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芸能界パロ

あの日以降、時間が合えば輪虎と變臉の練習や振りを考えたりしていた。
お互い、そうしていると学生時代に戻ったような感覚がして、時間を忘れて借りているスタジオのスタッフから閉店の時間を伝えられてしまったり、なんの気無しにファストフード店で話し込んでいると「輪虎さんと雪様ですか?!」と何人かに囲まれて軽い騒ぎになってしまったり、と色々あるがものすごく充実した日々を送っている。
ちょうど李牧は初の個人写真集の仕事、一方の桓騎は新リリースのシングルとアルバム同時発売の仕事で雪にベッタリではないのがありがたかった。
……とはいえ、遂に『Schnee』の第三弾の広告で李牧と共に「謎のモデル」熔雪の名前が出され、雪が正式に世界にお披露目された際にはパドミニがオーナーであるレストランを貸切にして、天青国の頃の記憶を持つ臣たちが集まり盛大にお祝いの会が開催された。
その時、やっと雪は震から天青国に続いて仕えてくれていた騰や録鳴末達に挨拶ができた。
「――陛下、お久しぶりでございます」
「この間はごめんなさい、ちゃんと挨拶できなくて」
「いえ、こちらこそ……。こちらも桓騎や王翦様から聞いてはおりましたが……お会いできるきっかけがなく」
「また、よろしくお願いしますね。あ、そういえば録鳴末……君の出ていた番組の家電、あれすごく便利だった」
「え、俺の出てる番組を見てくださってるんですか!?」
「記憶が戻る前から、私あの番組結構好きで毎週見てるんですよ」
「マジか……マジかー……」
嬉しさで録鳴末が頭を抱えていると、
「――姉上!!」
仕事を急いで終わらせてきたらしい政が、雪の前に膝を付いた。
「政!」
雪は、慌てて政を立たせる。
「姉上……ようやくお会いできました」
「息災だったか、政」
「ありがとうございます。姉上は、此の世でもますますお美しいのですね」
「ああ、前と変わらず政治家の君と違って此の世では私は顔を売る仕事だ」
美しい義姉弟の再会は、それだけでも絵になっていた。
パドミニは「はぁ……」とため息をつく。
我が娘である天青国唯一の女帝・熔雪と、その次代皇帝・熔政――元々は震皇太子・趙政であり、パドミニは彼の世話係を産褥で亡くなった政の母の代わりに命ぜられた――という二人の「子」が並ぶのは、非常に感慨深いものがあった。
ここに前の世の王翦の実子である王賁――此の世では、母は同じ朱景だが父は異なるという不思議な運命を辿っているそうだ――もいれば、また違った感情を抱きそうではあるが……。
とにかく、パドミニにとっては美しい皇帝達が眩しくてならなかった。
そして共に並ぶ美しい皇帝達に、参列者は李牧・桓騎・廉頗に続き次々と二人に寿ぎの言葉を捧げていく。
美しい皇帝達は、彼等が望んでいるであろう口調で言葉をかけていく。
天青国最盛期を作り出した二人の偉大なる皇帝に、今なお忠誠を誓う者たちは多い。
そしてそれは今の世では命令を下す・執行するという物理的関係の忠誠はさすがに遠慮され、精神的な忠誠へと昇華されていた。
――西王母様が、この世に仮寓された時の御姿。
雪の死後、政は雪を伝説の仙女と同一化させた。
それは政の業績の一つとして『天青記』にも記されており、雪は中華史上唯一の女帝にして名君の一人にも数えられている。
その雪と、雪が震国より賜った「宝玉」と位置付けていた義姉弟にして猶子の政には、人を魅了し、従わせる素養があった。
その意味では、片や芸能人、片や政治家は相応しい職業だろうと誰もが思っていた。
「――母上」
突然雪と政に声をかけられ、パドミニはびっくりする。
「……ど、どうしたの?」
「母上のお店のお料理、とても美味しいです。また、友達を連れてきてもいいですか?」
「そんな……もちろんよ!例え予約が埋まっていても、こじ開けてあげる」
――パドミニなら、本当にやりかねんな……。
パドミニの傍らで会話を聞いていた王翦は、頭を抱えた。
