石黒版ロイエンタール相手
銀河帝国は回廊の戦いにて突如現れた「この次元では存在しない」エリザベート・フォン・ホーエンツォレルン艦隊に驚愕した。
かくいうエリザベートも「名前は同じなのに姿が全く違う存在」の彼らに戸惑いを隠せない様子だった。
しかし時空は違えどさすがはミュラーと同い年ながら中将という艦隊を率いる者らしく、無謀な戦いに挑むことなく真っ先に部下達の身の安全の保証を願い出てきた。
ラインハルトはケスラーに丁重な扱いの上でのエリザベートの尋問を命じ、報告を挙げさせた。
その報告に挙がった軍歴には自分たちが経てきた主要な戦いのほとんどがあり、エリザベートという女性が別時空の銀河帝国で大きな期待をかけられていた存在であることが分かった。
……そして、回廊の戦いで夫であるアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将と共に戦死したはずであると。
「そう……こちらのファーレンハイト提督も」
一番最初にエリザベートの艦隊を発見したビッテンフェルトと、別時空では同期だったというミュラーにこちらの大体の概況を教えてもらったエリザベートは、寂しそうに笑った。
「私だけ、どうしてか別時空に来ることで生き残ってしまったのですね」
「フラウ・ホーエンツォレルン……」
「申し訳ありません、その……私、この先どうしたらいいか……」
「陛下は、フラウ・ホーエンツォレルンには以前いらした時空と同じ中将待遇をお任せしたいとお考えです。何分こちらの銀河帝国も人材は貴重なので、艦隊指揮能力のある方は是非にと」
ミュラーは、エリザベートの手を優しく握って答える。
「陛下の仰せのままに、とどうかお答え下さいませ。時空は違えど、私は夫と共に陛下に忠誠をお誓いした者です故」
絶世の美女であるエリザベートの優しい微笑みに、ミュラーは狼狽えた。
――別時空のファーレンハイト提督は、このような美しい方を奥方に迎えていらしたのか。
なんとも羨ましいものよ……とビッテンフェルトは思ったが、口には絶対に出せない。
この美女を軍に迎えることは吉と出るか凶と出るか……二人には、分からない。
エリザベートは、ラインハルトから艦隊指揮を任されるということになったのでなんとかこちらの時空に知識を慣らさなければと使命感に燃えた。
……逆にそれが、却って夫の死を悲しむ実感や暇はなかったからありがたいのだった。
「……アード……」
軍隊手帳に挟んでいる結婚式の時の写真を見てから、こちらの世界のファーレンハイトの写真を見る。
「あなたがいないなんて、実感が沸かないわ……」
銀髪以外に容貌の共通点がないから、こちらの世界のファーレンハイトの“遺影”を見ても、もしかしたら向こうの世界では夫は生きているやもしれぬ、と思ってしまう。
――私も馬鹿ね……。
都合の良すぎる自分の考えにため息をつくと、
「ホーエンツォレルン、少しよろしいか」
と、自身の指導役を名乗り出てくれたオスカー・フォン・ロイエンタール元帥が声をかけてきた。
「――閣下、いかがなさいましたか」
「これを卿に」
エリザベートに、ロイエンタールは小さな箱を渡す。
「まぁ!ありがとうございます、閣下。美味しそうなクッキーですこと」
エリザベートは、嬉しそうな表情をする。
「調子はどうだ、基礎知識がある故そこまで苦労はせぬと思うが」
「――ええ、閣下たちのご指導のおかげですぐにでも我が艦隊も帝国軍のお役に立てそうですわ。ヴァナディースなども修復の機会をいただき感謝に堪えません」
「別次元の技術を摂取できるのだ、またとない機会だろう。我々が軍艦全てを卿らの優れた最新鋭艦と同等に替えるのは長い時間が掛かりそうではあるが……」
「後の世でオーパーツだと言われてしまったらどうしましょう……」
「それは後の世が決めるだろうさ」
「確かに、それは私が決めることではございませんね。今の私にできることは陛下のお役に立ちますことのみ」
エリザベートの揺れることなき意志に、ロイエンタールはいっそ尊敬さえ覚えた。
――いや、それは実感できぬ夫の死に耐えきれぬが故のものか。
エリザベートの前にあるテーブルの上に載っている軍隊手帳から溢れている自身の結婚式の時だと思しき写真と、この時空のファーレンハイト戦死の新聞記事の切り抜き……。
――ヴァルハラに拒否された女……か……。
それとも彼女はヴァナディース……フレイヤそのものか。
彼女の艦隊の紋章は、フレイヤの乗り物である二匹の猫と所持していたブリーシンガメンの首飾り……。
そして、フリードリヒ四世の寵姫への召し上げの命を上手く断って中将位まで上り詰めた女。
その美貌と知略は、きっと女性の中では銀河一のものだろう。
その彼女を時空が違えどファーレンハイトが手にしていたのは些か妬けるが……。
「――ロイエンタール閣下?」
「ああ……いや、特に、何も」
「でしたらよろしいのですが……私が何かご無礼を働いたのかと思って」
「卿は強いな」
「…………?」
エリザベートは、突然の言葉に首を傾げた。
「……ああ、特に深い意味はない。そういえばホーエンツォレルン、今日の夕食は誰と取る予定だ?」
「今日はミュラー閣下が是非にと。私も、ミュラー閣下がこの時空でも同い年で同期とお聞きして非常に安心致しましたの。ミュラー閣下はたくさん面白いお話をしてくださいますし、ご一緒させていただくととても楽しいのでございます。さすがお若くして上級大将首座になられるだけの実力はお持ちでございます、私も見習わなくては」
今の私が在るのは私の時空のミュラー閣下と夫がいたからですもの、とエリザベートはチラと写真の方を見た。
よく見たら、もう一枚……士官学校時代の頃らしいエリザベートともう一人――恐らく別時空のミュラー――が並んでいる写真があった。
――別時空のミュラーには同情を禁じ得ぬな。
ここまで親しくしていて、最後にはファーレンハイトに取られてしまうとは。
その時のミュラーの気持ちは如何ばかりか。
きっとそれは、エリザベートの幸福を祝う諦念とファーレンハイトへのどす黒い気持ちであったに違いない。
「……あ……そろそろ行きませぬと……遅れてしまいますわ……。ロイエンタール閣下、もし私の帰りが遅くなりましたら先にお休みになってくださいませ。また明日も、たくさん色々教えて下さいましね」
