友達の結婚式の余興だったりとで變臉はしているが、なるほど、確かに芸という意味なら外したことはない。
「実際輪虎さん一人でもなんとかなりそうだけど……いいよ、一緒にやってあげる」
「本当!?よかったーっ!」
「収録はいつ?」
「ちょうど12月の初め頃!まだ1ヶ月ちょっとあるし大丈夫!」
「確か11月の中頃の『Schnee』のクリスマスコフレ発売と共に私の名前が出るはずだから、出演は問題ないと思う」
「いや本当にありがとう……雪がいてよかった……」
「気にしなくていいのよ……また練習したい日とかは連絡し合いましょう。じゃあ、私は帰るから……」
「お疲れ様ー、気を付けて帰ってねー」
ばいばーい、と昔から変わらない挨拶をして雪は事務所を出た。
そして、いくつか欲しい物を買いに地下鉄に乗って別のエリアに行く。
「あったあった、私ここのホワイトムスクの香りが一番好き……」
ハロウィンのケーキや料理の御礼に、雪は李牧と桓騎に渡すプレゼントを買いに来たのだった。
「桓騎には加湿器で……李牧には……これね」
それは、この間録鳴末が出ていたバラエティ番組でオススメされていた便利家電だった。
とりあえず全て一度自宅着にしてもらい、購入の契約をする。
用事を済ませた後、雪は外に出る。
そして、ふとビルのLED掲示板を見た。
「李牧……」
そこには、自分とは違う世界にいるような李牧の広告があった。
「かっこいいなぁ……李牧がモデルって、天職だよね」
無意識に、スマホを取り出して写真を撮る。
「はぁ……かっこいい……」
それから、半ば夢心地で自宅へと戻る。
……と、そこにはなんと李牧がいた。
「……どうして?」
「あなたの料理が……また、食べたくて」
それを聞いて、雪は「おやおや」と笑う。
「申し訳ありません……作る気が起きないなら、また日を改めます」
「あぁ……いや、作るのは構わないのだけど……おそらく、李牧の家の方がもっと美味しそうなものを作れそうな気がする……し……」
多分、それだけじゃ終わらないよね……というのも言外に滲ませた。
李牧はそれを察したのか
「分かりました、では雪様……どうぞ、おいでになるご用意をなさってください」
と、雪の指先にキスをした。
「ありがとう、李牧……狭いだろうが、中で待っていてくれ」
雪は、マンションのオートロックを開ける。
「雪様……」
「全く……スマホもあるのに、それで連絡を取ればよかろう」
「桓騎に聞いたら、魏事務所に行ったと返ってきて、輪虎殿に聞いたら帰ったと……」
……と、すると寄り道を想定していなくばこうなる……か、と雪は得心する。
「すまない、少し友人と会っていてね……今後は、私に直接聞いておいで」
「え……よろしいので?」
「むしろ何がダメなんだか……シリウス、お前まだ私を皇帝だと思っているのか?」
「例え此の世でそうでなくても、私にとってはあなたのみが一生お仕えする至上の方です」
「あれだけ前世を共にしていては、今更難しい……か」
玄関のドアを開けて、李牧を無言で押し込むと後ろ手でドアを締めた。
「それに……私があなたと主導権を変わるのは、SEXの時のみと決めていますので」
はぁぁ……と、諦めの位置に達した雪は、李牧を気にせず部屋に入る。
そして、冷蔵庫を漁り始めた。
――最近仕事忙しかったし、大したものが入ってないな……買い出しかなぁ、これは。
「李牧…………李牧ー?」
李牧を呼んだが、返事がないので雪は冷蔵庫を閉めてリビングを見た。
「雪様……」
李牧の手には、置きっぱなしにしていたベビードール(友人に押し付けられた)が握られていた。
「……どうやら、買い出しが必要なようだ」
雪は、それをスルーして話を続ける。
「……あぁ……そうですか」
李牧は、その薄い布地のそれをまじまじと見ている。
「シリウス!」
「はっ……雪様、何でございましょう」
「そんなに着てほしいなら、着てやるから……お泊りの準備を手伝え」
「畏まりました、雪様」
そうして、雪は李牧に荷物詰めをさせた。
作業が無事に終わると、荷物を持って外に出る。
「ところで、何か食べたいなどのリクエストはあるのか?」
李牧と地下鉄に乗りながら、雪は尋ねる。
「カルボナーラ…………ですかね」
「カルボナーラ…………か」
ならば李牧の家の最寄りのスーパーで問題はなさそうだな、と雪は結論づける。
「私は李牧の料理も美味しいと思ったよ」
「お恥ずかしい、下積みの時に食器の広告写真の仕事を受けて依頼、料理が楽しくなってしまって」
「きっかけを持つのはよいこと」
李牧の家最寄りの駅名がアナウンスで流れたので、二人は降りる。
そうして、手早く買い物をしてから家に辿り着いて早速料理に取り掛かる。
「李牧、サラダを作ってはくれまいか」
「お任せを」
カルボナーラを作る傍ら、雪は李牧に指示を出す。
「ありがとう、これで大分早く作れたよ」
雪はカルボナーラを盛り付けて、テーブルに座っておいでと言った李牧の前に運ぶ。
「わ……すごい……」
「さ、冷めないうちに食べようか」
「ええ……いただきます」
李牧は、カルボナーラを口にする。
「……さて、好みの味だかは分からないけど……」
