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美し国から来たる司書


美味しいロシア料理を堪能して後、2人は図書館に帰ってきた。
「四迷先生、そして絵画同好会の皆さん、ハーブティーは要りますか?」
談話室に行くと、今日は永井、谷崎、宮沢賢治、新美南吉が所属している絵画同好会が開かれていた。
「司書さんのハーブティーですか、久しぶりに飲めるとは光栄ですね」
「やったー、司書さんありがとう!」
「じゃあ準備しますね……!」
司書は、給湯室に行ってお湯を沸かし始める。
「四迷殿も、よかったらどうぞ」
永井は、空いている場所に四迷を誘った。
「……あぁ、すまない」
「今日は歌川広重の絵ですよ」
「ほう……」
「これ、全部永井先生のコレクションなんです」
「はぁ……浮世絵の魅力をもっと広めたい……」
「谷崎先生の『陰翳礼讃』みたいに、『浮世絵礼讃』を書いてみたらどうですか」
人数分のティーカップをトレーに乗せてテーブルに置いてから、司書は1人ずつの前に改めて置いていく。
「それはいい案だ」
永井はハーブティーの香りを嗅いで、これはタイムのお茶だね?と司書に聞いた。
「はい、タイムはリラックス効果のあるハーブティーですよ」
「さすがに夜だからお菓子は憚られますけど、ハーブティーだけでも十分ですね」
そろそろ遅いし、お開きにしようかと永井がお茶を飲み終えると、そうですね、と新美や宮沢が言ったので絵画同好会はお開きになって、各々は司書におやすみなさいと挨拶をして部屋に戻っていく。
四迷は司書を邪魔しないように敢えて彼らと多くを喋らなかった。
「四迷先生、カップをもらっても良いでしょうか?」
司書は、四迷のそばに来てそっと手を差し出した。
「……ああ、すまない。美味しかった」
四迷はティーカップを司書に手渡す。
「先生も、今日はお出かけしましたから早めにお休みくださいね」
「……君はまだ寝ないのか?」
「私は、まだ片付けがありますし……」
「構わない……待ってる」
「分かりました」
まだ自分と話したいことがあるのだと察した司書は、手早く片付けをする。
「お待たせしました、四迷先生」
「……ああ」
「それで、どうなさったんですか?」
司書は、四迷に何か悩み事や相談事があるのだと思ってテーブルの向かい側に座る。
「……君を抱きたい」
ようやく絞り出した四迷の言葉は予想の範囲ではあった。
……が、いざ言われるとどう対応するべきか悩む。
「えっと……とりあえず、私の部屋で……色々お話ししますか?」
それなら、誰にも聞かれはしないだろうと思って。

