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単発作品集

「新選組副長、土方歳三だ。クラス?そんなものどうでもいい、俺がいる――ここが、新選組だ」
立香とアーチャーのギルガメッシュは、愕然とした。
――沖田さんもいるなら、もしかして土方さんもいるかもよ?
そんな軽いノリで石を使って召喚陣を回して、まさか来るとは。
「ギル……エルキドゥ……どうしよう、マジで……来ちゃった……」
「よかったじゃないか、君は前から新選組好きだって言ってたし」
「最早意地で召喚したな……怖い奴よ」
エルキドゥは素直に祝福するが、ギルガメッシュはやはり新規のサーヴァントが来る度に不機嫌になる。
――我とエルキドゥがいれば、なんら問題あるまい?
素材の都合上、エルキドゥよりも最終再臨させたギルガメッシュは、オケアノスの特異点が終わった時にそう言い放った。
その言葉は、ギルガメッシュとエルキドゥ双方がロンドンのランサー・アルトリア=ペンドラゴンのオルタと邂逅した時に容赦なく宝具で貫かれて、あわや本当の「英霊の座」に帰るところまでの重傷を負って、友人から借りたモードレットで辛うじて撃破したという経験の後には公に言わなくなったものの、今でも「我はお前の一番のサーヴァントよ」と、日ごろの言葉の言外に滲ませているのは何となく分かる。
そのアーチャーのギルガメッシュの様子を見て、キャスターの方のギルガメッシュは呆れているようだが、「致し方あるまい」と見ているのか何も言わない。
――一体どうしてここまで違うのか?
……とは思うものの、まだキャスターのギルガメッシュが自分に協力してくれた理由は不明である……言ってくれないというのもあるのだが。
「……で、あんたがマスターか」
「……っえ?」
「あんたがマスターかと聞いている」
「……!!そうです!!」
土方の質問に、とっさに答える。
「――そうか……お前は、諦めるなよ」
「……う、うん……?」
土方はそれだけ言って、立香の前を去ってカルデアの局員たちに自分はどうすればいいのかを尋ねた……。

******

――第七特異点、バビロニア。
「あのティアマト……攻撃はしてこないけど、聲が……」
Ah――!Ah――!と謳う聲が、味方の士気を下げていく。
「マスターよ、令呪は……いや、何もない」
ギルガメッシュは、立香の指先が壊死しかけているのを見て口を閉ざした。
「あと少しか……いけるか?」
エルキドゥは選択を迷っているようだった。
「……っく!!なんで……なんでよ……」
カーミラは、悔しそうに唇を噛む。
その時、
「――どいてろ」
ダウンしたカーミラの代わりに、最終再臨一歩手前の土方が抜刀する。
「――土方さん、まだ……!!」
「よーく見ておけよ……ああ……よく見るがいい……!!」
土方は勢いよくティアマトに走っていく。
「俺が!!!新ッ選ッ……組だぁぁ!!」
「Ah―――――!!!」
土方の一撃を受けて、ティアマトは撤退する。
「土方さん……!!」
「まだだ……!!まだ終わらん……!!お前は……諦めるな!!」
それは、もしかして土方の……自分自身への叱咤だったのかもしれない。
だが、
「……はい!!」
立香は、それを自分への叱咤として受け取った。

それ以降、終局特異点まで立香達はがむしゃらに駆け抜けた。
たくさんの出会いと、たくさんの別れがあった。
――別れは、あまりに突然だったけど。

******

「土方さん、最終再臨おめでとうございます」
終局特異点を駆け抜けた数日後、立香は土方を最終再臨した。
「ようやくだ……ようやくこれで全力が出せる……」
「……そうだ!土方さん、お祝いに一回だけどこか好きな時代にレイシフトできるっていうのがこのカルデアの決まりなんですけど……どこか行きたいところありますか?」
「そうか……たくあんがある時代なら、俺はどこでも……」
「た、たくあんがある時代……?」
「――冗談だ、そうだな……なら1875年の江戸……東京に行かせてもらおうか」
それを聞いて、立香は首を傾げた。
――土方さん、その時もう生きてないよね……?
そう思いつつも、立香はレイシフト先をカルデア局員に告げる。
希望を聞き入れられたと分かった土方は、そっと瞼を伏せた。
相変わらず長い睫毛だなぁ、と思いながらレイシフト先に着く。
その東京は、自分の知る「東京」とは全く違っていた。
路面に馬車で車両を引く「鉄道馬車」……だったかの一行と、洋装和装入り乱れる人々、舗装されてない道、赤レンガの建物……。
――錦絵で見たことある!
……なんてとても言えないが、それくらい立香にとっては「アンティーク」な存在だった。
「土方さん……」
「――随分と変わっちまったもんだな」
土方はそう呟いてから、どこかへと歩いていく。
「……土方さん!」
「――別の道があった、なんて言わねぇが……」
「土方さん……」
「いざ目の前にすると……は、ははは……」
土方は、つかの間寂しそうな表情をした。
「……!!」
その時、

半髪頭をたたいてみれば、因循姑息の音がする
総髪頭をたたいてみれば、王政復古の音がする
散切り頭をたたいてみれば、文明開化の音がする

と、以前歴史の授業で聞いたような都都逸を歌う子どもたちとすれ違う。
「こら!待ちなさい……!!」
そして、その子どもたちを追う警官の顔を見て、土方は目を見開く。
「――■■…!!」
名前を言った次の瞬間、二人はカルデアのコフィンに戻っていた。
「……」
「……」
「ごめんごめん、なんだかシステムミスで……」
ダ=ヴィンチが申し訳なさそうに二人の元に駆けつけてきた。
「……いや、いい」
土方は、慌ただしくレイシフトの部屋から出て行った。
「土方さん……!!」
追おうとしたが、土方のあの顔はただ事ではないと思い立ち、躊躇する。
「立香ちゃん、大丈夫?」
「『半髪頭をたたいてみれば、因循姑息の音がする。総髪頭をたたいてみれば、王政復古の音がする。ザンギリ頭をたたいてみれば、文明開化の音がする』……って、土方さんと関係ありましたっけ?」
「……ないと思うけど?」
「……ですよね……。じゃあ、最後に言ってた誰かのことで驚いてたのかな……」
「それはまた、本人に聞いた方がいいんじゃない?」
「……どうしようかなぁ……」
立香は果たしてどうするべきかと数秒程悩んだ後に、小さくため息をついた……。
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