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Fate/The Knight of The Blue Carbuncle~千年古都と幻の聖杯~

――翌朝。
「寝坊したーーーーーーッ!」
起床時刻が、授業が始まる30分前だった。
大慌てで支度をして自転車を飛ばすと、本当に、本当にギリギリに着いた。
――君のその才能には、驚いたね。
ホームズは、霊体化しつつも自分に語りかけた。
「起こしてくれても……いいんじゃないですかね……」
――それは僕の仕事じゃないよ。
確かに、サーヴァントに頼む方が間違っているか……。
――そうだ、僕はちょっと調べ物をしてくるよ。
一人納得していると、ホームズは霊体化したままどこかへ行ってしまう。
「仕方ないか……」
マスターとはいえ世界一の名探偵を拘束するのは間違っているだろうと素直に諦め、授業を聞くことにした……。

授業後。
行きつけのカフェに行くと、そこにはホームズとキャスターが待っていた。
「……案外、彼女は見つけやすかったよ。そこに座りたまえ」
ホームズは店主こだわりのアールグレイの紅茶の香りを楽しみながら、自分に話しかけた。
自分が座るのを見ると、
「――わりとすぐに見つけられてしまったので、ここは素直に自己紹介を致しましょう。私の名前は賀陽院春水、代々主上から京都の霊的な守護を任されている家の者です」
と、躊躇いなく自身の身分を明かした。
「賀陽院……さん」
「……で、“我ら”はキャスター……天照大神」
「そして月読尊だよ、よろしく」
よく見ると、春水の瞳は人格の主導権を握る者が変わる度に黒、金、青と色を変えていた。
「基本は、私が主導権を握っております。戦闘時などには……お二方にお任せしていますが」
黒の瞳の彼女……つまり春水が、そう言って微笑みかける。
「キャスター、セイバーの私が顕現したことで……全員役者は出揃ったことになるのかな?」
「――ええ、そのようにお二方は仰せです」
春水は、ほうじ茶をコクリと一口飲んだ。
「……となると、僕が昨日会ったのは……バーサーカー……ということになるのか」
「……恐らく。でも、私が初めて会ったバーサーカーとは全然違いました。おそらく、複数で一つの英霊なのかと思われますが……」
「その可能性は捨てきれないね。他に、君は誰かと会ったのかい?」
「アーチャーと、ライダー……ですね。アーチャーは、あなたも見たでしょう?」
不意に春水に同意を迫られて、自分は頷くしか出来なかった。
「真名は分かったのかい?」
「――“我ら”は特権的に此度の京の都にて行われる聖杯戦争に関してのみ……与えられた知識は多いが、真名看破の力は持っておらぬ」
金の瞳、つまり天照大神が春水に代わって回答した。
「なるほど……では、その“特権的に与えられた知識”は、僕に開示可能かな?」
「可能だ。……部分的に、ではあるが」
「構わない。では、まず一つ……聖杯は、“どこ”にあるのだい?」
「早速難しい質問だね」
月読尊の青の瞳が、迷いを示した。
「……端的に言うと、京の都の聖杯は“どこにでもあって、どこにもない”という存在……とでも。……だからこそ、平安京は命脈を保ってきたんだけどね」
「“どこにでもあって、どこにもない”……?」
「君は、空気を見たことがあるかい?」
自分が分かりかねていると、月読尊は例を出してくれた。
「つまり、常に存在はするがそれを手に取って示すことは不可能である……ということか」
「さすが名探偵だね。そういうことだから、京の都の聖杯は、京都中に出現する可能性を秘めている……春水の家は、それを守護する役割を担ってきた。霊脈を管理して、維持したり……」
「消去法的に、出現場所を限ることは出来ないのかい?」
「分かりません……。我々も代々……管理はしてきましたが、顕現の記録はありませんので」
春水は、残念そうに首を横に振る。
「ふむ……それと、君……もしかして京都全体に結界を張っただろう?」
「――ええ、張りました」
春水はホームズの問いかけに対して、こともなげに言い切った。
「よろしい」
ホームズが面白そうに言葉を弾ませると、青いガーネットの破片が少しだけ散る。
春水は、その破片の雫くらいの大きさのものを手に取った。
「え……」
ホームズの身体から離れたら消えていくはずの破片がキャスターの手にあると姿を留めるのに、自分は驚きを隠せなかった。
「“The Adventure of the Blue Carbuncle”……に依拠するものか、これは」
「恐らくは、ね」
「……お前、もしや自分の力のことを理解しきっていないな?」
「現状、僕はそれで困っていないからね」
金の瞳が明らかに不快感を見せたのを、自分は見逃さなかった。
「……そうか。……そうですか、ならば、それを尊重しましょう。私からは、何も言いません」
春水は、破片を手放した。
すると、それは跡形もなく消えていく。
――青いガーネット……だけで片付けるのは、もしかしてあまりにも浅はかなのではないか?
思わず春水の方に前のめりになって、
「賀陽院さん!私もっと色々聞きたいんですけど、夕ご飯一緒にどうですか!」
と、彼女を引き留めようとする。
「申し訳ありません……今日は、先約があって。またの機会に、お願いできますか」
春水は鞄から名刺を取り出して自分に渡してくれた。
明らかに気品のある香りが名刺からしていて、もしやこれはまたとない機会なのでは……と、心の中で感動に震える。
「今日は、この辺で失礼しますね……。あ、お代は……これで」
春水は千円札を机に置くと、流れるような動きで店を去っていった。
「ほう……名刺に伽羅の香が焚き染めてあって……なるほど、京都国際観光コンシェルジュ……?」
自分が手に持っている名刺を遠慮なく観察するホームズに、自分は何といえばよいのか分からなかった……。