前の世でも、生まれて間もない雪を抱えながら王賁の乳母に名乗り出たり、王翦の計画――皇帝近辺の情報の入手の為に、皇帝の寵愛を勝ち取ること――を即答で了承したり、王翦の処刑後もクーデターを起こした桓騎を助けるべく自らの権限と足(どうやら男装して走り回ったらしい)で門を開かせたり……と豪胆な女性ではあったが……。
そのパドミニの斜め上を行く豪胆なところに王翦は惚れたのであるが、それは此の世でも変わらず……いやむしろ、傍にいる時間が増えた分更に危なっかしくて王翦の頭痛の種は絶えなかった。
――雪がパドミニに似ずにいてよかった。
……というのは、口が裂けてもパドミニに言えない。
いやしかし王翦、廉頗、藺相如といった稀代の将軍たち譲りの苛烈にして美しく鮮やかな雪の戦い方にはパドミニの大胆不敵ながらも計算高いところが似たが故に成し得たのか……?と、ジッと雪とパドミニを見比べる。
「……あら、どうしたの王翦様」
「父上?」
「いいや……何もない」
「まぁ、大方雪とパドミニ様に見惚れてんだろうよ。なぁ王翦?」
それまで蒙驚らと飲んでいた桓騎が、ようやく雪のもとにやってきた。
「見惚れるなどと……」
王翦は、そのままスッと場を離れてしまった。
「――桓騎」
「パドミニ様、また雪の誕生日などにあなたのレストランを使わせてください」
「誕生日に使ってくれるの?すごく嬉しい……なんなら、直近クリスマスでもいいのよ」
「母上、申し訳ありません……その、クリスマスは……」
雪は、その先を正直に言って良いものか悩んだ。
「クリスマスは、私が一緒にチーズフォンデュをしませんかとお誘いしたんです」
気付いたら、李牧が隣に立ってくれていた。
「あら、そうなの。そういえば、李牧と桓騎にとっては雪と過ごす初めてのクリスマスだったわね……お家の時間も、大切ね」
「ええ」
「また必要な時はいつでも言ってね……あら、ちょっとシェフから連絡が来てたみたい。ゆっくりしていってね」
パドミニは、じゃあねと手を振ってから厨房へと走っていった。
「李牧…………すまぬ」
「陛下にそのような……お言葉をいただくまでではございませぬ」
「そういえば、施設長から連絡があった。『是非とも』とのことだ……なので、先に私の『Schnee』の収入を半分ほど寄付してプレゼントを購入して、余ったら他の施設にも回るように福祉団体に寄付してくれとお伝えした」
半分、と聞いて李牧と桓騎はスンッ……と真顔に戻った。
『Schnee』でのギャラは、決して少額ではなかったと思うが……と李牧と桓騎は平然としている雪を見た。
――いや、でもそれでこそ雪様でしょうね。
実際、雪という至上の女は生活のスタンダードとて最低限で満足する種の人間なのは前の世から見てきたではないか。
……故にこそ、天青国時代においては李牧と桓騎双方それぞれ己好みの服を雪に着せることができたのだし……。
此の世には「男が女に服を贈るのは、その服を脱がせたいから」という言説があるらしい。
その言説を聞いた途端、なるほどと李牧と桓騎は膝を打ったものだ。
確かに天青国の時代は平然とした顔で己が贈った己好みの服を身に纏った雪の隣に侍っていたが、その平然とした顔の下には「どう暴いて愛し尽くそうか」という男の欲望があったのだから、なんにせよろくなことを考えていない。
――生まれたままの姿が、最もお美しい。
そしてその生まれたままの姿で李牧と桓騎に愛される雪が堪らない。
その雪が廉頗や騰すらも認める慈悲深けれど苛烈にして鮮やかな軍略で勝ちを取るのが、堪らない。
「それはそれは……では、次は催しの内容を考えないとですね」
李牧は、優しく雪の手を取った。
「そうなのだ……しかし、それが一番難しい」
「姉上の施しならば、誰とて喜ぶでしょう」
「ははは……政、此度の相手は……『昔の私』だよ……」
――もし、變臉のお師匠様にお会いしなかったら私は……。
きっと、斯様に幸福な人生ではないだろう。
「姉上……」
政は少し悩ましげな雪を見て心配する。
更には、その悩ましげな表情に気付いた者が雪の元に来る。
「――陛下、いかがなさいましたか」
「おや録鳴末」
「陛下がお困りのようでしたので」
「ふむ……そうだな、ああ……そういえば君もかくし芸大会に出るんだったな……」
「はい、なぜか騰に巻き込まれてマジックをやることに……」
