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愛を奏でよVirutuosi side story

ーー本番当日。
ショーは大成功だった。
テゾーロ様は私を大々的に紹介してくださった。
私は一夜にして「黄金の歌姫(ゴオン・ディーヴァ)」となってしまった。
嬉しい気持ちもあるが、自分の身に合わないと思って少し怖い気持ちもあった。
「よくやってくれた」
「テゾーロ様」
「これでショーも大ヒット間違いなしだ」
「それはよかったです……」
テゾーロ様は、そういうと私が付けていた黄金の腕輪に触れた。
すると、その腕輪は溶け出して自分の腕を這って顎を持ち上げる。
「テゾーロ様……」
「私の能力は触れた黄金を自在に操ることができるものだ」
次の瞬間、黄金は私の首に巻き付いてチョーカーに変わった。
「…………!!」
「君は私のものだ、もう二度と手放しはしない」
「そんな、テゾーロ様……」
「君には栄誉も金も全て不足なく与えよう。……私以外の誰も、君の自由を奪えやしない」
「テゾーロ様…」
「せめて君は、私の傍にいてくれ」
宣言された言葉は、なぜか重苦しいものだった。



あれからテゾーロ様と共に世界中を公演しながら回る日々が続いた。
そしてようやく、テゾーロ様と私の故国イタリアへと戻ってこれた。
「ーーやっとお会いできましたね、Mr.テゾーロ」
辿り着いたフィレンツェのオフィスの前に行くと、見たこともないような美しい女性が立っていた。
「やっと来たかフォルトゥナ……」
「テゾーロ様の前に、赤髪のシャンクスの元に行きましたからね……。で、こちらの方が評判の“黄金の歌姫(ゴオン・ディーヴァ)”でございますか」
「えっと……」
「私は傭兵のフォルトゥナ、どうぞそのままフォルトゥナとお呼びください」
フォルトゥナと名乗った女性は、私の指先に口付けた。
「フォルトゥナ、彼女を“見て”くれるか」
「何もせずに帰ったら、サー・クロコダイルに怒られますからね。ちゃあんと、やりますよ」
フォルトゥナはテゾーロが開けたオフィスのドアを遠慮なく通る。
「さて、じゃあ失礼しますよ…………」
部屋に入ってから腕輪を外したフォルトゥナは、自分と額を合わせてきた。
「はてさて……18歳から22歳までの歌以外の記憶がない……?」
「ーーどうしてそれを」
「あ〜……私の力は特殊なもので……そうだね、未来も過去も見通せるものだから……あまりこの力、使いたくないんだよ。テゾーロ様を怒らせたしまったことあるしね……あの人の過去を受け止めるのは大変だ」
「テゾーロ様の……過去……」
「だがまぁ、君には教える義務があろうね……。いいだろう、私が見た記憶を共有しよう」
フォルトゥナがそういうと、テゾーロ様の過去が頭に流れてきた。
辛い子供時代、出会った《星》の方、天竜人の奴隷……そして、ようやく私の知るエンターテイナーのテゾーロ様。
「テゾーロ様……」
「私が教えた、なんて言ってくれるなよ。それに……君はこんな過去など知らない……という方がMr.テゾーロにとっても……嬉しいだろう」
「フォルトゥナさん……」
「君の未来は私が介入しなくても安泰だ。それでは失礼、私は少しMr.テゾーロとお話があるんでね」
フォルトゥナは、優しい微笑みを見せて部屋を出ていった。



今日はテゾーロ様は別事で忙しいということなので、私がフィレンツェで単独で公演する予定だった。
あれからフォルトゥナは「今日は君の護衛をしろと言われた」と、テゾーロ様の要求を飲んで公演を見に来てくれた。
「君の声はサー・クロコダイルもお認めになっている」
更に舞台袖でフォルトゥナは頬にキスをしてくれた。
「行っておいで」
「ありがとうございます」
フォルトゥナに送り出されて、自分はステージに上がる。
拍手が止んだあと、歌い出す。
Time to say goodbye.
Paesi che non ho mai
veduto e vissuto con te,
adesso si li vivrò.
Con te partirò
su navi per mari
che, io lo so,
no, no, non esistono più,
it's time to say goodbye.
(別れの時が来たわ
あなたが一度も見たことも
行ったこともない場所
今私はそこに
あなたと共に旅立とう
船に乗り海を越えて
それは私が知っている
いえ、いえ、もうなくなってしまった
別れの時が来たわ)
「見事な歌声じゃない」
公演中に追いついたテゾーロに向けて、フォルトゥナは言う。
「私が見出した娘だ、当然だろう」
「……やはり彼女は君の愛するステラが転生したんでしょうね。前世の記憶はないけど」
「そうか……ステラの……」
「しかし《星》を押し付けるのは辞めたほうがいい、それは救いにはならない」
「君の見える未来も、そう言っているのか」
「未来という点には応と答えましょう。あとは、乙女心という点から」
じゃあ私はドイツでの仕事があるから、とテゾーロの肩を叩いて後帰っていった……。