エリザベートは手早く机の上を片付け、ロイエンタールに一礼してから部屋を出ていった。
エリザベートが気に入って使っているヘアオイルのささやかな薔薇の香りが鼻に触れ、ロイエンタールは意味ありげな笑みを見せる。
「たくさん、色々…………か…………」
そこに秘められた意図は、ロイエンタールにしか分からない。
ナイトハルト・ミュラーにとって、エリザベート・フォン・ホーエンツォレルンは突如として出来た同い年の同期であった。
良い意味で若くして出世したミュラーは、周辺に同期で自分に匹敵する実力を持つ者達がおらず、ロイエンタールとミッターマイヤーのように唯一無二の親友とも言える存在がいなかった。
それが、此度別時空から来たエリザベートによって覆されたのである。
誰もが息を飲む美貌と、回廊の戦いでファーレンハイト戦死後に現れながら見事な撤退ぶりからも伺える指揮能力の高さ。
そしてメックリンガーも大喜びするほどの芸術の理解者と、別時空なれど素晴らしいアーカイブスの持ち主……軍にいなければ、一個艦隊にも勝る智謀とも言われるヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ嬢にも匹敵したであろう女性。
これ程の女性を同期に持つとは、とても嬉しいものである。
「まぁ、ではこちらのオーベルシュタイン閣下も犬を飼っていらっしゃるのですね。確か私の時空では老いたダルマチアンだと閣下からお伺いしております」
「フラウ・ホーエンツォレルンは以前の時空では軍務尚書と仲がよろしかったのですか?」
「仲が良いわけではございませんわ。ただ私はお誕生日と季節のイベントの時にプレゼントをお渡しするくらいですもの」
いや、それでもですよ……とミュラーは思ったが、言わないでおく。
「フラウ・ホーエンツォレルンは、こちらでの生活はいかがですか。もうすぐ半月ほどになりますが……」
「皆様のおかげで……特に、ロイエンタール閣下のおかげで……私はすぐにでも皆様と戦場で戦うことができそうでございます」
ミュラーは、ロイエンタールにはそこまで教える才能があったのかと驚いた。
……が、次にはエリザベート自身の弛まぬ努力と才能がロイエンタールの指導をすぐに吸収しているのだろうと理解する。
――それにしても、ロイエンタール閣下が『指導役』を買って出るとは意外でした。
そういった役割は、大体自身かメックリンガーかルッツ、ワーレン辺りが請け負うものだと思っていた。
それが、ロイエンタールが自ら名乗り出てそうなったのである。
ミッターマイヤー元帥が『珍しいな』と言っていたので、余程のことだったらしい。
それ程までに、この美しい帝国史上初の女性将官に魅入られたということか。
――魅入られた……いや、ですがしかし。
ミュラーは、すぐさま彼女は時空が違えど既婚者であると思い出す。
「ミュラー閣下?」
「……あぁ……失礼致しました。今日のワインは美味しいなと思っていまして」
「確かに、味も香りもとても良いものですわ。きっと良いワインに違いございません」
エリザベートとミュラーは、それからしばらく色々と身の上話をしていたのだった……。
――夜十時半。
ようやくお開きとなり、エリザベートとミュラーが建物を出ると、そこにはなんとロイエンタールが待っていた。
「――閣下!」
「随分と楽しんでいたようだな」
「わざわざ閣下が来てくださる必要はありませんでしたのに」
「――何、卿がまた帰りに迷ってしまってはいかんだろう」
あたふたとするエリザベートに対して、ロイエンタールは酷く冷静にしていた。
しかし、エリザベートの右腕はしっかとロイエンタールの左手に握られている。
「申し訳ございません閣下……」
「何、ミュラーも同期ができて嬉しいのだろう。友が増えることは悪いことではない」
ロイエンタールは、ミュラーに違うと言わせぬ様子であった。
「ええ……そうですね……」
一瞬、ロイエンタールが金銀妖瞳を鋭くしたのをミュラーは見逃さなかった。
「さぁ、ホーエンツォレルン。明日も予定が詰まっているんだ、早く休まねばならない」
「そうでしたわ……。では、ミュラー閣下……ごきげんよう」
「ええ、フラウ・ホーエンツォレルン。おやすみなさいませ」
ミュラーに一礼して、エリザベートはロイエンタールにエスコートされて車に乗る。
そこで、ミュラーはロイエンタールが車に乗る直前に唇が自分に向けて動かしているのを見た。
しかし、何と言っているかまでは分からなかった。
――夜十一時。
居候させてもらっているロイエンタール邸に戻ったエリザベートは、そのまますぐにシャワーを浴びた。
温かいシャワーで一日の疲れを洗い流した後、ロイエンタールが選んでくれたシルクのナイトガウンを着る。
ただの居候にしては、あまりにも良いものを提供してもらっているなとエリザベートは感じる。
自慢の金髪を手入れしながら、エリザベートはファーレンハイトが髪を梳いてくれていたのを思い出す。
「アード……」
当然、名前を呼んでも返事はない。
「当たり前でしょう、エリザベート……」
自分に呆れ返りながら、エリザベートは寝室へと向かう。
途中、ロイエンタールの部屋の扉から明かりが漏れているのに気付いた。
「――閣下……?」
「……ん?あぁ、ホーエンツォレルンか……」
「どうなさいましたの?」
「寝る前に少し飲もうと思ってな……」
「まぁ、ホットレモンでございますか?それともグリューワイン?」
「そう来たか……俺が飲むのは普通のワインだ。ホーエンツォレルンも飲むか?」
「……分かりました、一杯だけいただきます」
エリザベートは、ロイエンタールの部屋へと入って彼の座るソファとテーブルを挟んだ反対側のソファに座った。
「……でも、本来は閣下だけがお飲みになるのですから……考えたらグラスは一個しか用意されていませんわね」
「迂闊だったな。すぐに用意させる」
「いえ……!そこまでなさらなくても大丈夫ですわ……寝る前のお話でしたら、ワインがなくとも十分でございます」
ロイエンタールが使用人を呼ぼうとするのを、エリザベートは慌てて止める。
「そうか」
「ええ……あまり寝酒は良くないと父に、自分は寝酒しながら聞かされていましたから」
