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Singularity Magi

「……何が楽しいのやら……」
 イシュタルは背後から無言で自分の胸を揉んでいるセルを見てため息をついた。
 セルゲームまでの九日が余程暇なのか、ならば三日後とでも言っていたらよかったのにとイシュタルは神話の本を読みながら無視をする。
 少しでも視線を下に落とせば、あの無慈悲で残酷な手が自分の胸を弄ぶのが目に入る故。
――この間のように石ころをクレープにして口に突っ込んでやろうか。
 “食べる”行為を知らなかったセルのあの時の顔といったら。
 それにクリームが期せずしてべっとり付いてしまって哀れなことになっていた。
 それを見て「エッチだなぁ」とポロリと零してしまい、セルゲーム前哨戦が行われたのはまた別の話で……。
 お父様――魔人ブウ――の読んでいたエロ文学では、もっとヤバいものもあった。
 というかなんであんなにエロ文学あったのかしら……と、思い出すと頭痛がしてきた。
 せっかく読んでいた神話の本の文字が全く頭に入ってこない、それに最初こそ下手くそ感があったが徐々にコツを掴んで来たのか厭らしい胸の揉み方をしてきていて気が散る。
「……セル」
「どうしたイシュタル?」
「そろそろ私、ご飯食べたいんだけど……」
「私には必要ないことだ」
「こ、この……食事を馬鹿にしよって……!」
 お父様も魔人族も食べるのが大好きなのに、それを否定されるなんて。
「許せない……許せなぁぁぁーーい!」
 セルから逃れて、イシュタルは本を剣に変化させた。
 そしてそのまま、セルに襲いかかる。
「ウォーミングアップか?だったら付き合ってやる」
 セルはニヤリと笑って飛び立つ。
「――!!!!!!」
 イシュタルはセルを追って空に舞い上がった。
 さすが“イシュタル”という古代の神の名前を戴いた魔人ブウの娘ということもあり、更にはセルがイシュタルの地雷を踏んできたこともあり、イシュタルは早々に勝負を付けたがったのか剣に気を集めてセルを刺し貫かんとしている。
――キャミソールと下着でよくやる……。
 セルはため息をついて近くの木を指差した。
「――イシュタル、そこに猫がいるぞ」
「えっ、どこどこ!?」
 イシュタルはすぐさま正気に戻って地に降りて猫を探す。
「猫ちゃん!猫ちゃんどこ!?」
 イシュタルはセルを視界にすら入れていない。
「――ここだ」
 セルはイシュタルを伸ばした尻尾で搦め捕った。
「な…………?!どういうこと?!」
「裸同然で気にもせぬなど、猫と変わるまい」
「だってセルは生殖能力が必要ないから性欲もないでしょ?それに“人”じゃないんだから、気にする方が気苦労を使うって」
 魔人のイシュタルにスッパリ言われてしまうと、さすがに“そう”認識されていないのかと嫌でも意識する……それはきっと、このバイオロイド……セルを男性想定で作っているが故だろう。
「イシュタル……」
「あのさ、セル。そろそろ下ろして欲しいかな。あとご飯にも行かせて欲しいかな」
 割と懇願めいた口調だったため、さすがにここから更に機嫌を損ねては再度セルゲーム前哨戦――果たして今度こそ前哨戦で終わるかどうか――になるだろうし、得策とは言えなかった。
 この女神の名を戴いた魔人には逆らわない方が……と、体のどこかから本能的に告げている。
「……さっさと食べてこい。あとちゃんと服を着ろ……」
「この格好でさすがに外には出ないなぁ」
 イシュタルは苦笑しながら魔法で服を着る。
「じゃあセル、私はしばらく出てくるから……。何か必要なものとかは……ある訳ないか」
 それだけ言って、イシュタルはどこかに飛んでいった。
「……全く……魔人とは……」