「おやおや、それはなかなか騰の指導が厳しかろう」
「仰る通り……鬼ですよ、あれは」
録鳴末が声を潜めて言うのに対し、雪は面白そうに微笑む。
「収録の日が楽しみだ」
「陛下は、輪虎殿と變臉をされるのでしたか」
「ああ、今回は特別に長崎孔子廟で収録させていただくことになった。オーディエンスは、司会者や一部を除いて……演者を私と輪虎さんだと明かさない上で、イベントの一幕をお借りする。……ありがたいことだ」
「そ……その回に当たった方々は、すごい大当たりですね……」
そうか……?と、雪は首を傾げるが、李牧や桓騎、政、録鳴未は「行けるものなら行きたい」と思っていた。
「だがしかし、確かに變臉はイベントで外したことはない……子供相手でも、通用しそうか」
「録鳴未が食いつくのなら、問題ないでしょう」
すると、どこからか騰が現れた。
「――騰」
「いきなり出てくるなよ!」
録鳴未の不満の声を無視して、騰は雪に礼をする。
「陛下は、陛下の思うように進めばいいのです……皆、陛下が幸せになってくれるのを願っております故」
「――騰……」
当時震国で唯一、(疲弊していたから不可能だったとはいえ)桓騎によるクーデターを止める軍事力があったであろう「強い」騰に言われると、どことなく気恥ずかしい。
しかし騰が真っ先に震国将軍の歴々の中で天青国女帝の雪を認めたことにより、天青国と震国の併合は歴史書においても高く評価される程に平和に行なわれた。
それに雪の時代で李牧・桓騎・廉頗に次ぐ有力な臣を挙げろと言われたら、人はまず騰の名を挙げるだろう。
更には瑠璃帝・雪の時代における功臣――世にいう「珠玉閣十五功臣」――にも彼らと共に名を連ねているのだから、雪が騰に厚い信頼を置いているのは間違いなかった。
「ありがとう、決心がついたよ」
「陛下のお力になれましたら、幸いです」
「そう、『昔の私』も變臉に魅せられたからこそ……變臉のお師匠様に教えを乞うたのだ」
――迷うことなど、なかったのだ……。
雪は、いつものように自信を満たした顔に戻る。
「やはり姉上は……そのようなお顔が一番お美しいです」
「ありがとう、政。私も政が演説している時の顔が一番好きだよ」
前の世では共に天青国皇帝という同じ景色を見ていた二人にとって、「統べる者」の共感という感覚は貴重なものだった。
それはある意味、李牧と桓騎が「雪を愛する者」として共感しあう感覚と近い。
唯一無二の共感相手は、得難く貴重な存在故に深い結び付きが存在するのである。
「今後、もし姉上のお力になれることがございましたら何なりとお申し付け下さい」
「ありがとう、政。是非とも、そうさせてもらおう」
雪と政は、確かな握手を交わしたのだった。

******

そして、会がお開きになると、雪は李牧・桓騎と共にパドミニと王翦が用意してくれていた近くのラグジュアリーホテルに併設されているバーでゆっくりとお酒の時間を楽しんでいた。
「ん……これは飲みやすいな……」
……といっても酒がそうたくさん飲めるわけではない雪は、李牧と桓騎にカクテルの講義を受けながら……ただ出されたカクテルを飲んでいるだけだった。
「でしょう?度数も弱いし、雪様の好きなライチの香りもして……お気に召されるかと思ったんです」
「ああ……それに色も藍天のような綺麗な色だ……チャイナブルー……気に入った」
そうして、グラスの残りを仰いだ。
「うん……まだ行けるぞ、次は何だ?」
雪は桓騎の方を向いて次のカクテルを待つ。
「そうだなぁ……」
その雪を、じっと桓騎は見つめている。
桓騎は優しい笑みを浮かべながら、雪の引き際を見極めていた。
「――桓騎」
声に吐息が混じったのに気付いた桓騎は、
「いや……そろそろ上がりにした方が良さそうだ……」
と、雪の唇を指でなぞった。
「む……まだ私は飲めるぞ」
「天にあっては比翼の鳥にならん、続きは?」
「地にあっては連理の枝にならん……簡単なことだ、白居易など」
桓騎は、雪にこの上ない愛の言葉を言わせて満足そうな顔をするが、
「いや、陛下もうお終いにしましょう。見事にら行が言えてません」
と、李牧が言うとおり飲ませるのは辞めようと思った。
「嫌だ嫌だ、馬鹿にするな私はまだ飲めるんだ」