「ありがとうございます、雪様。とても美味しいです」
「そうかそうか、それはよかった」
嬉しそうに笑う雪に、李牧はとてつもない幸福感を覚える。
――また私は、雪様と時を刻めるのだ。
それが、堪らなく嬉しい。
李牧と雪は、幸せな夕ご飯の時間を過ごしたのだった……。

後片付けが終わった後、雪と李牧は唇を重ねた。
「……入るか、風呂に」
「ええ、早くあの可愛らしい下着姿を拝みたいですから」
「仕方ないなぁ……」
そしてお互い軽くシャワーを浴びてから、ベッドに向かう。
雪は、李牧に背を向けるように言った。
――桓騎は、おそらくもっと過激な下着を着ろと言ってきそうだな……。
この先起こるであろう行為時の要求に、やれやれと思いながら、着替え終わると李牧を背から抱きしめた。
「李牧……」
「雪様……」
李牧は、雪と共にベッドに横たわる。
「あぁ……想像よりもずっと、似合ってますね」
「別に、着せたいものがあったら……今後買って来てくれて要検討の上着ても構わないよ」
「本当ですか……でしたら、クリスマスプレゼントには私好みの服などを贈らせてください」
李牧は胸の覆いをずらして先端に吸い付いたり、こね回したりする。
「……要検討、だけどね」
「個人的には『Schnee』の衣装がすごく好きなので、その衣装を買い取るのもよさそうです」
「あぁ……確かに、すごくおしゃれだよね」
先端を攻められている間に、何気ない会話をする。
「あとは……そうですね、私が男性モデルで出てる『Mirage』の雑誌にあるお洋服とか……雪様に、とても似合うと思いますよ」
「『Mirage』の編集部はセンスあると思う、みんなかわいいし」
「ま……おそらく桓騎は『アマリリス』系統を雪様に着てもらいたいのでしょうが……」
「ゴスロリ系か……まぁ……かっこいいが」
――もしや今後『Bloody Flame』で出る時、私はその系統を着るのでは?
と、至極有り得そうな未来が見えた。
――ま……私には相変わらず選ぶセンスはあまりないから、任せた方が楽だな……。
そこまで考えて、雪は李牧と口付けをする。
「んんっぅ…………」
先端を攻められ続け、知らぬ間に性感が高まっていたらしい。
身体を優しく愛撫されて、ぽやぽやとした感覚が襲う。
李牧と舌を絡ませている内に、李牧の指はツツ……とスムーズに脚を開かせて既に濡れている秘められた場所に辿り着いていた。
「雪様…………」
「李牧……」
「あなたは、ここまでお美しい」
蜜で滑った入口を、指でくぱりと拡げられる。
「あ、ああっ……」
「…………ッツ!!」
耐えきれなくなった李牧は、雪の花芯へと舌を這わせる。
「ひっ…………やっ…………」
「溢れて止まらない……困りました、ね」
花芯だけでなく蜜壺の入口にも舌を這わせて、いやらしい音を奏でさせる。
「や、やぁぁっ…………!」
その内、李牧は舌を蜜壺に入れてきた。
「あ……あっ……!舌で突いちゃ……!」
屹立ほどの圧迫感はないものの、粘膜のやり取りが頭をおかしくさせる。
「だめ、だめえ…………!!」
「またまた……そう言いながら、さっきから何回イッてます?」
もはや、分かるわけがなかった……。
この身体は、李牧と桓騎の肉欲に従順な身体。
李牧と桓騎が満足するまで、この身体が快楽から開放されることはない。
「あっ…………ああっ…………!!」
そして、李牧と桓騎の屹立を全て受け入れる身体。
「いいですね……ミミズが私を欲しがってくれてます」
「ああっ……李牧、李牧…………!」
雪の蜜壺は、無意識に李牧の屹立を受け入れた歓喜でキツくキツく締め上げてしまう。
「っは……締めてくるのは、前に学習しましたよ……!」
李牧は、呼吸を整えてからゆっくりと焦らすように雪の中を行き来した。
うねうねと蠢く襞が、李牧の屹立からの欲液を欲する。
更に入口の襞が、李牧の屹立と擦れ合う。
「あっ…………ああっ…………!キモチいいよぉ…………!!」
「…………ああ、もうっ!!!」
雪の善がる声に理性を攫われた李牧は、勢い良く屹立を雪の中に突き入れた。
「…………ひっぐ…………あ、ああっ、あああっ!」
散々焦らされた雪にとって、それが連続絶頂のトリガーになってしまった。
――まずい…………止まらない…………!!
李牧は、その締め付けでもっと快感を得ようと更に激しく蜜壺を突く。
「雪様…………雪様…………!雪様っ…………!」
「李牧、李牧っ…………!!」
ひときわ深い場所で交わって、雪と李牧は同時に激しい絶頂を味わう。
李牧は今まで味わったことない長い時間の絶頂で、頭がぼうっとする。
「雪様……」
「李牧……よかったか……?」
「ええ……とても……」
李牧は、あまりの気持ちよさにそのまま雪に覆い被さったまま寝てしまう。
「ん……?」
雪は、体の重心を上手いこと避けて李牧を横にさせる。
「やれやれ……寝てしまうか……まぁ、それもよかろう……」
雪は「よく休め」と優しく李牧の頭を撫でた。
そして、李牧の寝顔を鑑賞しながら自らも眠りについたのだった……。

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