「卿の父上は、さぞ優秀な方だったのだろうな」
「ええ、私の父・マクシミリアンとメルカッツ提督は最高の指揮官でございましてよ。私は父の従卒もしておりましたので父のすごさは一番に分かっておりますし、メルカッツ提督の副官や座乗艦の艦長などに着任していましたので、誰よりも見聞きしております」
そうか、だからリップシュタットでは門閥貴族側に付いていたのかと納得する。
そしてメルカッツ提督に近い軍歴は当然ファーレンハイトとも接する機会も多いだろうし、最後のガイエスブルク要塞の局面でも裏切ることなくいたというのだから、懇意になるだろうと頭の回転が速いロイエンタールはその結論に至る。
グラスから唇を離したロイエンタールは、また少し別時空のファーレンハイトに嫉妬した。
「……ですが、優秀過ぎるのと美しすぎるのとで父は門閥貴族達の恨みを買って殺されましたわ。……私、も……」
ギュッと自分を抱きしめたエリザベートは、期せずしてそれが胸を強調するのに気付かない。
今まで抱いてきた女の誰よりも、帝国軍の軍服に包むのには惜しいくらいの煽情的な肢体……。
それでありながら素晴らしい艦隊指揮能力の持ち主で、勝利に貢献してきたという。
まさにそれはフレイヤの如く。
そして別時空では彼女がいた故にファーレンハイトの旗艦がダルムシュタットという古のドイツの地名ではなく、ヘイムダルというフレイヤのブリーシンガメンをロキより取り戻した神の名を冠することになったのかもしれない。
――ヘイムダルに娶られたフレイヤとはな。
「……やっぱり、寝る前に厨房に行ってホットレモンを戴こうかしら」
ロイエンタールの思惑などいざ知らず、エリザベートはポツリと溢す。
「卿が俺に遠慮しているなら、俺の分も頼もう」
エリザベートのその言葉を拾って、ロイエンタールは執事を呼びつけホットレモンを二人分頼んだ。
「申し訳ございません、閣下。わざわざ私に気を遣っていただき」
「何、気にすることはない。俺は陛下より卿の艦隊の世話役・指導役を命じられたのだ。卿の足りぬものは遠慮なく申し付けてくれて構わん」
「畏れ多いことでございますわ。こちらのファーレンハイト提督の損失の穴を埋める形になってしまい、とても心苦しいのですけれど」
「その内卿が武功をあげれば、ファーレンハイトの残存艦隊を引き継ぐことになるだろう」
「ファーレンハイト提督の……でございますか。こちらのファーレンハイト提督と私は婚姻関係にはございませんでしたが、これも何かの縁でございましょうね。それにきっとあちらの世界で私のみが生き残っていたら、陛下も同じことを仰せになったと思います」
それが軍に身を置き、共に歩んできた者として出来る弔い、とエリザベートの瞳は固い意志を宿した。
「悲しんでいる暇などない……か」
「……え?」
「――いいや、俺が思うに卿は父君の死以降ずっとここまで走り続けて……悲しむ暇などなかったのではないか?」
「確かにそうでございますね……。悲しむよりも、私にはやるべきことがたくさんあるからかもしれません。私も一個艦隊を率いる身、私には私を信頼して命を預けてくれる部下が多くおります。私がその責任を投げ出して涙に暮れることは、誰も許さないでしょう。半身たるキルヒアイス元帥を失われた陛下にお仕えするとは、そういうことでございます」
――お辞めくださいアンスバッハ殿!
仇討ちを察知しながらも止められなかった自分は、そういうことなのだ……。
キルヒアイスの最期の姿がフラッシュバックして、エリザベートはギュッと目を閉じる。
――シシィ、共に死んでくれるか。
ファーレンハイトとの最後の通信で、自分は迷わず「いいわ、ヴァナディースはヘイムダルの援護をします」と言った。
たくさんの将兵を殺してしまった……。
そんな自滅願望のある上官など、真っ平御免である……そのはずである……。
しかし、自分の艦隊は一隻も損ずることなく――あの時から少しだけ時間が巻き戻ったかの如く――部下丸々こちらの世界に来てしまった。
何が起こったか、分からなかった。
――ご無事ですか、閣下。
先に命を落とした副官のシェレンベルク大佐に抱き起こされた時、二人して唖然としたものだ。
もちろんすぐさま退却の命令は出したが、いつもより少しだけ全体の行動が遅かったことからも艦隊全員が緊急事態の上を行く緊急事態に対応しきれなかったというのもあるのであろう。
……加えて艦隊の者全員がどんな死に方をしたのかは自分自身では何故かぼんやりとしていて思い出せないのだった。
そのため同僚が自分より先に死んだ者の死因を教えたり、それがいない者は直前の行動から推察したりなどするぐらいしかできなかった。
かくいうエリザベートも、
――アード……お願い、生きて……。
と、ヴァナディースの艦橋に被弾しながら、まだ戦い続けていたヘイムダルを見て意識を失ったことしか覚えていない。
――私はアードとの約束を破ってしまった。
なぜならば共に死んでくれるかと言われたのに生きてくれと願ってしまったから、更には自分が別時空で生きているからである。
「私…………」
エリザベートは、ヴァルハラか別時空に置いてけぼりのファーレンハイトを思い出して涙が流れてくる。
もう泣かない、と誓ったのに。
「私っ…………」
「エリーゼ……!!」
気付けば、エリザベートはロイエンタールに抱き締められていた。
「閣下……………!!」
「卿は気を張りすぎだ……エリーゼ」
「でも、だって、私がしっかりしないと、みんなが、アードが」
――フレイヤたれと定められた帝国史上初の女性士官とは、斯くも。
ロイエンタールはエリザベートの肩からナイトガウンを滑らせ、肌を晒させる。
「………!!」
「Meine Freyja(我が女神)……どうか今宵だけでも、あなたがありのままであれますよう」
「閣下………!!」
拒まなければならない、でも、ロイエンタールを拒んでしまったら……この先自分や自分の部下たちは、と思って中途半端な抵抗をしてしまう。
ロイエンタールは既にそのようなことを見通した上で、
「――俺に身を委ねろ」
と、エリザベートの鎖骨にキスをした……。
「閣下………」
ベッドの上に乗せられたエリザベートは、恐る恐るロイエンタールを呼ぶ。
「Meine Freyja……」
