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番外編

パドミニ・ユルドゥズは、この世では前世より更に不思議な運命を辿っている女性と言えよう。
 その名前から見ても分かるように、インドに由来を持つパドミニ(蓮)とトルコに由来を持つユルドゥズ(星)という二つの国にルーツを持つ人物である。
 なぜこの世でそうなったのか、という理由は簡単……「父親がイスタンブールでインド料理店のシェフをしていて、トルコ人の母親と結婚したから」である。
 生まれも育ちもトルコなパドミニではあるが、親が人間の生活の根底にある食の商売をしていたため常日頃インドの文化に囲まれていた。
 であるが故に、割と早い頃に前の世の天青国の記憶を思い出した……もちろん、王翦のことも。
 しかし、パドミニは王翦を探そうとはしなかった。
 世界は天青国の頃よりももっと広いし、パドミニにとってはそれよりも留学先のドイツで一つでも多くのことを学ぶ方がこの時は楽しかった。
 しかし何よりの楽しみはオーケストラやロックバンドのコンサートやミュージカルやオペラといった「歌舞音曲」を見ることだった。
 やはり前世は一応踊り子で天青国と震の宮廷に上がったのだから、宿業に近いと言えよう。
 そして今日は、やっとチケットを取れたミュージカル「エリザベート」を見る日だった。
 初演のビデオをトルコで擦り切れるくらいまで見た大好きな演目であり、これでドイツ語を学び始めたと言っても過言ではない……。
――最高……だった……。
 パドミニは、ボーッと感動の余韻に耽りながらホールを出た。
――やっぱり生は違う……。
 その余韻の中で誰かから「パドミニ……!」と呼ばれた気がするが聞き間違いだろう。
――ああ、また見に来よう……絶対見るんだから。
 パドミニは、固く決意をして劇場を後にした。


 それから数年後、パドミニは知り合いが起こした日本とトルコの貿易会社の日本の支社の方を任された。
――確かに、日本語は観光ガイドのボランティアで頑張って覚えたけどね!?
 まだ中国語の方が話せますよ、と言いたかったが、なぜパドミニが縁もゆかりもない中国語をいきなり話せるのかと思われる事を避けるため言わなかった。
 そんなこんなで(そんなこんなで片付けていいのかは分からない)、パドミニは日本に来た。
――英語と中国語の標識がたくさんあってよかった……。
 これから日本語の勉強をしなければならない……となればやっぱりミュージカル……と、パドミニは支社の道すがらにあるポスターにフッと目を向ける。
「え……そ、そんな……」
 そこには「オペラ座の怪人」のファントムの姿をした王翦が写っていた。
 パドミニの頭は、そこでショートした。
 急いで公演のチケットを買おうとしたが、残念ながら今回は全て売り切れてしまっていた。
「悔しいーーーーーーっ!!!」
 賞味期限が近いバグラヴァをドカ食いしながら、パドミニは王翦の今までの公演でメディア化されているものを全部注文する。
 日本人の社員たちは来日早々のパドミニの行動を見て「社長はすごく王翦が好きらしい」と認識した様子で、王翦が出ている雑誌とかを「処分するよりかは……」と譲ってくれたりした。
――トルコでもドイツでも、全然俳優の王翦様の情報入ってこないってどういうこと!?