 セルはイシュタルの妖艶かつ残酷で強い所に、否が応でも惹かれていた。
――破壊神ビルスと魔人ブウには手を出すな。
 これは自分の中に組み込まれた誰の細胞の中からの声なのか。
 イシュタルは「魔人ブウが最愛の娘」と自負しているが、恐らく嘘ではあるまい……。
 でなければあんな魔術師級の芸当は不可能だ。
 きっと本当に怒れば、イシュタルは自分をパフェにでも変えてその腹に収めてしまうだろう……そんなこと許しはしないが、あの妖艶な魔術師の腹に収まるというのならそれはそれで悪くはなさそうなのが憎いところだ。
 いや、逆に自分がイシュタルを吸収してしまっても……。
 魔人の生体エキスはいかなるお味か。
 あるいはあの“扇情的で魅惑的な肢体”が尻尾の管を通る時の感覚や、彼女の腹に己が欲を注ぎ捧げる感覚はきっと……。
「…………!」
 我ながらなんて愚かで欲深く俗な考えをしているのだろうと苦笑する。
 完璧な人造人間といえど、所詮性欲には勝てないということか……とセルは自嘲した。
 ……が、それ以前にそもそもイシュタルの胸を揉みながら思考を纏めていた時点で性欲に敗北しているのでは。
 しかしあの時自然とイシュタルの豊満な乳房に手を伸ばしたくなったし、実際イシュタルの胸は揉んでいたら心地よかった。
 本当はもっと細胞の記憶に残る快楽に浸らせるような触り方もできたが……現時点でセルがイシュタルにそれをしたら、自分の身が危ない。
 それをするのは、イシュタルが真実にセルの身体を求めてきた時だ。
 あの残酷で美しい妖艶な魔術師を組み敷くのはセルの嗜好に合わない。
 落とすなら、身も心も落とした方が楽しみがあるというもの。
 それはきっと細胞の記憶にある大人の恋の駆け引きなのだろう。
 あの魔術師の口から
――セルがいなきゃダメなの。
と言葉が溢れた時、この世界の誰よりも自分は愛の存在を認めてやってもいい。
 愛という存在しない物質に狂わされる生物というものは、故に愚かで愛おしいのか。
「イシュタル…………我が愛おしき女神よ」
 セルは、その赤き目を伏せた。


 イシュタルは結局錯乱状態の人々を見ながら街に来たが、当然の如く店は営業していなかった。
 仕方ない、とイシュタルは自動販売機で何本か水を買ってテレビを見ながらコクコクと喉を潤していた。
 極端な話、イシュタルもセル同様に無理に食事を摂る必要はない。
 しかし、美味しいものは美味しいし、好きなものは好きなのも魔人だ。
 故に、イシュタルも食べることが好きだった。
「はぁ……」
 一本目のペットボトルを飲み干した時、イシュタルは自分の耳を疑った。
 地球防衛軍が、セルを倒す……など。
「――無益なことを!」
 イシュタルはすぐさま地球防衛軍の気配を探る。
「これだから国家の暴力装置は!」
 ペットボトルをゴミ箱に捨てた後、イシュタルは瞬間移動をして地球防衛軍の進路に立ちはだかる。
――この位置だ……恐らくセルは気付く。
 喫緊の課題はセルが彼らに手を下すか下さないかだ。
 イシュタルができることは、下さない方になるように彼らを止めるしかない。
 無言のまま、イシュタルはバリヤーを張る。
「……?!そこにいては危ないですよ!」
 先頭の装甲車から顔を出してきた軍人が、イシュタルに声をかける。
「この先には行かれないことを、強くおすすめします」
「しかしこの先にはセルが……」
「そのセルとあなた方では、比べ物にならないと申し上げているのです!」
 イシュタルは落ちていた石を拾い上げて装甲車に勢いよく投げつける。
 それは当然、普通に跳ね返る……かと思ったら、装甲を貫通して機関室の中に入った。
 突然のことに、操縦手はヒッと声を上げる。