ロイエンタールはエリザベートの指先に唇を近付けた。
「閣下……?」
「卿が女神でないとすれば何者か?まさかただの哀れな女なぞではあるまい……?」
ほんの数秒、どう答えたか迷ったエリザベートだったが、
「私はホーエンツォレルン伯爵家が長女、エリザベート・フォン・ホーエンツォレルン。軍の位階は中将でございます。確かに私はゴールデンバウム朝の皇帝から“ヴァナディース”とフレイヤのアトリビュートともいえる紋章を賜りましたが、それは私が女神に昇華されたことにはなりますまい。私は帝国の、陛下の、忠実な臣下でございます」
と、ロイエンタールに応じた。
ナイトガウンを下ろされて肌を晒されていようと物怖じせずに言い切るエリザベートの気の強さに、ロイエンタールは感心する。
――ただの女ならば、その身体で男を絡め取ることも容易かろうに。そして、それを利用して出世なども目論むのが女という生き物だ。
……というのは、ロイエンタールの生来の思想で。
ファーレンハイトたった一人にしか肌を許さぬまま中将まで出世した“女”が、“女神”でないはずがない。
これまでのキャリアでも人を騙さず廉直に生きてきたという……女という生き物は、男を裏切る生き物ではなかったか。
ではエリザベートがロイエンタールの定義するところの“女”ではないのならば、何なのか。
そして行き着いたのは、彼女が、彼女自身が“女神”になり参らせたという結論だった。
時空を超えてくる力なぞ、“人間”にはない。
“神”にしかできぬことを彼女はした。
ならば彼女はこの世で“女神”になり給うた。
――だから、俺は今から“女”ではなく“女神”を抱く。
この美しくて身寄りのない迷える“女神”を。
迷える“女神”がロイエンタールで慰めを得られるならば、幾らでもこの身を捧げよう。
「……ふふ、俺と同じだな」
「ええ、閣下と同じ臣の立場でございます」
「――そうだな、Meine Freyja」
ロイエンタールはエリザベートの唇を奪う。
「……!!」
エリザベートが目を見開いている合間に、ロイエンタールはエリザベートを押し倒した。
そして、彼女を逃すまいと覆い被さる。
「閣下っ…………!!」
そこでロイエンタールが本当に自分の身体を目的にしているのだと気付いて、エリザベートはそこで初めて強めに抵抗を見せた。
……だが、ロイエンタールとエリザベートでは白兵戦と閨の場数が天と地ほどの差があった。
それに、力の差も……。
「お、お辞めください……!」
容易に組み伏せられてもエリザベートは必死に身を捩ってロイエンタールから逃れようとした。
「Meine Freyja、卿がもしこのまま俺を拒めば……俺は陛下にエリザベート・フォン・ホーエンツォレルンに逆心ありと奏上するが?」
耳元でその言葉を聞きた瞬間、ピタッとエリザベートの抵抗が止んだ。
「お辞めくださいませ……!そのような讒言、帝国の平和を乱しかねませぬ!」
「しかし特異点事象(シンギュラリティ・ワン)たる卿や卿らの艦隊は、俺という身分の保証がなければたちまち銀河のならず者となろう」
エリザベートは、激しく戸惑う様子を見せた。
何一つ間違ってはいないが、自分の決定がもたらす代償があまりに大きくて。
もしや、ロイエンタールは全て計算している上でエリザベートを求めたのだろうか。
……と、考えが至った瞬間エリザベートはやはりこの時空のロイエンタールにも勝てないのだと悟った。
ロイエンタールの金銀妖瞳を見つめる。
――私、閣下の金銀妖瞳(ヘテロクロミア)のお色……とても美しくて好きですわ。
と前の時空で何気なく言った時、彼は悲しそうに笑っていた。
遺伝による虹彩異色症だから彼による責任ではないし、地球時代の大作ファンタジー小説の映画版の主人公の俳優は同じ症例の人だった。
だが、ロイエンタールは金銀妖瞳(ヘテロクロミア)に強いコンプレックスを持っているようだった。
そして、後にエリザベートはミッターマイヤーからこっそりと彼の女性不信の原点を教えてもらった……。
エリザベートはロイエンタールの頬を包み込み、
「……かわいそうな閣下、あなたには無償の愛を教えてくださる方がいらっしゃらなかったのですね」
思わず、そう、言葉が溢れた。
「…………ほう?」
「それは男女の性愛では決して得られぬものでございます。それはお互いの快楽を伴うものでございますから。無償の愛……見返りを求めぬ愛……。オスカー、生まれてきてくれてありがとう」
エリザベートは、ロイエンタールを抱き締める。
「……………………?!?!?!?」
ロイエンタールは混乱しているようだった。
――俺は……。
ふわりと柔らかなものに、包まれている感覚がする。
ロイエンタールの過去も現在も未来も全てを受け入れ、尚も愛し、見返りを求めぬという無償の愛。
それは、斯くも温かいものだったか。
「――エリザベート……」
ロイエンタールは、エリザベートと口付けを交わす。
「ロイエンタール閣下……」
「――俺を救ってくれ、Meine Freyja」
「私にできることでしたら……」
エリザベートは長く虚空に伸ばされていたロイエンタールの手を取ることを決めた。
そっとエリザベートは目を伏せる。
――ごめんなさい、アード。
心の中で、生死の分からぬ別時空の夫に謝る。
――君は優しい人だな、シシィ。ロイエンタールにまで、慈悲を向けるとは。
――ごめんなさい、でも、放っておけなくて。
ファーレンハイトは、何も言わずエリザベートを抱き締めた。
――ごめんなさい……一緒に逝けなくて。
――いいや……生きているからこそ、君に……君が、できることもある。
ファーレンハイトは、エリザベートの頭を撫でる。
――また会おう。君が歩み終わるまで、俺や君の父上は幾らでも待っているさ……。
――ありがとう、アード。あなたも、優しい人ね。
――さて、どうだろうな。死んでいなかったらロイエンタールを殴り殺していただろうよ。
――やっぱりそうだろうと思った……。
エリザベートは呆れ返った。
――だがシシィはまだ生きている。その世界で成すべきことがあるから君は特異点(シンギュラリティ)になった。良き旅を、シシィ!……俺はずっと、シシィを愛している。
ファーレンハイトとエリザベートは、口付けを交わした。
――ありがとう、アード。……いってきます!