「分かった分かった、ルームサービスでワイン頼んでやるから。とりあえずもうここの営業時間も終わりだそうだし、部屋に戻ろうぜ。李牧、後で金は返すから払っといてくれ。俺は雪を部屋に連れて行くから」
上手いこと雪を丸め込んで、桓騎は雪を連れて部屋に戻る行程を取る。
「お騒がせ致しました。おいくらでしょう?」
李牧は、雪と桓騎がエレベーターに乗るのを確認してからバーテンダーに話しかけた。
李牧は値段を聞くと無言で微笑んで、会計を済ませる。
そこには、他人に問い合わせることを許さない李牧がいた。
――さて……あのお美しいお方に、迎えていただきましょうか。
きっと寝ているだろうな……と、いう確信を持って。

――前の世でも此の世でも……か……。
桓騎は、そのまま眠ってしまいそうな雪を上手いこと宥めながら化粧を落とさせ、服を脱がせてから床につかせる。
確かに酒を飲んだ雪は一等美しいが、その雪を抱くのは憚られた。
――陛下は酒で潰して抱くような女ではない。
それは、前の世でも此の世でも同じことだ。
「ほんっとに……変わらねぇなぁ」
それがまた堪らなく愛おしいのだ。
それに、寝顔を堪能するのも乙なものである。
ルームサービスで頼んではいたが、結局飲まなかったワインを手酌で飲みながら桓騎は愛おしそうに雪を見つめる。
そうしている内に、李牧が部屋に戻ってきた。
「――悪い、手間かけさせたな」
「お構いなく、こちらこそ陛下を」
李牧は桓騎の向かい側に座る。
そして、雪の方を見て優しく笑う。
「こちらのワイングラスは?」
「雪が飲む前に寝たから、使ってねーよ」
「では、私にも一杯もらえますか」
「いいぜ」
桓騎は、李牧の持ったワイングラスにワインを注ぐ。
「……これは、いいワインですね」
「それに、見たら旧廉頗将軍領産のワインだ。俺らがよく飲んでた味だな」
「ああ……それで飲みやすいのですか」
一口飲んで、李牧は納得した。
「――色々あったな、本当に」
桓騎はホテルの窓から見える都市の夜景へと視線を向けた。
「ええ……本当に、前の世でも此の世でも色々ありました」
李牧も、同じく窓の外へと目を向ける。
「だが、こうしてまた雪に溺れて愛し抜けってのを世界の理に命ぜられてんだ……これほど幸せなことはねーよ」
同じ「雪を愛する者」である李牧しか聞けない言葉を、桓騎は言う。
「――そうですね。陛下は廉頗将軍でもなく春申君様でもなく、再び我々を愛してくださった……」
「はっ……仮にも春申君と雪が付き合ってたら、例え結婚してたとしても略奪してやるつもりだったぜ」
冗談のようには言っているが、
――もしそうなら、本気でやるつもりでしたね。
と、李牧は桓騎の悪巧みを楽しむ顔を横目に見る。
しかし李牧も、果たして雪が別の男――例え珠玉閣十五功臣の廉頗や騰であろうとも――と懇ろであったら、許せたか。
いいや、きっと許さなかった…………。
何にせよ、自分達は雪が他の男を愛することを一片も許さぬ狭量な男なのだ。
もし雪が貴種でなかったならば、雪の美貌と共に蜜壺はこの上ない名器として天下に名を轟かすであろう。
その名器の蜜壺に、愛してもいないであろう数え切れない男を咥えこんで……。
しかし雪が嫌がろうともそれを求めて、男たちはきっと相争い身を滅ぼす……そして、王朝でさえも。
そして雪は偉大なる皇帝ではなく、国を滅ぼした傾国の美女として、男に翻弄された絶世の美女として、毀誉褒貶の立場になっていたはずだ。
雪の名器を自らの身にて賜ったら、一度はその思考に陥らざるを得ない自らの思考を、何度李牧と桓騎は嘆いたことか。
「ん…………」
そこでふと、雪が声を発したので二人は視線を雪に戻す。
雪は、ごそごそと身体動かしてからハッと目を覚ました。
「――今何時!?」
「まだ夜の10時だよ……」
「え、会が終わったのって8時だったよね?そっからホテルに行って、割と飲んでたと思うけど……まだそんな時間なの?……いや、違うな……李牧、桓騎……手間をかけさせた、すまぬ」
ベッドに横になりながら微笑まれると、
――今のSEX、すごくよかった……みたいに聞こえるんだよなー……。
と、桓騎と李牧は頭を抱える。
「ん……どうしたのだ二人とも、酔いが回ったか?」