「このくらいならかわいいものです……セルは私のように力加減を知らないし、人間を好いてもいない……つまり、あなた方を殺しても何とも思わない存在。……そんな存在に、無駄に命を散らす必要はありません」
 イシュタルは首を横に振った。
「ですがセルは」
「……大丈夫、本当にセルが地球の人間を全て殺すつもりなら……このイシュタルがセルを細胞残らず殺してあげるから」
 その物騒極まりない言葉を紡ぐイシュタルは、妖艶かつ残酷な魔術師そのものだった。
「……ということで、ここは人間の皆様には潔く撤退を」
 イシュタルはいつもの調子で言って、そのままクルリと彼らに背を向けた。
――まさかそこまで人間は愚かではなかろう。
 それはイシュタルの、いや魔人族の楽観的思考や性善説が起因していたと言ってもいい。
 まさか彼らがイシュタルに恐怖を抱いて発砲してくるなんて、思いもしていなかった。
「……!?」
 イシュタルは突然のことで回避行動を取れず、そのまま地に倒れてしまう。
――そんな……!どうして……。
 傷は再生するからなんともないが、その痛みよりも愛する人間から銃を向けられた方がイシュタルにとっては何倍も辛かった。
「――イシュタル!!」
 ショックで頭が冷静に働かない中、セルの声がした。
「セ……ル……」
 イシュタルは起き上がって本能的にセルの元へ行く。
 そのイシュタルをセルは抱き止め、
「あぁ、我が女神は人間に優しすぎる」
そのまま口付けを交わした。
「セル……」
「だがそれでも、イシュタルは人間を嫌いになれないのだろう?」
「え、ええ……おそらくは……」
 イシュタルはいつもよりぎこちない笑みを見せた。
 二人の眼窩には、地球防衛軍の軍隊が迫っている。
「しかし、それは己に刃を向ける者たちには適応されぬだろう?」
 セルの言葉にイシュタルは少し迷って、
「……そうね、だって私が先に死んでしまうもの」
と答えた。
 その瞬間、セルの心は決まった。
 セルはバリヤーを張って軍隊の攻撃を軽くいなす。
 本当は無くても平気だが……腕に抱く女神に万一があってはならない。
「……火薬と人件費の無駄だわ……」
 イシュタルは物憂げに目を伏せた。
 本当は、イシュタルとてこの程度の攻撃ならば軽くやり過ごせるのだろう。
 しかし、彼女は“彼ら”に対して諦めてしまった。
 まだ残酷な面を出していないだけ、“彼ら”はイシュタルに感謝しなければならない。
「――イシュタル」
 セルはイシュタルの唇を奪う。
 文字通り奪う、だ……そこには恋人の甘いキスではなく官能しかない。
 蕩けるようなイシュタルの甘い味に、セルは至極満足する。
 どうやら、女神の体液はセルを根本的に強化する作用があるらしい。
「セルっ……!」
「最高だ、イシュタル」
 セルはイシュタルと額を重ねる。
 その光景は、弾幕によって如何なる者にも見えなかった。
 砲撃の音が止むと、イシュタルは辺りを見回す。
「セル……」
 セルはグッとイシュタルの肩を抱いた。
 そして弾幕が収まると同時に、左手を軍隊に翳す。
「女神を傷付けた愚かな者たちには、罰を与えねばならんな」
「セル……」
 イシュタルはセルの頬に口付けた。
 それは女神の祝福の味。
 女神の加護を得たセルのその一撃は、一瞬で軍隊を壊滅させてしまう。
 その光景を見たイシュタルは、諦めたように目を伏せる。
 それすらも魅力的だと思えるのだから、自分は腕の中にいる女神に随分と蕩かされてしまったらしい。
「ふーむ、暇つぶしにはなったか……」
「馬鹿な人たち……セルや私に敵う訳ないのに」
「イシュタル、人間とは根本的に愚かな者たちだ。憐れむ必要などない」
 セルはイシュタルの腰を抱きながら軍隊の残骸を指す。
「でもこれで人間が下手にセルに手出しはしてこないと思う……。あなたが求めるのは孫悟空やベジータなのでしょう?」