目を開けたエリザベートは、ロイエンタールに優しく微笑んだ。
「エリーゼ……」
ロイエンタールはエリザベートと唇を重ねる。
初めは重ねるだけの、そして徐々に深いものに。
お互いの憂いと戻れぬ関係になるという誓いを飲み干すかの如くの深い口付け。
ロイエンタールの口腔内に残る赤ワインの味が、エリザベートにも渡される。
「……あ……」
ロイエンタールの手はエリザベートの豊満な両の胸を愛撫せんとした。
白く滑らかな肌に、ロイエンタールを刻み込んでいく。
「んんっ…………」
ロイエンタールが左の胸の飾りを口に含むと、エリザベートはロイエンタールの頭を撫でた。
なぜだかそうしなければならないような気がした。
ロイエンタールは乳飲み子のように必死に胸の飾りを愛撫する。
許されなかった分を、取り戻すかのように。
ロイエンタールの気の済むまで、とエリザベートは時折の強い刺激に耐えながら優しく頭を撫でていた。
しかしロイエンタールとて自分のためだけにエリザベートの身体を攻めているのも悪かろうと、エリザベートの太腿を撫でた。
「……んっ……!!」
スルリと一撫ですると、エリザベートの身体が震える。
少しだけ左脚が上がったのを見逃さず、ロイエンタールはエリザベートの内腿に手を忍ばせた。
そして、何度か優しく撫でた後に秘められた花芯に指を伸ばす。
「……っあ……!!」
すぐに蜜壺の入口を見つけられ、そこから溢れる蜜を掬い上げられて花芯に塗りつけられる。
「あっ…………ああっ…………!!」
「ここは気持ちいいと、教えられているんだな」
口付けの合間に、ロイエンタールはニヤリと笑う。
「――いい子だ、エリーゼ。……大分こちらも解れてきたな」
ロイエンタールは、ゆっくりと蜜壺に指を入れてゆく。
「…………!!!」
「久しぶりか?少しだけキツいな……まぁ、その方が俺も抱き甲斐がある」
少し笑ったロイエンタールがエリザベートの蜜壺の中を何度か指で探った後、もう知ったとばかりにエリザベートの弱いところを重点的に攻め上げてきて、エリザベートはビクビクと身体を震わせる。
そのためか蜜壺からは止めどなく愛液が溢れた。
「本当はもっと愛してやりたいところだが……俺ももう我慢できないんでな、許してくれ」
すっかり快楽に浸っていて開かれたエリザベートの脚の合間に入り込むと、ロイエンタールは何度か自身を入口で擦った後エリザベートの蜜壺に自身をゆっくりと挿れていく。
「ん、んんっ…………!!」
指とは比べ物にならないロイエンタールのものを、エリザベートは必死に受け入れようとする。
それが愛の証であると知っているから。
「……っは……流石だな、全部入ったぞ」
「本当……?よかった……」
心から嬉しそうなエリザベートの顔を見て、ロイエンタールは背中がゾクゾクする。
――めちゃくちゃにしてやりたいな……。
ロイエンタールの自身を包む蜜壺の肉の感覚を、もっと味わいたい。
Meine Freyjaの美しい姿を、もっと見たい。
「エリーゼ…………!!」
気付けば、エリザベートと両手を絡めてキスを交わしながら蜜壺を堪能していた。
「あっ…………ああっ…………!!」
エリザベートは何度も絶頂しながら、逃れられぬが故にロイエンタールを受け入れ続けている。
「エリーゼ…………エリーゼ…………エリーゼ!!」
一番奥を突くと共に、エリザベートとロイエンタールは同時に絶頂を迎える。
激しい呼吸がようやく落ち着くと、二人はもう一度キスをした。
最早そこに、言葉は必要なかった。
かくいうエリザベートも「名前は同じなのに姿が全く違う存在」の彼らに戸惑いを隠せない様子だった。
しかし時空は違えどさすがはミュラーと同い年ながら中将という艦隊を率いる者らしく、無謀な戦いに挑むことなく真っ先に部下達の身の安全の保証を願い出てきた。
ラインハルトはケスラーに丁重な扱いの上でのエリザベートの尋問を命じ、報告を挙げさせた。
その報告に挙がった軍歴には自分たちが経てきた主要な戦いのほとんどがあり、エリザベートという女性が別時空の銀河帝国で大きな期待をかけられていた存在であることが分かった。
……そして、回廊の戦いで夫であるアーダルベルト・フォン・ファーレンハイト上級大将と共に戦死したはずであると。
「そう……こちらのファーレンハイト提督も」
一番最初にエリザベートの艦隊を発見したビッテンフェルトと、別時空では同期だったというミュラーにこちらの大体の概況を教えてもらったエリザベートは、寂しそうに笑った。
「私だけ、どうしてか別時空に来ることで生き残ってしまったのですね」
「フラウ・ホーエンツォレルン……」
「申し訳ありません、その……私、この先どうしたらいいか……」
「陛下は、フラウ・ホーエンツォレルンには以前いらした時空と同じ中将待遇をお任せしたいとお考えです。何分こちらの銀河帝国も人材は貴重なので、艦隊指揮能力のある方は是非にと」
ミュラーは、エリザベートの手を優しく握って答える。
「陛下の仰せのままに、とどうかお答え下さいませ。時空は違えど、私は夫と共に陛下に忠誠をお誓いした者です故」
絶世の美女であるエリザベートの優しい微笑みに、ミュラーは狼狽えた。
――別時空のファーレンハイト提督は、このような美しい方を奥方に迎えていらしたのか。
なんとも羨ましいものよ……とビッテンフェルトは思ったが、口には絶対に出せない。
この美女を軍に迎えることは吉と出るか凶と出るか……二人には、分からない。
エリザベートは、ラインハルトから艦隊指揮を任されるということになったのでなんとかこちらの時空に知識を慣らさなければと使命感に燃えた。
……逆にそれが、却って夫の死を悲しむ実感や暇はなかったからありがたいのだった。
「……アード……」
軍隊手帳に挟んでいる結婚式の時の写真を見てから、こちらの世界のファーレンハイトの写真を見る。
「あなたがいないなんて、実感が沸かないわ……」
銀髪以外に容貌の共通点がないから、こちらの世界のファーレンハイトの“遺影”を見ても、もしかしたら向こうの世界では夫は生きているやもしれぬ、と思ってしまう。
――私も馬鹿ね……。
都合の良すぎる自分の考えにため息をつくと、
「ホーエンツォレルン、少しよろしいか」
と、自身の指導役を名乗り出てくれたオスカー・フォン・ロイエンタール元帥が声をかけてきた。
「――閣下、いかがなさいましたか」