司書の自室は館長室などがある棟と同じ建物にあり、文豪一人一人に与えられた部屋よりも少し広めで豪華な部屋だった。
「どうぞ……」
「失礼する……昨日も入ったが」
「あっ……せっかくなので、タイムのアロマオイルでも付けますね」
司書は、アロマランプにタイムのアロマオイルを数滴垂らした。
「……で、四迷先生は……私と……一夜を共に、したいと」
なんとか直截な言葉を避けようと、司書はとっさに古典表現を使う。
「一夜だけじゃない……明日も、明後日も……ずっと」
「四迷先生……」
「言っておくが、俺はあなたが思うような聖人君子じゃない」
そう言うと、四迷は司書を抱きしめた。
「四迷先生……!」
「その折れそうな身体を抱き締めたくて仕方がなかった、その唇にキスをしたくて仕方がなかった、その髪に指を絡めたくて仕方がなかった、その肌に……触れたくて仕方なかった」
そのまま流れるような動作で、四迷は司書と口付けを交わす。
「――愛している」
一度唇を離した後、再び口付けられる。
今度は角度を変えて。
「……舌を出して……」
優しく言われて、司書は少し口を開く。
「いい子だ」
舌を司書の口に差し入れて、呼吸までもを交換するような口付け。
「……はっ……あっ……」
立てなくなるほど力が抜けた司書を、四迷はベッドに導いて優しく押し倒す。
「……野暮なこと聞くが……初めてか?」
司書は、恥ずかしそうに首を縦に振った。
「そうか……なるべく、優しくする」
そう言うとそっと司書の指先にキスをして、壊れ物を扱うかのように司書の服を脱がせる。
羞恥が拭い去れなくて、司書は自然と胸に手をやって四迷の視線から隠そうとする。
「四迷……せんせい……」
「さすがにこの時に先生はやめてくれ」
「四迷さん……?」
「そうだな、それならいい」
そうして四迷は司書の鎖骨に唇を付けた。
「……っ!!」
「滑らかな肌だ……何度想像したことか……」
四迷の指先が、つつ……と司書の身体の輪郭をなぞる。
「はぁ……」
普段ペンやナイフやティーカップが握られている手が、自分の肌を優しく撫でてくれる。
――もっと、あなたを知りたい。
「……私も、あなたを、もっと、知りたいの」
四迷の言葉を思い出した司書は、四迷の喉仏に口付ける。
「……ッツ!!!俺を煽るな……!!!」
四迷は、ギリ……と歯を噛んでから乱雑に服を脱いだ。
マフラーやコートが落ちる音が、遠くでする。
一糸纏わぬ四迷の鍛えられた胸板が見えてしまって、司書は呼吸を忘れてしまう。
「俺も脱いだんだ、隠すのは不平等だろ」
四迷は胸元を隠す司書の腕を、そっとではあるが払いのける。
「ご……ごめんなさい……貧相だから……」
「これで貧相なら、どうかしてる」
四迷は司書の胸を優しく包み込む。
自分の感覚を、刻み込ませるように、少しだけ、力を込めて。
「四迷さん……」
「かわいい……」
うわ言のように呟いてから、司書の胸の頂の飾りを口に含んだ。
「……っえ!!……そんな……子どもみたいな……こと……」
子どもが母の乳を求める姿を連想してしまい、司書は驚く。
すると左の空いている胸の頂の飾りは指で引っ張られてしまい、抗議は嬌声に変わってしまう。
「四迷……さ……!」
「もっと声を聞かせてくれ……」
四迷は、そう言いつつも司書と口付けをする。
舌を絡め合わせるような、明らかに「挨拶」ではない口付け。
覆いかぶさっている四迷の身体の熱い部分が司書の身体の中心に当たっていて、司書は慌てる。
「大丈夫……これから、もっと気持ちいいことを……するんだ……」
四迷は、司書の足首を持って脚を開かせる。
「……あ……あぁ……」
「ふふ……濡れてる」
優しい笑みを見せてから、四迷は司書の花芽に触れる。
「……あ……!!」
甘い電流のような衝撃が、司書の身体を駆け抜ける。
「解さないと……辛くなるぞ……」
花芽を弄りながら、四迷は司書の緊張を和らげるために口付けをする。
今まで誰にも暴かれて来なかった場所を愛する人に暴かれ、弄られる。
――四迷さんだから、いいんだ。
これがきっと知らない人間だったならば、怖くて仕方なかっただろう。
でも、自分を愛してくれている四迷だから、愛する四迷だから、快楽になるのだ。
花芽からは蜜がとめどなく溢れて、蜜壺の入り口を潤ませる。
「四迷さっ……」
「挿れるぞ……辛かったら、俺の背に爪を立ててもいいから」
四迷の指が、入り口からゆっくりと蜜壺の中へと入ってくる。
「あ……あぁ……」
圧迫感がする。
でも、それが四迷の指だと思うと恋しくなる。
指の蠢く感覚と、蜜壺をゆっくり行き来する際の水音が、司書の理性も、四迷の理性も奪い取って行く。
「あっ……あっ……あっ……気持ちいい……!!」
「ああ……もっと見せてくれ……!俺の手で、乱れる姿を……!」
「あっ……四迷さんっ……四迷さんっ……!!!」
処女はそこまで感じないなんて嘘だろうというほど、司書は四迷の手で乱れていた。
――もう我慢……できないっ……!
指を蜜壺から引き抜いた代わりに、四迷は自身の熱い欲望の塊を司書の蜜壺の中に埋める。
「あああっ……!!」
「……これで、やっと身も心も、俺のもの、だな」
四迷は、司書に口付けを贈った。
「あっ……四迷……さ……」
「すまない……痛いかもしれないが……我慢してくれ……」
ゆっくりと、司書を気遣うように蜜壺の中を行き来する。
……つもりだったが、心地よすぎて次第に動きを早めてしまう。
口付けをしながら、蜜壺を愛して。
身も心も、全て繋がって。
相手に捧げることができるものは、全て捧げて。
これ以上ないというくらい、死んでしまうのではないのかというくらい、気持ち良くなって。
「四迷さんっ……四迷さんっ……!!」
「……―――ッ……!愛してる……!」
そして2人は、愛する人から絶頂を享受した……。

――翌朝。
「……司書さん、起きてるかい?」
今日の助手に指名していた徳田秋声が司書を起こしに来る。
「……あっ!!秋声君!!おはよう!ちょっと寝坊しちゃったから、準備に時間かかりそう……。ごめんね、先に朝ご飯食べておいていいよ」
司書は、慌てて起き上がって朝支度を始める。
「そうなの?珍しいね……司書さんが寝坊なんて」
「昨日、夜遅くまで太宰君の本読んでたからかな……」
「ふーん……じゃあ、先にご飯食べてるね。来るついでに、その隣の不眠症さんもつれてきてよ」
「――え……」
「……って、菊池さんが言ってた」
「…………」
「夜、君と四迷さんがこの棟に入るのを見たって教えてくれたよ」
「寛さん……」
制服のブラウスを持ったまま、司書は額を押さえる。
「――だったら、別に黙ってる必要はないな」
「――うわぁっ!!」
四迷に背後から抱きしめられ、司書はベッドへと逆戻りする。
「ちょっと四迷さん。司書さんの支度を邪魔しないでくれる?」
「邪魔なんかしないさ」
秋声にそう言いつつも、四迷の手つきはなんだか怪しい。
「秋声君!!頑張って朝の10時までにはご飯食べに行くから!!」
「はいはい、ほどほどにね」
秋声は全てを察したのか、司書の部屋の前から去っていった……。
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