 首を横に振ったイシュタルはセルから離れようとした。
 しかしセルは、逃れようとするその手を取った。
 そして、イシュタルの指先に唇を落とす。
「どうもその口ぶりでは私がイシュタルを“求めて”いないと思われているようだが……?」
「当たり前でしょ、戦闘面での彼らに私は全然及ばないのは事実でしょうし。私の細胞を取り入れても、利益はないでしょうね……」
 イシュタルが築き上げた魔術師の実力は、おそらくセルには継承されない。
 むしろ継承されてたまるか、とさえ思う。
 簡単に継承されたら、何のために大量の魔導書と共に二年間精神と時の部屋に入ったというのか。
「……なるほど、つまり私にとってイシュタルは価値のない存在だと思っているのだな?」
「そうねぇ、少なくとも現時点そうかしら。キスしたのも、きっとお互い少しパニックになっていたからでしょう」
――そんな訳ないだろうが。
 セルはイシュタルの人差し指の先を口に含んで軽く歯を立てる。
「……ッツ!!」
 そしてそっと目を伏せ、食い破った傷から流れる血をチロチロと舐め取った。
「ちょっと……セル……!」
 イシュタルは羞恥で顔を真っ赤にする。
「お前は気付いていないだろうが……。おそらくイシュタルの体液は、私にとってはネクタルに等しい」
――ネクタル。
 それは自分の名の由来になった女神とは別の神話の神々の酒……そして不死を約束されるもの。
 ようやく指を開放したセルの舌先と、イシュタルの指先の間に唾液の糸が引く。
 パチリと開いた赤い瞳が、その景を満足気に見つめている。
「あ……」
 お父様が読んでいた本――エロ文学――にあった叙述に酷似していて、イシュタルはセルが“その気”なのだとようやく気付いた。
「やっと分かったか?……イシュタル」
 それは、いつもより熱を孕んだ声だった。
「でもそんな、だってセル、あなたは」
「魔術師に“常識”は最大の敵なのだろう?」
 そのまま指を絡められ、耳たぶを食まれる。
「セル……ッ!」
「イシュタル、俺に身を委ねろ」
 セルはイシュタルの身体を引き寄せた……。


 さすがに処女を賜る場所が風情のないところでは愛する女神に申し訳ないものとして、セルはイシュタルを静かで、この世界のありとあらゆることを忘れそうな場所に連れてきた。
 そこには静かな波の音と、星が輝く空と、互いだけ。
 一目で高級リゾートだとイシュタルは看破するが、セルにとってそれは俗な価値でしかないのだろう。
 当然、こんなところに泊まれるような富裕層はとっくに逃げ出している……目の前にいるセルのせいで。
――表向きだけは紳士的な感じ、なのよね。
 この上なく優しくふかふかのベッドに降ろされたイシュタルは、思わず額に手をやった。
「これ読んでたロマンス小説で見たことあるやつだ……」
 それをまさか、セルがしてくるなんて思いもしない訳で。
「イシュタル……」
 一房掬い上げたイシュタルの髪に、セルは唇を落とす。
「セル……」
「我が愛しの女神、どうかその身を私に」
 恋慕と懇願と支配欲が絶妙な具合に混じったその声は、イシュタルにとって麻薬に等しい。
「セル……!」
「まぁいい……どのみち“その気”にさせるまでだ」
 セルはイシュタルを背後から抱え込むと、数時間前と全く同じ体勢になる。
「あ……」
「ふふ……どうも私はイシュタルの胸を揉んでいると思考がまとまるらしい」
 耳元で囁きながら、セルはイシュタルの胸を掴み上げた。
「…………!!!」
 数時間前にされていたのとは違って、今度はセルの手が服の上からであるとはいえ自分の胸に吸い付くのをしっかり見てしまう。
 それによって自分の胸がセルの大きい手にちょうど馴染む大きさであるという事を教えられる。