「あぁ?俺は雪と違ってすぐに潰れたりしねーよ」
「ああ……いえ、二日酔いがなさそうでよかった……と思っていたんです」
そうか……と、雪は身を起こした。
何も身に纏っていないのを、知らぬまま。
「……んなっ……」
完全に想定外で、李牧は口元を押さえる。
「おや……?」
「あー……わりぃ、雪……服を脱いだらすぐに寝ちまってよ……あんまりに安らかだったから、着せるのも忍びなくてな」
「ふむ……そうか……やはり私は付き合い程度しか飲まぬ方がよさそうだな……」
ベッドから出て、服を探す。
「――雪、探しといてやるからシャワー浴びて来いよ」
「シャワーか、ふむ……」
雪は、チラリとバスルームの方を見る。
「……はっはぁ……桓騎……『その気にさせてみろ』ということだな?」
雪は、部屋から一挙一動が見えるバスルームを見てから全てを察した。
「いーや……別に今すぐ犯しても構いはしねぇが?」
「お前の好意に甘えておこう」
雪は、ニヤリと笑ってからバスルームに入る。
「……桓騎!」
李牧は、ようやく苦しそうに言葉を紡いだ。
「いいじゃねぇか、たまには違う場所で抱くのも。……それに、お互い御無沙汰だろ?」
確かにそうですが、と反論しない李牧に桓騎は笑う。
「……なんだよ、何か不満か?」
「久しぶりで、抑えが利かなくなりそうでっ……!」
李牧は、雪を見ながらギリリと奥歯を鳴らす。
――あぁ……そういえば、お前俺が雪を抱いたのを察した時すごかったもんな……。
前の世で震から戻って来た雪を迎えた李牧は、雪の服から桓騎の香の香り――ホワイトムスク――がした瞬間に全てを察した。
そしてその夜、李牧は桓騎が“三宝玉”の特権で寝所に控えているのを知っている上で雪を抱き潰した。
――やっぱり抑えてやがったか。
あの普段は優しい笑みを見せている美しい男の顔が欲望に染まりきって、ただただ愛おしい女の肉体しか求めない獣に成り果てた姿を見て、桓騎はゾクリとしたものだ。
案の定次の日、雪は起き上がれず朝議を休んだ。
そしてその雪を一日付きっきりで甲斐甲斐しく看病したのが桓騎であり、それに対して雪は看病を快く受ける。
それは新たな三宝玉・元震将の桓騎は雪にすっかり心服していることと、雪は震の生まれの人間であろうとも然るべき評価を下して重んじることを人々に示した。
そしてその桓騎と雪の親密さは、権力欲と肉欲に囚われた上で皇配になろうとして雪の話し相手になっていた春申君とは違う、と人々はすぐに分かった。
それ故雪はもしや桓騎を皇配にするのでは、とも考える者たちもいた。
そんな状況に廉頗は輪虎や姜燕らに「あの李牧の阿呆は何故雪との仲を隠しておるのだ」と呆れながら話していたそうだが、当の李牧には雪を欲望のまま抱き潰してしまったことへの後悔と桓騎への嫉妬によって何も見えていなかった。
しかし、そんな李牧を救ったのは言わずとも雪その人だった。
雪は「それはお前が私を深く深く愛しているという証」と李牧が自らを抱き潰したことを許した。
加えて雪は「共にどうか私や私の大切な民達を支えてはくれないか」と二人に頭を下げ、更には李牧と桓騎の愛を全てその身に受けると二人の前で宣言した。
この世界で一番美しく愛おしい女に「どうか共に私を愛してくれ」と請われたら、従うしかないというもの。
それ以降、李牧と桓騎は雪を共に愛し支えることになったのである。
そうして、雪は「唯一」の皇配を取るつもりはないと表明した。
それは、丞相・李牧と車騎将軍(当時)・桓騎は雪にとっては三宝玉であり大切な者たちであるが、それにより他の家臣たちよりも発言権を一際強くするものではないと一線を引いたも同然だった。
二人はそれで満足していたし、元より色で出世せずとも彼らの能力は位に見合うものであった故に反対する者はいなかった。
結局、自分たちは雪にはとても敵わないのである……。
――李牧。
バスルーム越しに、雪は李牧の名前を紡いだ。
「――雪様……」
李牧は、ほとんど無意識に雪の元へと引き寄せられていく。
「待てよ、そのまま行ったら濡れちまう」
桓騎は、李牧のその手を握った。
「……ッツ!桓騎!」
「――まぁ……理性がぶっ飛んでるお前も、なかなかクるもんがあるぜ」