 半ばいちゃもんのような感情を、これまた賞味期限が近いピスタチオをドカ食いしながら王翦の出ているメディアや雑誌で紛らわせる。
……そして気付けば、立派なトルコ人の王翦ファンクラブ会員が出来ていた。
――大丈夫、大丈夫……きっと王翦様は私のこと覚えてないし。
 初めてのファンミーティングに参加する時、パドミニは今思えば「なんでそう思ったんだか……」と呆れ返るような事を自分に言い聞かせていた。
 日本人ばかりのファンの中、トルコ人の自分は一際目立った。
――うわ、これ迷惑だったかなぁ……。
 ファンの方々が自分へと目を向けてしまい、よくないことがあるのでは……と思っていた時だった。
「――パドミニ…………!!」
「――え?」
 そう思った次の瞬間、パドミニは王翦に抱き締められていた。
「会いたかった…………!!ずっと…………!!千年前から、ずっと!!!」
 王翦は、そのまま流れるようにパドミニにキスをする。
――あ…………。
 それは千年前、最後に交わした口付けと同じもの。
「王翦様……!!パドミニも、ずっと王翦様にお会いしとうございました……!!」
 パドミニは、涙を流して王翦様の背に手を伸ばす。
「愛している……前の世でも、この世でも……数万年先の未来でも」
――重い…………………………………………。
 しかしその重さは前世の非業の死故だろうと思うと愛おしくなる。
「えっ、どういうこと??」
 他のファンたちのざわめきで、二人はようやくハッと我に返る。
「あの、王翦様……」
「――来いパドミニ、そなたにはやってもらうことがある」
 王翦はパドミニの手を握って有無を言わさず共にステージに上げる。
「――ご紹介が遅れました、彼女は私の婚約者です」
「…………!?!?!?」
 その時のファンの顔を王翦は「一生忘れぬだろう」と言っているが、パドミニもその時ファンと同じくらい驚いていた。
――まだ何も言ってないけど?!
 いや確かに王翦が望めば身も心も喜んで捧げるが、パドミニはもう少しロマンチックな恋愛がしたかった。
――こんなに強引に進んでしまうなんて……。
と、その顔に憂いの表情を浮かべた。
 トルコやドイツでも「美人」とは言われていたが、オリエンタルな顔立ちを好む日本人にとってはパドミニの容姿は「絶世の美女」とも映るものだった。
――そりゃ考えたら王翦様はこんな美女と会ってて、結婚してないほうがおかしい!
 ファンは美しいパドミニにすっかり魅了されてしまった。
「パドミニ様は、どこの国のお方なのですか?」
 ファンの一人が、恐る恐る尋ねる。
「私ですか?私は…………」
 王翦の方にチラと目線を向けると、王翦もパドミニのことを知りたがっているようだった。
「私はパドミニ・ユルドゥズという名前の通り、トルコとインドのハーフでトルコのイスタンブールで生まれ育ちました……」


 ファンミーティングのイベントが終わった後、王翦は自分のマネージャーの亜光・麻鉱らとパドミニを引き合わせた。
「王翦様、ようやくパドミニ様を見つけられたのですね」
 彼らは、それ以上王翦とパドミニの関係を一切問うことはしなかった。(いや、そもそも聞くまでもないと理解していたのか)
「あの、王翦様……」
「今から夕食をどこかに食べに行かないか?いや……それよりも白老や桓騎に会わせた方が……?」
「白老様や桓騎将軍もこの世にいらしてるの?じゃあ雪も……」
 パドミニは前世の実子である雪の名を口にする。
「……パドミニ……雪は……」
「え…………?」
「――王翦様、白老様からお電話が……どうやらインターネットの速報をご覧になられたご様子」
「――パドミニと疾く向かう、と連絡をいれよ」
「――承知致しました」
 亜光に即答で命令した後、王翦は再びパドミニの手を取って外で待機していた田里弥の車に乗って白老・蒙驁の元へ向かう。
「ちょっと…………!」
「――政様は、この世にては政治家をしている。……そして、雪は“覚えておらぬ”」
 ようやく王翦はパドミニの問いに答えた。
「そんな…………本当に?」
「中学生の時から幼馴染の輪虎殿や廉頗殿が言うには…………な…………」
 まだこの世の彼等には会っていないが、記憶の有無に関しては嘘をつくような者達ではない、とパドミニは知っていた。
「そう……雪はそんなに前の世が嫌だったのかしら……」
「――それは雪にしか語れまい。しかし、むしろ嫌な最期だったからこそ……この世に記憶を強く持って生まれ変わる人間もいる」
 王翦は、パドミニの顎を持って自らの方に向かせる。
――あ……。
 世界の誰よりも好きな顔が目の前にあり、パドミニは混乱する。