「それに柔らかくてふかふかだ……うん、やはりいつまでも揉んでいられるな……。……だが、他の男には揉ませるなよ」
 最後にいつもより一つトーンを落とした声と、少しだけ力の籠もった手。
「あ……」
 思わず快感を拾う声が溢れ、イシュタルは慌てて手で口を押さえようとするが、それはセルにキスをされることで阻まれる。
「ん……」
――だめ……こんなキスされたら……。
 イシュタルは徐々に頭がぼんやりとしてくる。
 そこはイシュタルとセルの吐息と、唾液をやり取りする音しか聞こえない世界。
 ただ二人だけの世界に酔う。
 ようやく唇が離れると、二人の唇の間に銀の糸が引く。
――斯様なまで悩ましく、愛おしいとは。
 セルはイシュタルの服の下に手を入れる。
 イシュタルの白い肌はセルに愛されるために生まれてきたかのように滑らかで、セルの手に馴染んだ。
――これで処女とは、恐れ入る。
 セルはその歓喜に震えながらイシュタルの乳房の先端を指の腹で擦った。
「……っあ……!」
「随分硬くしている……少なくとも、気持ちいい……と思ってくれたと捉えてよいのかな?」
 セルはイシュタルの耳たぶに軽く舌を這わせた。
「や……あぁ……」
 イシュタルはくすぐったさに身をよじる。
「遠慮するなイシュタル、私には全て曝け出せ……全て受け止めてやる」
「セルっ……!」
「愛している、我が女神イシュタル」
 セルはイシュタルと唇を重ねた。
 その言葉を女神に捧げ封じるかの如く、長い口付け。
 ここまで信仰心を顕にしてくる者に慈悲を向けぬことがあろうかと女神は思う。
 それにもう、女神とてこの美しく残酷な人造人間の声と容姿に魅了されている。
 だがこの人造人間が愛する人間を滅ぼすつもりなら、女神はなんとしても、止める。
 だからイシュタルはその人間に愛されぬ人造人間を、慈悲と共に愛し殺さねばならないのだ……と、体の奥底が告げている。
――しっかり私が愛して、殺してあげるわ。
 イシュタルの覚悟は決まった。
「――セル」
 イシュタルはセルの手を取り、優しく微笑む。
「ありがとう、嬉しいわ」
「イシュタル」
「お願い、ぎゅってさせて……」
「もちろん、女神の仰せのままに」
 セルはイシュタルを軽々と抱え上げて自身の膝の上に乗せた。
 そして優しく抱きしめる。
「セル……」
「イシュタル……」
――あぁ、こんなにも心満たされるとは。
 強い者と戦うことの他に、心満たされる存在があるとは。
 ……否、この強力かつ残酷で妖艶な女神さえいれば実際戦う相手にも不足しまい。
「――美しい我が女神、どうかずっと私の傍に」
 セルはイシュタルと再度キスをする。
 そしてそのまま、イシュタルの肌を暴いた。
「セル……あまり見ないで……」
 いつになく恥じらうイシュタルに、セルは支配欲を唆られる。
「なぜ私にすら隠す?イシュタルの肌はこの上なく美しくきめ細やかで……虜になりそうだ」
 言い終わる前に、セルはイシュタルの胸の先端にしゃぶりついた。
「ああっ……!」
 セルの舌が、その先端を転がす。
「セルっ……セルっ……!」
 イシュタルは身体をビクビクと震わせ、必死に快感に耐える。
 なお、もう片方の胸の先端はセルの指先で捏ねられていてこちらも狂おしい感覚に誘い込まれている。
――あんな残酷なことを言うセルが、私に。
 その優越感と幸福感は、イシュタルの特権である。
「は……」
 舌と指で捏ねられた両の胸の先端は、てらてらと妖しく形を主張している。
「うーん、その胸の谷間にワインでも注いで飲み干すはなかなかの光景だろうな……」
「な…………」
 予想の斜め上を行くセルの言葉に、イシュタルは絶句した。
 しかし、じっくりとイシュタルの胸の感触を楽しんでいるセルの目は好奇心を孕んでいる。
「悪趣味ね、セル」