「これを卿に」
エリザベートに、ロイエンタールは小さな箱を渡す。
「まぁ!ありがとうございます、閣下。美味しそうなクッキーですこと」
エリザベートは、嬉しそうな表情をする。
「調子はどうだ、基礎知識がある故そこまで苦労はせぬと思うが」
「――ええ、閣下たちのご指導のおかげですぐにでも我が艦隊も帝国軍のお役に立てそうですわ。ヴァナディースなども修復の機会をいただき感謝に堪えません」
「別次元の技術を摂取できるのだ、またとない機会だろう。我々が軍艦全てを卿らの優れた最新鋭艦と同等に替えるのは長い時間が掛かりそうではあるが……」
「後の世でオーパーツだと言われてしまったらどうしましょう……」
「それは後の世が決めるだろうさ」
「確かに、それは私が決めることではございませんね。今の私にできることは陛下のお役に立ちますことのみ」
エリザベートの揺れることなき意志に、ロイエンタールはいっそ尊敬さえ覚えた。
――いや、それは実感できぬ夫の死に耐えきれぬが故のものか。
エリザベートの前にあるテーブルの上に載っている軍隊手帳から溢れている自身の結婚式の時だと思しき写真と、この時空のファーレンハイト戦死の新聞記事の切り抜き……。
――ヴァルハラに拒否された女……か……。
それとも彼女はヴァナディース……フレイヤそのものか。
彼女の艦隊の紋章は、フレイヤの乗り物である二匹の猫と所持していたブリーシンガメンの首飾り……。
そして、フリードリヒ四世の寵姫への召し上げの命を上手く断って中将位まで上り詰めた女。
その美貌と知略は、きっと女性の中では銀河一のものだろう。
その彼女を時空が違えどファーレンハイトが手にしていたのは些か妬けるが……。
「――ロイエンタール閣下?」
「ああ……いや、特に、何も」
「でしたらよろしいのですが……私が何かご無礼を働いたのかと思って」
「卿は強いな」
「…………?」
エリザベートは、突然の言葉に首を傾げた。
「……ああ、特に深い意味はない。そういえばホーエンツォレルン、今日の夕食は誰と取る予定だ?」
「今日はミュラー閣下が是非にと。私も、ミュラー閣下がこの時空でも同い年で同期とお聞きして非常に安心致しましたの。ミュラー閣下はたくさん面白いお話をしてくださいますし、ご一緒させていただくととても楽しいのでございます。さすがお若くして上級大将首座になられるだけの実力はお持ちでございます、私も見習わなくては」
今の私が在るのは私の時空のミュラー閣下と夫がいたからですもの、とエリザベートはチラと写真の方を見た。
よく見たら、もう一枚……士官学校時代の頃らしいエリザベートともう一人――恐らく別時空のミュラー――が並んでいる写真があった。
――別時空のミュラーには同情を禁じ得ぬな。
ここまで親しくしていて、最後にはファーレンハイトに取られてしまうとは。
その時のミュラーの気持ちは如何ばかりか。
きっとそれは、エリザベートの幸福を祝う諦念とファーレンハイトへのどす黒い気持ちであったに違いない。
「……あ……そろそろ行きませぬと……遅れてしまいますわ……。ロイエンタール閣下、もし私の帰りが遅くなりましたら先にお休みになってくださいませ。また明日も、たくさん色々教えて下さいましね」
エリザベートは手早く机の上を片付け、ロイエンタールに一礼してから部屋を出ていった。
エリザベートが気に入って使っているヘアオイルのささやかな薔薇の香りが鼻に触れ、ロイエンタールは意味ありげな笑みを見せる。
「たくさん、色々…………か…………」
そこに秘められた意図は、ロイエンタールにしか分からない。
ナイトハルト・ミュラーにとって、エリザベート・フォン・ホーエンツォレルンは突如として出来た同い年の同期であった。
良い意味で若くして出世したミュラーは、周辺に同期で自分に匹敵する実力を持つ者達がおらず、ロイエンタールとミッターマイヤーのように唯一無二の親友とも言える存在がいなかった。
それが、此度別時空から来たエリザベートによって覆されたのである。
誰もが息を飲む美貌と、回廊の戦いでファーレンハイト戦死後に現れながら見事な撤退ぶりからも伺える指揮能力の高さ。
そしてメックリンガーも大喜びするほどの芸術の理解者と、別時空なれど素晴らしいアーカイブスの持ち主……軍にいなければ、一個艦隊にも勝る智謀とも言われるヒルデガルド・フォン・マリーンドルフ嬢にも匹敵したであろう女性。
これ程の女性を同期に持つとは、とても嬉しいものである。
「まぁ、ではこちらのオーベルシュタイン閣下も犬を飼っていらっしゃるのですね。確か私の時空では老いたダルマチアンだと閣下からお伺いしております」
「フラウ・ホーエンツォレルンは以前の時空では軍務尚書と仲がよろしかったのですか?」
「仲が良いわけではございませんわ。ただ私はお誕生日と季節のイベントの時にプレゼントをお渡しするくらいですもの」
いや、それでもですよ……とミュラーは思ったが、言わないでおく。
「フラウ・ホーエンツォレルンは、こちらでの生活はいかがですか。もうすぐ半月ほどになりますが……」
「皆様のおかげで……特に、ロイエンタール閣下のおかげで……私はすぐにでも皆様と戦場で戦うことができそうでございます」
ミュラーは、ロイエンタールにはそこまで教える才能があったのかと驚いた。
……が、次にはエリザベート自身の弛まぬ努力と才能がロイエンタールの指導をすぐに吸収しているのだろうと理解する。
――それにしても、ロイエンタール閣下が『指導役』を買って出るとは意外でした。
そういった役割は、大体自身かメックリンガーかルッツ、ワーレン辺りが請け負うものだと思っていた。
それが、ロイエンタールが自ら名乗り出てそうなったのである。
ミッターマイヤー元帥が『珍しいな』と言っていたので、余程のことだったらしい。
それ程までに、この美しい帝国史上初の女性将官に魅入られたということか。
――魅入られた……いや、ですがしかし。
ミュラーは、すぐさま彼女は時空が違えど既婚者であると思い出す。
「ミュラー閣下?」
「……あぁ……失礼致しました。今日のワインは美味しいなと思っていまして」
「確かに、味も香りもとても良いものですわ。きっと良いワインに違いございません」
エリザベートとミュラーは、それからしばらく色々と身の上話をしていたのだった……。
――夜十時半。