桓騎は、ニヤリと笑ってから李牧の唇と己の唇を重ねる。
目を見開く李牧、そして
「はわわわわわ」
雪の驚く声をその身に受け取った桓騎は、ニヤリと笑って李牧の服を手際よく脱がせてやる。
「さすがにまた雪を抱き潰しちまうのはアレだし……一回お互い出して頭冷やさねーと加減しねーだろうしな」
そして、驚いて放心している李牧をそのままベッドに押し倒す。
桓騎も、自らの服を脱ぎ捨てる。
「桓騎…………ッ!」
「入れたりはしねーよ……陛下にも、たまには嫉妬させてぇだろ?」
ハッと李牧は雪の方を見やった。
雪は動揺によってか、はくはくと口を動かしていた。
――なんと物欲しそうなお顔なのだ……。
まさかこの後自分が愛されるかと思っていたのに、違った時の焦らされようは如何ばかりか。
そう思うと、ゾクリと来るものがある。
そして目の前には、あの春申君に「男ですら惑わせる妖しい目」の持ち主と忌避された桓騎がいる。
さすがに抱かれたいとは行かぬまでも、
――ああ、これならば雪様が桓騎に組み敷かれることをよしとしたのも頷ける。
と、雪が桓騎に身体を許した時の気持ちを味わう。
「――桓騎」
李牧は桓騎を見つめ返した。
「はっ……どうした、気でも狂ったと思ってんのか?」
「――いえ、その…………」
蠱惑的すぎる、と紡ごうとした言葉は大慌てでバスルームから出てきた雪が桓騎を背後から抱きしめたことで阻まれた。
「――雪」
「なんだ……お前たち、私の知らぬ間にそんな関係だったのか……知らなかったぞ。なるほど、確かに共に毒を干すだけの信頼性はあるか」
桓騎の背に凭れながら、雪は二人の関係性を分析し始める。
「廉頗将軍は藺相如様を『刎頚の友』と仰っておられた……それほどに深い仲ならば、先程のように……ふむ」
雪は自らで納得したのか、桓騎から離れてのそのそと脱ぎ捨てられていた李牧のワイシャツを雑に羽織る。
「…………ということで、私は邪魔かもしれぬ故寝る」
そのままスルリと一つだけ外れたベッドに体を潜り込ませると、雪はそのまま二人に背を向けて横になってしまった。
李牧と桓騎は、同時に様々なことが起こったので処理をするためにお互いの顔を見る。
「……いやいやいやいや!!」
珍しく勢いのいい二人の声に、雪はビクリと反応した。
「なんだなんだ……何がそんなに気に食わぬ……?」
雪は不機嫌そうな口調で起き上がりつつ、上半身を軽くひねったくらいに振り向いて二人を視界に入れた。
その際に、李牧のワイシャツが雪の肩から滑り落ちてデコルテの辺りが露わになる。
「あっ……ちょっと待って……好き……」
李牧は、自分の衣が雪の悩殺的な姿を生み出していることについて恥ずかしくなって顔を隠す。
「……?なぜそんな衣を借りたくらいで」
李牧の意図を理解できずに戸惑いながら、喉が渇いたので水を飲もうと起き上がる。
桓騎は、その雪の手を引いて李牧の隣に押し倒した。
「愛する女が自分の服を着てたら……そりゃ、こうなるぜ?」
雪の秘部に猛々しい屹立を擦り付けながら、桓騎は雪のそこが潤み始めたのを察する。
「そうか……あぁ、思い出した……彼シャツ、というものだな?」
「そういう……ことだっ……!」
まだそこまで慣らしていない蜜壷に、桓騎は一息で最奥まで屹立を埋めた。
「う……ぐっ……!し、刺激が……強すぎるっ……!!」
その強い刺激は、さながら軽く絶頂を迎えるようなものと似ていて、雪は喉を反らせて無意識に蜜壷を締め付ける。
「いいぜ雪……!やっぱり雪の――は最高だなっ……!」
「なるほどっ……!お前、私の嫉妬のために李牧を使ったなっ……!」
桓騎と一寸の隙もなく深々と繋がりながら、雪は桓騎が李牧を押し倒した理由の謎を解く。
「雪様……」
「桓騎、お前は確かに李牧が美しいが故に李牧とも口付けや共に屹立を愛撫し、共に果てるくらいならば可能なのだろう……だがっ……!このように、一つになることまでは望んでおらぬのだっ……!なぜならば、私がっ……いる!お前たちが“天下の名器”と褒め称える私が!」
雪は、自分が話す間にも桓騎の屹立が蜜壺の中でビクリビクリと脈打ち更に大きくしていくのを感じる。
――あぁ、これを抜かれたら私は理性がなくなってしまう…………!