 と言いつつ、イシュタルは部屋の隅のテーブルに置いてあったワインボトルを魔術で引き寄せ、
「せいぜい楽しみなさいな」
ゆっくりと鎖骨の上辺りから胸元へとワインを注いだ。
 セルは引き寄せたイシュタルの胸の谷間に溜まったワインを堪能する。
 そして飲み終わるとわざとらしく舌の音を立て、残滓を舐め取った。
「お味はいかが?」
「堪らんな……この世のどんな美酒もこれには及ばんだろうよ」
 セルはゆったりと笑ってイシュタルとキスをする。
「ならよかった、ふふ……」
――いかんな……このままでは溺れてしまう。
 イシュタルの張りのある胸や引き締まった腰元、セルに馴染む玉肌……いかなる詩人の美辞麗句でも言い尽くせまい。
 いや、いっそ溺れてしまった方がいいだろう。
 溺れに溺れ尽くして女神より賜る快楽や慈悲という確実に得るものがあるのだから、恐らく悪くない。
 それはきっと戦いでは得られないもの。
 そして何よりこの愛する女神の処女を自分は賜るのだ、生涯尽くさぬは信に反する。
「イシュタル……君の処女を賜わろうか」
「セル……」
「痛くならぬように努力するが、それでも辛かろう……気にすることはない、私の身体にその痛みを存分に刻みつければいい」
 手の甲でイシュタルの腰を撫でた後、セルは自身の指先を舌で濡らしてイシュタルの秘められた場所をなぞる。
「きゃっ……」
「ふふ……それなりに感じてくれていたのか……それは私も愛し甲斐があったというもの」
「ご、ごめんなさい……こんな、はしたなくて」
「何、むしろ感じてもらわねば男が廃る」
セルは上手いこと体勢を変えてイシュタルをシーツに沈めた。
「あ……」
 それは、もし気が変わってセルの手がイシュタルの首を締めればそう簡単には抜け出せぬ体勢だった。
 極端な話、イシュタルがセルに主導権を与えることを許す体勢でもある。
 しかし覆い被さっているセルの顔があまりにも整っていて、それはこの情事には些細なことだしセルは絶対に自分を殺さないという謎の確信が生まれる。
「セル……」
「イシュタル、我が女神……」
 セルはイシュタルの秘められた場所を指で優しく愛撫しながら肌に唇を添わせる。
「んっ……」
 セルの吐息とリップ音が生々しくて、艶めかしくて、イシュタルは狂おしい気持ちになった。
 セルはDr.ゲロが目指した“未來のイヴ”。
 ビルスとウイスより賜った第一宇宙の魔導書……否、あれは小説だ、面白かったが魔導書ではない。
 第一宇宙では、その小説にて初めて“人造人間”に“アンドロイド”という呼称を用いたそうだ。
 自分に体術の戦い方を教えてくれたガンマ1号も自らを人造人間と言ったし、呼称に人造人間と冠されている17号や18号も然りである。
 そしてセルも、自らを人造人間と呼称する。
 Dr.ゲロが目指した完璧な肉体に収められた魂……。
 それは卑俗な魂でも、亡霊の未知なる魂でもない。
 完璧な肉体に収められているのは自信家かつ気分屋で弱者を殺すことを躊躇せぬ残酷な魂であり……。
「イシュタル……」
 知らずに飲み干すことのできる毒のように甘い声で自分の名前を囁きこの肉体を求める魂である。
「セル……」
「我が女神よ、その顔は男を唆るだけだ……」
 セルの指と唇による愛撫で快感を拾ったが故に潤んでいる秘められた場所にある蜜壺の入口を、軽く円を描くように撫でる。
「あっ…………!!」
「いいか……?これからここに……私が、入る」
「そ、そんな……入る、の……?」
「入るさ。イシュタルは私に愛されるために産まれ、この時空に来たのだ……私とこうして一つになるために、な……」
 運命を囁きながら、セルはイシュタルの蜜壺にゆっくり自分の欲望を捧げてゆく。
――嘘、セルに生殖器、なんて。
 どこにあった?もしや海洋生物の生殖器官のように通常は収納されているのか?