******

――夜。
「――ありがとう、また帰る時には連絡するわ」
運転手にそう言うと、春水は鴨川のほとりにある最高級ホテルのエントランスに降りる。
「賀陽院様、お待ちしていました」
「もうクライアントの方は来ているの?」
「はい、お仕事で既に5日ほど滞在されております」
ホテルの支配人に案内されながら、クライアントについての情報を交換する。
「最近成長が著しい中国のセキュリティシステム会社の社長、趙政……休暇がてらに京都の観光を、4日ほど希望している……」
「本当に申し訳ありません、まさか救援を出したら……。賀陽院様にコーディネートしてもらうとは、思っていなくて」
「――謝る必要はありません。ちょうどその頃は予定が空いていたし……ええ」
――本当は、その間に私の家の土蔵にある史料を読もうかと思っていたのだけど。
とは言い出せず、春水は支配人に向けて微笑みかける。
そのまま一通り話が終わると、春水は軽く服装を整えた。
「通訳の方はいらっしゃるの?」
「いえ……お客様は、とても日本語が堪能でいらっしゃいます」
「了解しました。そういう時こそ、腕の見せ所……ですね」
「お料理の方は、お客様のご希望でイタリア料理にしております」
「……!!あとで、料理長にご挨拶させてくださいね」
「かしこまりました。では、ご健闘をお祈りいたします」
支配人の礼を受けてから、春水は開けられたドアの中に入った。
そして目の前に人がいるのを確認すると
「はじめまして。今回の観光のコーディネートをさせていただくことになりました、賀陽院春水と申します」
自己紹介をして後に、その人物に向けて軽く礼をする。
「――なるほど、さすが京都の一流ホテルといったところか。手配が早い」
思わず、そのまま平伏してしまいそうな程に威厳のある声の持ち主だった。
「恐れ入ります」
「……まぁ、人も機械も思うようにはならないというのは昔からだ。さあ、顔を上げてくれ」
その声に導かれて、春水は自然と顔を上げて彼と目を合わせる。
「――名乗りが遅れた、私は趙政……肩書の紹介は要らないだろう?十分知っているだろうし、今回にそれは作用したとしても益のないものだ」
「え……ええ、そう趙様がご希望でしたら」
「そう硬くならなくてもいい、基本的に君の決定に私は従うつもりでいる」
言葉では春水に決定権を委ねるとも取れる意味のものだったが、口調には一片もそのような気配はなかった。
「――ありがとう……ございます」
「すまない、私の振る舞いは自然と人を恐れさせてしまうと……よく言われるのに、なかなか治せなくて」
一瞬……少し寂しげな表情をした後に、彼は席を立ちあがって春水の元に来る。
――なんて……整った顔の人だろう。
素直に男性の顔に対してそう思ったのはいつぶりかなど、春水はもう覚えていなかった。
いや、あるいはそのような事は今までなかったのかもしれない。
その彼の洗練された仕草に見とれていると、
「――さぁ、美味しい料理を食べながら……君の話を聞かせてくれ」
と、彼は優しく春水に微笑んだ。
「ええ、分かりました」
春水は自然と笑顔を彼に見せていた……。
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