 せめて仮面をしてくれていたらいいのに、と一瞬思うが、それはそれで震の頃を思い出して苦しくなってしまうのだろう。
「王翦様…………」
 パドミニは王翦の頬に手を伸ばすことしかできない。
「パドミニ…………」
 王翦の手はパドミニの頬に、首筋に、胸に、腰へと滑らされていく。
――それは、男が女を求めている仕草。
「あ……」
「……王翦様、秦プロダクションに付きました」
 田里弥が知ってか知らずか二人に声をかける。
「ご苦労、さぁパドミニ……おいで」
 王翦に優しくエスコートされ、パドミニは秦プロダクションの幹部の一人である蒙驁と対面する。
「白老様」
「久しいのう、パドミニ」
「白老様もお元気そうで、嬉しい限りでございます」
 一通りの挨拶を交わすやいなや、
「――おい王翦!パドミニ様を見つけたってマジかよ!」
部屋に桓騎が飛び込んできた。
「桓騎将軍」
「――お久しゅうございます、パドミニ様」
「桓騎将軍も、この世にいらしたのですね」
「――はい、私の部下も皆記憶持ちでいます。……本当に、雪だけが例外だと」
 桓騎は、寂しそうな表情をする。
「そうですか……そうなると、雪は思い出すためのきっかけがないだけかもしれませんね」
「――きっかけ?」
「ええ、例えば人間の記憶に一番残るのは嗅覚だとか……私はギーの匂いで思い出しましたし」
「そういえば、俺が思い出したのは母親がホワイトムスクの香水を百貨店で勧められた時だったな……」
「仮に嗅覚じゃなかったとしても、雪のトリガーになるものがきっとあるはずです……そう、例えば……桓騎将軍の場合、顔も十分トリガーになり得るかと」
 顔、と蒙驁と王翦は桓騎の顔を見る。
「……確かに、その顔で多くの女性を虜にしてきたな……『Bloody Flame』は……」
「フォッフォッフォッ、桓騎よ……そなた、この世でもまた雪を口説き落とせるかのう」
「何言ってるんですか、やるしかないでしょう。やってみせますよ、今回のシングルの収録が終わったらですけどね」
 桓騎は、前の世と変わらない不敵な笑みを見せてから部屋を出ていった。
「ところでパドミニよ」
「はい、何でございましょう白老様」
「そなた、いきなり王翦の婚約者という立場で公表されたそうじゃが…………大丈夫かのう?」
 心配そうな蒙驁に、パドミニは優しく微笑む。
「――正直なところ、もっとロマンチックな出会いをしたかったと思います」
「ドイツの『エリザベート』の公演で声をかけたのに無視をするそなたに、その資格はなかろう」
「え…………?もしかしてあの時私を呼んだのは、王翦様……?」
 その時の光景を、パドミニは天啓の如く思い出した。
「…………やはりそなたは“ひどい”女だな」
 皇帝への謀反を疑われて投獄された王翦と獄中で最後に言葉を交わした際に言われた“愛の言葉”を繰り返されて、パドミニは動揺する。
「そんな……普通はそんな事態、考えませんし……」
 明らかに狼狽えるパドミニを見て、王翦はフフ……と愛おしげに笑う。
「――まぁ、いい……。白老、そろそろ遅くなりますし……パドミニを送り届けても?」
 蒙驁は王翦の言葉をそれ以上追求せずに
「そうかそうか、また今度改めて話をしよう」
と、アッサリと王翦とパドミニを帰したのだった……。


 その後、パドミニは王翦のペースに乗せられないように知り合いのトルコ料理店に王翦を連れてきた。
――もしかしなくても、超高級店だな……。
 王翦は一目でそれを看破する。
「王翦様、コースで大丈夫ですよね?」
「……そなたに任せる」
「Kulağa iyi geliyor.(それで結構です)」
 パドミニの口からトルコ語が出てきたので、王翦は少し驚いているようだった。
「あの王翦様、私一応この世ではトルコ人ですからね?」
「他に何語が話せるのだ?」
「トルコ語の他には、ドイツ語と英語とイタリア語と中国語と……なんとか日本語とヒンドゥー語って感じです」
「そうか……さすがパドミニだな」
「なんだかそう言われると、恥ずかしいです」
 これまで何度か「才媛」などとも言われてきたが、王翦に言われると一際嬉しかった。
――結局私も、王翦様以外の男にはサッパリ興味がないってことね……。
 仮に今雪の実の父である天青国皇帝・熔堅が現れたとて、情けが湧くだろうか……ないだろう。
――あの方もあの方で悪いお方では決してないけれども、私はやっぱり王翦様が……。
 その美貌と知性を敢えて仮面やポーカーフェイスで押し隠した王翦が、自分にだけ見せてくれる素顔。
――欲しいのは、本当にロマンチックな出会い?