ーー数日後。
「久しぶりだなぁ、黄金帝」
フォルトゥナと共に、なぜかドイツにいるはずのドンキホーテ・ドフラミンゴが来た。
テゾーロがフォルトゥナを睨むと、フォルトゥナは“ごめんなさい”という顔をしていた。
「どうなさったんですか、突然」
テゾーロは営業スマイルを浮かべながらドフラミンゴに接する。
「何、フォルトゥナが俺のところに来る前にイタリアに行ってたって言ったからな。それでちょうどお前の“黄金の歌姫(ゴオン・ディーヴァ)”を一見するいい機会かと思ってよ」
「そうですか…………」
テゾーロは、変わらず貼り付けた笑みを見せている。
その時、
「テゾーロ様、フォルトゥナ様やドフラミンゴ様にもエスプレッソをお持ちしました」
タイミングが良いのか悪いのか彼女が入ってきたので、ドフラミンゴはニヤリと笑う。
「へぇ……あんたが」
「?」
「……君は早く練習に戻るといい」
「はい、テゾーロ様」
彼女は、すぐに戻っていった。
「彼女は渡しませんからね」
「別に奪おうとか思ってねぇよ。フォルトゥナの件でも懲りたしな」
ドフラミンゴはフォルトゥナの肩を持つ。
それを“サーに切り刻まれますよ”とフォルトゥナは軽く受け流す。
「ドフラミンゴ殿は、あなた方には害を及ぼしません。フォルトゥナの名を以て保証します」
フォルトゥナの宣言に、テゾーロは息をつく。
「今夜の歌姫の公演、ドフラミンゴ殿とまた聞かせていただきますね」
フォルトゥナはドフラミンゴに行きましょう、と声をかけてドフラミンゴと共に外に出ていった。

劇場のボックス席にて、フォルトゥナとドフラミンゴは“黄金の歌姫(ゴオン・ディーヴァ)”の歌を聞いていた。
「よく見つけてきたもんだな」
「本当に……私も、驚きました」
「なんだ、お前は“見て”なかったのか」
「能力の行使は、必要最低限にしています。コントロールの方法もなんとか身に着けましたし」
「まぁ、あんなに色々あったら嫌でも身に着けるし……覚醒もするか」
「ーーええ」
ドフラミンゴやテゾーロ、そしてフォルトゥナも……悪魔の実によって手にした能力は、覚醒の段階に至っている。
フォルトゥナの覚醒した能力は、未来だけでなく過去も見通せるようになるものだった。
「お前を狙っていた大体の奴の過去は見たんだろう?そしてそれを共有することもできる……お前、“黄金の歌姫(ゴオン・ディーヴァ)”にテゾーロの過去も見せたんだろう」
「ええ、ステラのことも、奴隷時代のことも」
「彼女はどうだったんだ」
「Mr.テゾーロには転生のみのことを、歌姫にはあなたが《星》の方の転生だということ以外のテゾーロ様の過去のことを話しました」
「まぁ……それがちょうどいい頃合かもしれねぇな」
ドフラミンゴはステージで歌う彼女を見る。
「今更もう強奪したテゾーロのことを怒ったりはしねーよ、ただ……人から見たら二人の道は大変なやつだな……と思ってな」
「それは否定致しませんが、乗り越えるでしょう……未来は、そう言っている」




「テゾーロ様!」
公演が終わったあと、テゾーロ様の元に行く。
「今日も本当にいい歌声だった」
「ありがとうございます、テゾーロ様」
テゾーロ様が、ぎゅっと私を抱き締めてくださる。
「テゾーロ様…………」
毎回こうされる度に、不思議だがとても幸せな気持ちになる。
「テゾーロ様、私…………」
「君が好きだ、ーー」
「え…………?」
「ずっと私のそばにいてくれ」
テゾーロ様の腕に、少し力が入る。
「テゾーロ様…………」
「わがままな男ですまない、だが私が君を幸せにしたいんだ」
「テゾーロ様……」
私はテゾーロ様の背に手を伸ばした。
「どうか君の一生を、私に…………」
「ありがとうございます……嬉しい……」
ーー今のあなたが愛してくださるだけで、私はとても嬉しいの。
私は、テゾーロ様にそっとキスをした。
「ーー!愛している…………!」
テゾーロ様は私に熱い口付けをくださった……。



「ーー君には料理の才能があるようだ」
戴いた各国の料理のレシピ本の料理を作る度に、テゾーロ様はそう言ってくださる。
「そんなことは……レシピと食材と、広いキッチンのおかげです」
「謙遜する必要はない、誰でも料理ができるという訳ではないからな」
そういう私はすぐに金で解決してしまう、とテゾーロ様は苦笑いなさった。
「それも手段としてはありでしょう。イタリアの食べ物は基本的に何でも美味しいし……他の国も、お金を出せばそれなりの物が出てきます」
サフランや玉ねぎが入った鍋に米を加えながら、別の鍋にあるトルコ料理のセブゼリ・クズの様子を見る。
「ーーそれでも、私は手料理というものに憧れるんだ」
「テゾーロ様…………」
その言葉に秘められた意味を、私は十分に知っていた。
「これからも、君の手料理を味わいたい」
「私の料理で……よければ」
「ありがとう、私のAngelo(天使)」
テゾーロ様は、そっと私の頬にキスしてくださった。
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