「あっ……やぁ……」
 そんな思考なんてすぐに雲散霧消してしまう程、セルの欲望はなかなかに逞しいものだった。
 小説で読んでいたことを自分にされている、ということとセルの欲望がその蜜壺を拓いているという感覚に胸からこみ上げるものがある。
「……っつ、流石に処女を賜るとキツいな……」
 コツン、と欲望が奥らしき場所に当たると、セルは苦しそうな顔をした。
 イシュタルは、不覚にもその顔にドキリとしてしまう。
 だが、その分イシュタルも蜜壺を圧迫する苦しさに苛まれていた。
「セルっ……!苦し……!」
「慣らさずに私を挿れたのだっ……っつ!致し方あるまいっ……!それに、お前の蜜壺はまたとない名器らしいっ……!」
 イシュタルの蜜壺がセルの欲望の形を覚える間に、先端と根元をこれ以上ないくらい締め上げて来ていてセルは理性が飛びそうになる。
――優しくしてやりたいのに、優しくできそうにないなっ……。
「イシュタル……キスを……」
「ん……」
 とっさに気を紛らわしたくて、でももっと繋がりたくて、イシュタルを感じたくて、欲望を埋めるだけでは足りず唇を重ね合う。
 品のあったさっきまでのキスとは違って、愛し合いたい一心で必死に舌を絡めるキス。
「あ、ああっ……」
 息継ぎの合間にセルの欲望が更に脈打ち、イシュタルは思わず下に視線をやる。
――私、セルと一つに……。
 恐る恐るセルのそれに指を伸ばして自分と繋がっているのを再確認してしまう。
「…………っつ?!イシュタル……!!」
 セルは遂に理性の限界を迎え、身体を動かす。
「……ああっ……!」
 律動による蜜壺への刺激がなされ、イシュタルは声を上げた。
「すまないっ……!後でいくらでも抗議を受けてやるからっ……!すまないっ……イシュタル……!お前の身体を愉しませてくれっ……!」
 セルはイシュタルと自分の手の指を絡ませてから快楽を得る動きをする。
「あっ……セルっ……!」
「愛してる……好きだ……イシュタル……イシュタル……!ずっと私のそばにいてくれ……!」
 それはセルがずっと心の奥底に秘めていた感情。
「セルっ……!セルっ……!」
「もっと私を呼んでくれっ……イシュタル!」
 完璧であるが故に与えられた重すぎる感情を全てイシュタルにぶつける。
「セルっ……!すきぃっ……!」
「イシュタル…………!!!!」
 お互いを絶対に逃さぬという口付けを交わして少しした後、セルとイシュタルは互いに絶頂を与えあった。
 セルに取り込まれた何れかの細胞のせいか思っていたよりも長い絶頂と女の性である長い絶頂は更に幸福感を与えていた。
「お、お腹苦しい……」
「……!!すまん、イシュタル……」
 セルはようやく蜜壺から欲望を抜いた。
「んんっ……」
 蜜壺からは許容量を超えたセルの欲液がドロリと溢れる。
「………………」
 セルとイシュタルは、その景を見て思わず無言になった。
「こんなの、私くらいじゃないと……」
「だろうな……」
「ふふ……セルはもう私なしでは、ダメね……」
「――ああ」
「セル……」
 急に睡魔に襲われたのか、イシュタルはそのまま眠ってしまった。
 セルは安らかな寝顔のイシュタルの額にキスをする。
「お前がいなくてはダメだ、イシュタル」
 セルは優しくイシュタルを抱えて目を閉じた……。
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