 完璧なマナーでオスマン帝国宮廷料理のコースを口にする王翦をじっと見つめて、パドミニは考える。
――そういえば、王翦様がこうやって私の前で食べるのは初めてだったかも。
 ……と、思ったがすぐに違うと思い出した。
――あの時、王翦様と一緒に柘榴を食べたじゃない。
 パドミニが宮廷に出仕するという王翦の計略を受けた時、最初で最後の愛する者同士の交合。
 甘く激しい、肌と肌の重ね合い。
――王翦様は、私に“偽の皇帝の子”を産ませたいのね。
と、勘違いしてしまう程に子種を捧げられた。
……結局、自分の身体は雪を産んで以降は子をなせなかったけれども……。
 結果として、先の高貴な出自の貴妃(残りはみんな娼婦上がり……)が産んだ政の養育を任されることになったため良かったが……。
「パドミニ」
「……えっ、なんですか王翦様」
 突然声をかけられて、パドミニはびっくりする。
「……この後、どうしたい?」
――負けた。
 パドミニは、瞬時に自分の負けを認めた。
 必ず仕留めると獲物を決めた王翦に、勝てるはずがなかったのだと。
「王翦様の……お望みのままに……」
 パドミニは、最早そう言葉を発するしかできなかった……。


「――ホテルか、私の家か……どちらがいい?」
 店を出た後、王翦はパドミニを抱きしめて耳元で尋ねてきた。
「それは……どちらかを選んだら、することは変わるんです?」
「いいや……パドミニを“抱く”というのは変わらんな」
「――では、王翦様が困らぬ方になさいませ」
 ここまで来ると、パドミニは変に冷静になっていた。
「――そうか」
 王翦は、それだけ言うとパドミニの手を引いて歩き出す。
 東京の土地勘がまだ今ひとつ分からないパドミニは、王翦に乗せられるがままついていく。
 十数分くらい歩いただろうか……いくつかの国の大使館前を通り過ぎて、住宅街の中の一軒に辿り着く。
――豪邸だなぁ…………。
 ぼんやりと考えていると、気付けばソファに座っていた。
「…………ん?」
「――何か飲むか?といってもコーヒーか紅茶くらいしか……」
「紅茶で!……あと、絶対に何も入れないでちょうだい……絶対に、よ」
 珍しく強い語調でパドミニが言うので、王翦は言われた通りにストレートで出す。
「ありがとうございます、王翦様」
「何か紅茶で嫌なことでもあったのか」
「コーヒーでも悲しい思いをしましたし、紅茶でどれだけ悲しい思いをしたか…………」
 王翦は先程のトルコ料理のコースで最後に出てきた“チャイ”を思い出す。
 ドッサリと入れてくださいと言わんばかりの砂糖入れだけがチャイと共に出され、ミルクやレモンなどはなかった。
――大方、早口の日本語で要るかどうか聞き取れずに分からないまま返事していたら……とかだろうな……。
「コーヒーは?コーヒーはトルコと日本ではあまり変わらぬだろう?」
「…………今度、私の会社協力のトルコ紀行のDVD貸しますね」
 説明が難しいと思ったのか、パドミニはそれ以上コーヒーの話題を広げなかった。
 その横顔を見て、王翦は自らが見たパドミニの最後の顔を思い出す。
 諦めのように見えて、しかしまだ完全には諦めていない表情……。
 そしてパドミニは、王翦の震乗っ取り計画を桓騎に託した。
 その結果は、史書の記す通りである。
「パドミニ」
「王翦様」
 頬に手をやったあと、王翦はそっとパドミニに口付ける。
「――私のものに、なってくれるか」