ようやくお開きとなり、エリザベートとミュラーが建物を出ると、そこにはなんとロイエンタールが待っていた。
「――閣下!」
「随分と楽しんでいたようだな」
「わざわざ閣下が来てくださる必要はありませんでしたのに」
「――何、卿がまた帰りに迷ってしまってはいかんだろう」
あたふたとするエリザベートに対して、ロイエンタールは酷く冷静にしていた。
しかし、エリザベートの右腕はしっかとロイエンタールの左手に握られている。
「申し訳ございません閣下……」
「何、ミュラーも同期ができて嬉しいのだろう。友が増えることは悪いことではない」
ロイエンタールは、ミュラーに違うと言わせぬ様子であった。
「ええ……そうですね……」
一瞬、ロイエンタールが金銀妖瞳を鋭くしたのをミュラーは見逃さなかった。
「さぁ、ホーエンツォレルン。明日も予定が詰まっているんだ、早く休まねばならない」
「そうでしたわ……。では、ミュラー閣下……ごきげんよう」
「ええ、フラウ・ホーエンツォレルン。おやすみなさいませ」
ミュラーに一礼して、エリザベートはロイエンタールにエスコートされて車に乗る。
そこで、ミュラーはロイエンタールが車に乗る直前に唇が自分に向けて動かしているのを見た。
しかし、何と言っているかまでは分からなかった。
――夜十一時。
居候させてもらっているロイエンタール邸に戻ったエリザベートは、そのまますぐにシャワーを浴びた。
温かいシャワーで一日の疲れを洗い流した後、ロイエンタールが選んでくれたシルクのナイトガウンを着る。
ただの居候にしては、あまりにも良いものを提供してもらっているなとエリザベートは感じる。
自慢の金髪を手入れしながら、エリザベートはファーレンハイトが髪を梳いてくれていたのを思い出す。
「アード……」
当然、名前を呼んでも返事はない。
「当たり前でしょう、エリザベート……」
自分に呆れ返りながら、エリザベートは寝室へと向かう。
途中、ロイエンタールの部屋の扉から明かりが漏れているのに気付いた。
「――閣下……?」
「……ん?あぁ、ホーエンツォレルンか……」
「どうなさいましたの?」
「寝る前に少し飲もうと思ってな……」
「まぁ、ホットレモンでございますか?それともグリューワイン?」
「そう来たか……俺が飲むのは普通のワインだ。ホーエンツォレルンも飲むか?」
「……分かりました、一杯だけいただきます」
エリザベートは、ロイエンタールの部屋へと入って彼の座るソファとテーブルを挟んだ反対側のソファに座った。
「……でも、本来は閣下だけがお飲みになるのですから……考えたらグラスは一個しか用意されていませんわね」
「迂闊だったな。すぐに用意させる」
「いえ……!そこまでなさらなくても大丈夫ですわ……寝る前のお話でしたら、ワインがなくとも十分でございます」
ロイエンタールが使用人を呼ぼうとするのを、エリザベートは慌てて止める。
「そうか」
「ええ……あまり寝酒は良くないと父に、自分は寝酒しながら聞かされていましたから」
「卿の父上は、さぞ優秀な方だったのだろうな」
「ええ、私の父・マクシミリアンとメルカッツ提督は最高の指揮官でございましてよ。私は父の従卒もしておりましたので父のすごさは一番に分かっておりますし、メルカッツ提督の副官や座乗艦の艦長などに着任していましたので、誰よりも見聞きしております」
そうか、だからリップシュタットでは門閥貴族側に付いていたのかと納得する。
そしてメルカッツ提督に近い軍歴は当然ファーレンハイトとも接する機会も多いだろうし、最後のガイエスブルク要塞の局面でも裏切ることなくいたというのだから、懇意になるだろうと頭の回転が速いロイエンタールはその結論に至る。
グラスから唇を離したロイエンタールは、また少し別時空のファーレンハイトに嫉妬した。
「……ですが、優秀過ぎるのと美しすぎるのとで父は門閥貴族達の恨みを買って殺されましたわ。……私、も……」
ギュッと自分を抱きしめたエリザベートは、期せずしてそれが胸を強調するのに気付かない。
今まで抱いてきた女の誰よりも、帝国軍の軍服に包むのには惜しいくらいの煽情的な肢体……。
それでありながら素晴らしい艦隊指揮能力の持ち主で、勝利に貢献してきたという。
まさにそれはフレイヤの如く。
そして別時空では彼女がいた故にファーレンハイトの旗艦がダルムシュタットという古のドイツの地名ではなく、ヘイムダルというフレイヤのブリーシンガメンをロキより取り戻した神の名を冠することになったのかもしれない。
――ヘイムダルに娶られたフレイヤとはな。
「……やっぱり、寝る前に厨房に行ってホットレモンを戴こうかしら」
ロイエンタールの思惑などいざ知らず、エリザベートはポツリと溢す。
「卿が俺に遠慮しているなら、俺の分も頼もう」
エリザベートのその言葉を拾って、ロイエンタールは執事を呼びつけホットレモンを二人分頼んだ。
「申し訳ございません、閣下。わざわざ私に気を遣っていただき」
「何、気にすることはない。俺は陛下より卿の艦隊の世話役・指導役を命じられたのだ。卿の足りぬものは遠慮なく申し付けてくれて構わん」
「畏れ多いことでございますわ。こちらのファーレンハイト提督の損失の穴を埋める形になってしまい、とても心苦しいのですけれど」
「その内卿が武功をあげれば、ファーレンハイトの残存艦隊を引き継ぐことになるだろう」
「ファーレンハイト提督の……でございますか。こちらのファーレンハイト提督と私は婚姻関係にはございませんでしたが、これも何かの縁でございましょうね。それにきっとあちらの世界で私のみが生き残っていたら、陛下も同じことを仰せになったと思います」
それが軍に身を置き、共に歩んできた者として出来る弔い、とエリザベートの瞳は固い意志を宿した。
「悲しんでいる暇などない……か」
「……え?」
「――いいや、俺が思うに卿は父君の死以降ずっとここまで走り続けて……悲しむ暇などなかったのではないか?」
「確かにそうでございますね……。悲しむよりも、私にはやるべきことがたくさんあるからかもしれません。私も一個艦隊を率いる身、私には私を信頼して命を預けてくれる部下が多くおります。私がその責任を投げ出して涙に暮れることは、誰も許さないでしょう。半身たるキルヒアイス元帥を失われた陛下にお仕えするとは、そういうことでございます」
――お辞めくださいアンスバッハ殿!