あるいは……。
「……違うか?桓騎よ……」
雪は、桓騎と自分が繋がっている部分に指を這わせる。
わざとらしく数回その繋がっている部分を撫で、桓騎を追い込む。
――さぁ、お前も李牧も結局は私を抱き潰したいのだろう?
雪は、抑えの効かない男たちの欲望――愛する男たちの本能のままの姿――を受け入れる決心をした。
「ああっ……!」
欲望のままに愛する女を求める李牧と桓騎に支配される自分を想像して、雪は極めつけのように蜜壷を締め付けて桓騎に絶頂するように命じる。
「誘ったなっ……?どうなっても知らねぇぞ……!!!!」
桓騎は、遂に理性の枷を外した。
そして雪の腰を持って激しく出し入れをする。
「桓騎っ……!!桓騎っ……!」
「出してやるよ!!その“天下の名器”に溢れるほどなぁ!!」
「ああああっ!」
蜜壷の最奥――子の宿る場への入口――と屹立がピッタリと合わさった瞬間、桓騎はこれでもかというほど欲望を吐き出す。
蜜壷の中で欲望が蜜壷の壁を打ち付け、白く染め上げる。
「あ、ああ…………」
抜けていく桓騎の屹立を恋しいと思う間もなく、今度は李牧が雪の中に入ってくる。
「ああぅ、李牧ぅ…………!」
桓騎に劣らず逞しい屹立に、雪は惚れ惚れする。
「陛下っ……陛下陛下陛下っ…………!」
「やぁぁぁっ、激し…………!」
ギリギリまで抜いたあと一息に奥まで突かれ、蜜壷の襞と屹立の摩擦を最大にせんとする李牧の目をチラと見ると、いつもの涼やかな目とは違って、永遠に飢えから開放されるような獲物を得て楽しんでいるような獣の目をしていた。
――ああっ…………そんな目されたら!
雪は、更に蜜壷を濡らしてしまう。
それに、いつの間にか桓騎の屹立を桓騎と共に手で慰めているのに気付く。
――出そう、出したそう、桓騎の。
雪は、桓騎の屹立の先を優しく指でつつく。
「こいつ…………!!!」
桓騎は、雪の胸の上に欲望をぶちまけた。
「出る…………出るっ…………!!」
桓騎のそれに誘われて、李牧も雪の最奥で欲望を捧げる。
「ああっ……出てる出てるぅ……!」
長い長い欲望の吐露が終わると、雪は桓騎に抱えられる。
そして、背後から勢いよく貫かれた。
「ああっ…………!!」
こうされたら、この先どうなるかは……
「あっあっあ…………李牧ぅ…………!」
前の世で、何度も分かっていた。
李牧と桓騎に調教されきった蜜壷は、文字通り同時に二人の欲望を受け入れることができた。
「食いちぎられそうだっ……!やっぱサイコーだぜ雪!」
「陛下の玉体が臣の男にっ……こんなに開発されてしまって……最早陛下は人を捨てるしかこざいますまいっ……」
「やぁぁっ、あぁぁぁっ…………!」
李牧の言葉攻めに、雪は善がる。
「もっともっと…………もっと!もっと激しく!!もっと!!」
李牧と桓騎は、雪の身体を蹂躙する。
雪は、最早泣き声か喘ぎ声か分からぬ声を発しながらその蹂躙を受け入れている。
激しい出し入れ、そして何度も中に出している故、雪の蜜壷からは雪の蜜の他にどちらとも分からぬ精が止めどなく溢れ出てきている。
結局、その夜ずっと雪は理性を失った李牧と桓騎にひたすら愛されたのだった…………。

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