「――为你奉献一切(あなたに全て捧げます)……」
 パドミニは王翦の首に腕をやって、王翦の求めに応じた。
 その言葉を聞くと、王翦は嬉しそうな顔をする。
「まずは軽く湯を浴びた方がよさそうだな……」
「ええ……そうですね……」
 パドミニは、きっと王翦は自分の服装――会社の人から紹介されたブランドのパンツスーツ――は脱がせにくいだろうと見越して、王翦と離れてから自分で服を脱ぐ。
――それに、乱雑にされてシワになるのもお互い嫌でしょ……。
 王翦のスーツは多分ドイツのあのブランドだ……と見慣れていたからこそ察した。
「待って……好き……」
 雑誌やドラマで慣れていたはずの王翦のスーツ姿を思い出して恥ずかしくなったパドミニは、顔を覆う。
「――もう良いか?」
 王翦は、パドミニを背から抱き締めた。
「え、あ……はい……」
「風呂はこちらだ」
 そう言いながら、王翦はパドミニが身につけているショーツに手を入れて脱がせる。
「……!」
「着たまま入るつもりか?それとも……このまま抱かれる方がよいのか?」
「あ……」
「そなたには最高の快楽を供したいと思っている」
 ゾク……ゾク……と背中からせり上がってくる感覚がある。
「王翦様…………どうか…………シャワーを…………」
「相わかった」
 王翦は、パドミニの求めるようにバスルームへと連れて行く。
「わぁ…………広い…………」
「望むならば、いつでもこちらに越して来ても良いぞ」
「……それは……また考えます」
「そうか」
 それだけ言って、王翦はシャワーの栓をあけた。
 そしていい湯加減になると、パドミニを引き寄せる。
「んん……やはりいつでもお湯が出るというのはありがたいことですね……あ、クレンジングオイルお借りしますね」
 これでも一応化粧はしてますから、と洗面台に移して鏡を見ながら化粧を落とす。
 その時、鏡越しにチラと王翦を見る。
 王翦は、パドミニに対して何も言わずにシャワーを浴びている。
――多分、シャワーシーンだけでも売ったらめっちゃ稼ぎそう…………。
「はぁ……………………私はなんて方を…………」
 パドミニは頭を抱える。
「パドミニ、どうかしたか?」
「いえ……クレンジングオイルの性能に感動していたところです……」
 うまいこと誤魔化して、パドミニは王翦の元に戻る。
「……そうあまり変わってないように見えるが?」
「なら、いいんですけどね」
「すっかり冷えてしまっているではないか」
 気付けば、王翦に抱き締められていた。
「王翦様……」
「――愛している、パドミニ……」
 王翦はパドミニと唇を重ねる。
――ああ、もう我慢ができぬ。
 そのまま王翦はパドミニと深いキスを交わす。
「王翦様……」
「そろそろそなたの身体を貰う……よいな?」
 パドミニは返事の代わりに王翦にキスをした。
 手早く身体をふわふわのバスタオルで拭かれたあと、パドミニはベッドの上に転がされる。
「ん…………」
「言っておくが……千年の愛は、そう容易いものではないぞ」
「王翦様……」
「――もう二度と逃さぬ、そなたは私の女だ」
 王翦にこんなにも強い執着心を向けられる存在は自分だけなのだと思うと堪らない。
「……王翦様……」
「パドミニ……」
 王翦はパドミニの身体を丹念に愛し始める。
「あ…………あっ…………!」
 まるで、王翦の女であると刻みつけるように。
