このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

単発作品集

「マスター、今日は共にアフタヌーンティーでも?」
つい最近カルデアに来た世界一有名な「名探偵」シャーロック=ホームズは、立香をアフタヌーンティーに誘ってくれた。
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
ホームズは、そう言ってその眉目秀麗な顔に笑顔を見せた。
「せっかくの良い茶葉なんだ、私だけ楽しむのはもったいない」
「へぇ……」
立香にはどういう基準で茶葉の良し悪しが決まるのかは分からないが、あのヴィクトリア朝を「生きてきた」ホームズだ……間違いはないのだろう。
立香は、そのままホームズの部屋についていこうとする。
その途上、
「マイガール!丁度いいところに!」
後ろから、新宿のアーチャーことジェームズ=モリアーティ教授が立香を呼び止めた。
「……教授!」
立香は、足を止めてモリアーティの方に振り向いた。
「モリアーティ……君は」
ホームズは、呆れ返った様子でゆっくりと2人の方に視線を向ける。
「丁度あのエミヤくんからスコーンを焼いてもらってネ。君と食べようと思っていた訳サ」
「エミヤ手作りのスコーン……!?絶対美味しいじゃないですか!」
立香は目を輝かせた。
「……モリアーティ、すまないが今日の彼女のアフタヌーンティーは、既に私と約束があってね」
「ン……?聞こえないなぁ、そんなの主賓の彼女次第だろう?」
モリアーティはホームズに含み笑いをする。
「モリアーティ……」
一瞬、険悪な空気が流れる。
それを知ってか知らずか、
「アフタヌーンティーには紅茶!紅茶にはスコーン!教授も、ホームズさんの淹れた紅茶飲みませんか?」
立香は、モリアーティに共にアフタヌーンティーを楽しもうと持ちかける。
「………………!」
立香の提案を聞いた2人は、
――やはりマスターには敵わないな。
と、ため息をつきながら心中で呟く。
「よろしい。ではホームズが良いのならば、アラフィフもご一緒したいのだがネ……」
「――構わない……。主賓の彼女が認めるのならば」
「それじゃあマイガール、一緒にスコーンを取りに行こうか」
「はーい」
「モリアーティ、私の部屋は分かっているね?」
「もちろんだとも、ね……」
そこで、三人は一時解散となった。

ホームズの部屋に入ると、品格のあるアールグレイの香りが立香とモリアーティの鼻腔をくすぐる。
「いい香りー……」
「こんな見事な茶葉、どこで手に入れたんだネ?」
「――この間の私の最終再臨記念のレイシフト先で起こった事件に協力したら、依頼人がくれてね」
「大変だったよねー、『切り裂きジャック』が『本当』の『切り裂きジャック』だったもん……」
「ワトソン君がいたら、是非聞かせたいくらいだよ」
「ちょっと待ったマスター君!もしや私より先にホームズを最終再臨させたのかネ!?」
モリアーティは、そこまで聞いて立香に詰め寄る。
「ごめんなさい……教授の再臨素材とかQPが……足りてなくて……」
「かれこれそれで二ヶ月は待ってるヨ!?」
「いや……あの……次のイベントで……なんとか……」
「ほらほら、せっかくの紅茶とスコーンが冷めてしまうよ」
ホームズは二人のやりとりを見て苦笑しながら、紅茶をそれぞれ二人の前に置く。
「やれやれ……一気に五人も召喚されたら、大変だろうけどネ……」
「教授を保管庫に幽閉してよかった……」
――マイガール!!これはどういうことカネ!?
――ごめんなさい!私昔からシャーロック=ホームズが好きで……!!
――マイガーーール!!
とある先輩から「新茶を触媒にするんじゃなくて、新茶を保管庫に幽閉するのもアリだと思う」というアドバイスを受信した立香は、最後の召喚の時に半ば賭けでモリアーティを保管庫に閉じ込めた。
そしたら、ホームズが来た。
――うわーーっ!!教授ありがとうーー!!!!
ホームズが召喚された瞬間、挨拶を交わして早々に保管庫へモリアーティを迎えに行ってホームズと顔を合わさせ、二人ともなんとも言えない顔をしたのを、立香は感動のあまり見ていなかったが、マシュや見守りに来ていた両儀式はしっかりと見ていた。
「まぁ……色々思うところはあるが、こうして穏やかな日々を過ごせていることに感謝するべきカナ……」
「奇遇だね、私も同じことを考えていたよ」
それを聞いて立香はクスクスと笑い、
「お二人、結局仲良いでしょう?」
と、言った。
すぐさま、
「良くない!!」
と、ホームズとモリアーティは返したが、立香はそれすらも仲良い故だからと見たのか、優しい笑みを見せる。
「――本当に仲が悪いなら『シャーロック=ホームズ』シリーズが好きな私の元にダディは来ないだろうし、保管庫に閉じ込めていようともホームズさんは来ないでしょ」
――全く……。
反論する気も失せてしまった二人は、スコーンを口にする。
あらかじめラズベリーのジャムが入っているスコーンは、それはそれで美味なものだった。

ある日のアフタヌーンティーは、とても穏やかで。
3/9ページ
スキ