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愛を奏でよVirutuosi side story

この美しい傭兵を手にしたのが、自分にとっては最高の僥倖だったと思う。
「ーーなぁ、フォルトゥナ」
『どうしたの、サー』
フィレンツェの夜景が映っている画面の先で、フォルトゥナは自分を気遣った。
「そろそろ本名を教えてくれてもいいんじゃねぇか」
『そうねぇ…………』
彼女の“フォルトゥナ”というのは、本名ではない。
“フォルトゥナ”という名前は彼女の前の主が付けた名前だったが、彼女がクロコダイルと契約する時に名乗ったのはそれだったから、クロコダイルも“フォルトゥナ”と呼んでいる。
「お前の見える未来には、名前を教えるってのがあるのか?」
『ふふ…………』
フォルトゥナは優しく微笑んでいる。
彼女が未来を予知して“変えるために働きかけることができる”「名前のない悪魔の実」の能力者で、世界中から狙われていたのは……誰もが知っている。
あの赤髪のシャンクスや鷹の目のミホーク、黄金帝テゾーロ、更には最悪の世代とも言われている者たちが彼女を狙っていたが、彼女は最後に自分を選んだ。
ーーあなたといるのが、一番楽しいわ。
フォルトゥナが“宣言”したことで抗争は終わりを告げ、再び世界は均衡状態を取り戻した。
そしてフォルトゥナは乞われたらどこへでも協力するという協定の通りに、今は黄金帝テゾーロのいるイタリアにいる。
次は確かドフラミンゴのいるドイツだったか……と、ため息をついた。
ーーいつ帰ってくるか。
そんなことはまさか言えるはずもなく、言うつもりもなく。
「フォルトゥナ」
『…………よ』
「は?」
『それが私の名前』
「ほんとかよ…………」
『信じないの?これで信じる?』
そういうと、フォルトゥナは“ハッピーバースデートゥーユー”とその腹が立つくらい綺麗な声で歌い出した。
『ハッピーバースデー、ディア……サー・クロコダイル』
「ハッ、まさか幸運の女神から祝われるとはな」
『直接祝えなくてごめんなさい、たくさんお土産買ってくるから……』
「任務が終わったらサッサと帰ってきやがれ、終わったらせいぜい可愛がってやる」
『えっ』
画面越しのフォルトゥナは珍しく戸惑った顔をする。
「まさか誕生日が名前だけな訳ないよなぁ」
『え、ええ……じゃあ、そろそろ私戻らないと』
「ーー」
『サー?』
「早く戻ってこい、愛してる」
クロコダイルは、そのまま電話を切った。

自分にだけ愛する女から本当の名を教えられ、その日に変わった瞬間に祝われただけで嬉しいとは、口にはしないこそすれ何よりも嬉しい誕生日だった。



「今戻りました、サー」
フォルトゥナはクロコダイルの元に戻った。
「やっと戻ってきたか…………」
「任務でたくさんお金もらってきましたよ、あとはイタリアの珍しい形のパスタ、サーお気に入りのVenchiのチョコレート、アルマーニのスーツ、ドイツのザワークラウト、万年筆、ノート、ヒューゴ・ボスのスーツ……他にもたくさん」
「みたいだな…………」
部屋の入口に次々と積まれるプレゼント箱に、クロコダイルはため息をつく。
「……だめでした?」
「まだ足りないんじゃねぇか?」
「んー……と……あっ!」
フォルトゥナはクロコダイルへテーブル越しにキスをした。
「ただいま、サー」
「ああ、おかえり」
「休憩なさるついでに、エスプレッソをお持ちしますね。あとは買ってきたビスコッティも」
「仕方ねぇ、もらってやる。……が、夜は覚悟しておくんだな」
「だと思いましたよ……」
フォルトゥナは、諦めのため息をついてから部屋を出ていった。


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