「前の世よりも胸が大きいな……それに柔らかい……いつまでも触っていたくなる」
「そのような…………」
「――私は一向に構わぬ。そうだな、例えばこのままこの褥の上でずっと交わりながら一生を終えても……」
 冗談に聞こえないトーンで言うので、パドミニはヒッと息を飲む。
「前の世では一度しか愛せなかった、そして千年を埋めるには……人間の生はあまりに短い」
――王翦様は、斯くも執着心が深かったか。
 いや違う……きっと、死の間際で見た自分と震皇帝の姿が目に焼き付いているのだ。
 震皇帝は嫌がらせのように王翦を斬首する寸前にパドミニを自分の側に侍らせた。
 執着心の原点……それは、きっと男の嫉妬だ。
「王翦様…………私はもう、どこにも行きませぬ」
 パドミニは王翦の頬に手を添えた。
「その言葉、しかと聞き届けた」
 王翦は、優しく笑ってパドミニの秘められた場所へと指を伸ばす。
「…………ッツ!」
「――やはり、そなた生娘だな……」
――嘘、バレてた…………?
「少しだけ反応が初々しかった故な……しかし、この世では私はパドミニの最初で最後の男になれるということだ……これほど嬉しいことはない」
 ゆっくりと蜜壺を指で解す王翦の顔がウットリとしているもので、パドミニは胸がギュッと締め付けられる。
――そうか、前の世の王翦様は私の最初と最後の男ではない……それを悔いておられるのか。
「王翦様…………」
「すまぬ……痛いかもしれぬが、私を受け入れてくれ……」
 王翦は、少しずつパドミニの蜜壺に自身を埋めていく。
「ウッ…………い、いた…………」
 前の世よりも大きい(と思う)王翦自身に蜜壺を拡げられて、パドミニは少しだけ痛みを感じる。
 しかし一番奥の“ある一点”を王翦自身が掠めると、途端に激しい快楽が襲う。
「あ……ああっ……………………!!」
 それはまるで、身体が王翦に抱かれる快楽を思い出したかのよう。
――快楽は心で感じるもの。
……と言ったのは誰だったか。
「……そうか……ふふ……身体は覚えていなくても、心は覚えている……か」
 キツく締め付ける蜜壺の反応を見て、王翦はニヤリと笑う。
「パドミニ、愛している…………!!」
 王翦は激しくパドミニを求めた。
 今度こそ蜜壺を自身の形にせんと王翦はパドミニを気遣う余裕もなくして蜜壺に自身を打ち付ける。
 パドミニは悲鳴にも近い嬌声を上げながら王翦を全て受け入れている。
――あぁ、処女だというのに……私の全てを咥えて……。
 王翦はパドミニを抱き締めてキスをしながら、お互い絶頂に至らんべく腰を動かす。
「……せん、さまぁ…………!」
「パドミニ……………………!!出る、出るっ…………!!…………っくく、あっ、ああっ!!」
 ビクビクと身体を震わせてイくパドミニに誘われて、王翦もパドミニの中で絶頂を手にする。
――あっ……王翦様…………!!
 王翦が身を震わせながら蜜壺に子種を捧げているのを見て、パドミニはこの上ない幸福感を感じる。
「あ…………はっ…………」
 名残惜しげに自身を抜くと、パドミニの蜜壺からはトロリと子種が溢れ出す。
――やっと私の、私だけの女に。
「王翦様……」
「パドミニ……悪いが一晩、愛させてもらうぞ」
 優しくキスをしてから、王翦は再び愛する女を抱きにかかったのだった…………。
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