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単発作品集

――シャーロック=ホームズ。
世界中の誰もが知っている、名探偵。
子供の頃から、「彼」の物語を読んで来た。
パスティーシュも読んだ。
グラナダ版や、BBC版も見た。
事件を解決する「名探偵」は多く存在するけれど、「彼」ほど惹きつけられた名探偵はいなかった。
もう一人、世界的に有名であろうベルギー生まれの名探偵を生み出した作者は、その名探偵にホームズの徹底した現場主義の捜査方法を「猟犬みたいに……」と批判的なニュアンスを込めて言わせたそうだが、「見てみないと分からない」……というホームズのスタンスは、数多の特異点を渡って来た立香にとって十分に共感できるものだった。
「お前も存外面白い奴だな、雑種。太陽の騎士・ガウェインは知らなんだのに、同じ国の名探偵は知っているとは」
第六特異点でシャーロック=ホームズと会って目を輝かせていた立香を見て、アーチャーのギルガメッシュが必死で笑いを堪えていたのは記憶に新しい。
なお、
「……ほう……イギリス……。つまりは薩摩と長州……」
と、立香が「ひょっとしたら土方さんも『英霊の座』にいるかも!」という謎の自信によって偶然召喚された土方歳三は、思考をいきなりそこまで昇華させて刀の柄に手を伸ばしかけていた。(そしてそれはカーミラの一手によって阻止された)
そんな憧れの相手でもあったシャーロック=ホームズが、今目の前にいる。
新宿のアーチャー……ホームズの宿敵であるあの教授も残念ながら召喚できなかった自分のカルデアに、なぜ――?
「立香君、私と君は昨晩遅くに契約したはずだよ?」
ホームズの言葉を聞いた瞬間、立香は悟る。
――ああ、これは夢だ。
更に彼がルーラーという特殊クラスであること、そして「初歩的なことだ、友よ(エレメンタリー・マイ・ディア)」というあらゆる「真実」を導く手がかりを「発生」させる宝具が、彼が夢にさえ現れ、自分に「真実」を夢見させて共に「真実」を考察させることが可能なのだと教えてくれる。
――私が見た夢、そして「彼」が見せたい夢。
ホームズは……教えたかったのだろう。
――この世界には、まだ「何か」ある。
……そのことを。
未だに魔術師の専門用語や難しい血脈のことは分からないけど、手元に召喚されるサーヴァントや概念礼装の豊富さは、この世界、あまつさえ別世界の多様性の存在を示唆している。
先日、縁なくとも来てくれた両儀式が「あなたと私は本来、違う世界に生きる人間なの」と、なぜか自分の思い出を残すことを避けているような節は、その説を補強しているのだろう。
「――Mr.ホームズ」
「その映画まで見たのかい?君はなかなかのシャーロキアンだね」
「私、あなたと――」
契約してないと言いかけた唇を、ホームズは推理をする際に独特のポーズをとる手の片方で押さえた。
「な?!」と、ギルガメッシュや土方はギョッとしているが、ホームズはお構いなしにそのまま立香の頬をなぞり、手が指先に至ると、彼女の指先に唇を落とした。

「――また会えるといいね」

そこで、ハッと意識は覚醒した。
「……ほらね、夢だった」
立香は、クスリと笑う。
マイルームのベッドから起き上がると、いつも通りの支度をしていつも通りの場所に行く。
「いつか会えると、いいけど」
そして目の前のドアを開ける。
そこには、


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