仇討ちを察知しながらも止められなかった自分は、そういうことなのだ……。
キルヒアイスの最期の姿がフラッシュバックして、エリザベートはギュッと目を閉じる。
――シシィ、共に死んでくれるか。
ファーレンハイトとの最後の通信で、自分は迷わず「いいわ、ヴァナディースはヘイムダルの援護をします」と言った。
たくさんの将兵を殺してしまった……。
そんな自滅願望のある上官など、真っ平御免である……そのはずである……。
しかし、自分の艦隊は一隻も損ずることなく――あの時から少しだけ時間が巻き戻ったかの如く――部下丸々こちらの世界に来てしまった。
何が起こったか、分からなかった。
――ご無事ですか、閣下。
先に命を落とした副官のシェレンベルク大佐に抱き起こされた時、二人して唖然としたものだ。
もちろんすぐさま退却の命令は出したが、いつもより少しだけ全体の行動が遅かったことからも艦隊全員が緊急事態の上を行く緊急事態に対応しきれなかったというのもあるのであろう。
……加えて艦隊の者全員がどんな死に方をしたのかは自分自身では何故かぼんやりとしていて思い出せないのだった。
そのため同僚が自分より先に死んだ者の死因を教えたり、それがいない者は直前の行動から推察したりなどするぐらいしかできなかった。
かくいうエリザベートも、
――アード……お願い、生きて……。
と、ヴァナディースの艦橋に被弾しながら、まだ戦い続けていたヘイムダルを見て意識を失ったことしか覚えていない。
――私はアードとの約束を破ってしまった。
なぜならば共に死んでくれるかと言われたのに生きてくれと願ってしまったから、更には自分が別時空で生きているからである。
「私…………」
エリザベートは、ヴァルハラか別時空に置いてけぼりのファーレンハイトを思い出して涙が流れてくる。
もう泣かない、と誓ったのに。
「私っ…………」
「エリーゼ……!!」
気付けば、エリザベートはロイエンタールに抱き締められていた。
「閣下……………!!」
「卿は気を張りすぎだ……エリーゼ」
「でも、だって、私がしっかりしないと、みんなが、アードが」
――フレイヤたれと定められた帝国史上初の女性士官とは、斯くも。
ロイエンタールはエリザベートの肩からナイトガウンを滑らせ、肌を晒させる。
「………!!」
「Meine Freyja(我が女神)……どうか今宵だけでも、あなたがありのままであれますよう」
「閣下………!!」
拒まなければならない、でも、ロイエンタールを拒んでしまったら……この先自分や自分の部下たちは、と思って中途半端な抵抗をしてしまう。
ロイエンタールは既にそのようなことを見通した上で、
「――俺に身を委ねろ」
と、エリザベートの鎖骨にキスをした……。
「閣下………」
ベッドの上に乗せられたエリザベートは、恐る恐るロイエンタールを呼ぶ。
「Meine Freyja……」
ロイエンタールはエリザベートの指先に唇を近付けた。
「閣下……?」
「卿が女神でないとすれば何者か?まさかただの哀れな女なぞではあるまい……?」
ほんの数秒、どう答えたか迷ったエリザベートだったが、
「私はホーエンツォレルン伯爵家が長女、エリザベート・フォン・ホーエンツォレルン。軍の位階は中将でございます。確かに私はゴールデンバウム朝の皇帝から“ヴァナディース”とフレイヤのアトリビュートともいえる紋章を賜りましたが、それは私が女神に昇華されたことにはなりますまい。私は帝国の、陛下の、忠実な臣下でございます」
と、ロイエンタールに応じた。
ナイトガウンを下ろされて肌を晒されていようと物怖じせずに言い切るエリザベートの気の強さに、ロイエンタールは感心する。
――ただの女ならば、その身体で男を絡め取ることも容易かろうに。そして、それを利用して出世なども目論むのが女という生き物だ。
……というのは、ロイエンタールの生来の思想で。
ファーレンハイトたった一人にしか肌を許さぬまま中将まで出世した“女”が、“女神”でないはずがない。
これまでのキャリアでも人を騙さず廉直に生きてきたという……女という生き物は、男を裏切る生き物ではなかったか。
ではエリザベートがロイエンタールの定義するところの“女”ではないのならば、何なのか。
そして行き着いたのは、彼女が、彼女自身が“女神”になり参らせたという結論だった。
時空を超えてくる力なぞ、“人間”にはない。
“神”にしかできぬことを彼女はした。
ならば彼女はこの世で“女神”になり給うた。
――だから、俺は今から“女”ではなく“女神”を抱く。
この美しくて身寄りのない迷える“女神”を。
迷える“女神”がロイエンタールで慰めを得られるならば、幾らでもこの身を捧げよう。
「……ふふ、俺と同じだな」
「ええ、閣下と同じ臣の立場でございます」
「――そうだな、Meine Freyja」
ロイエンタールはエリザベートの唇を奪う。
「……!!」
エリザベートが目を見開いている合間に、ロイエンタールはエリザベートを押し倒した。
そして、彼女を逃すまいと覆い被さる。
「閣下っ…………!!」
そこでロイエンタールが本当に自分の身体を目的にしているのだと気付いて、エリザベートはそこで初めて強めに抵抗を見せた。
……だが、ロイエンタールとエリザベートでは白兵戦と閨の場数が天と地ほどの差があった。
それに、力の差も……。
「お、お辞めください……!」
容易に組み伏せられてもエリザベートは必死に身を捩ってロイエンタールから逃れようとした。
「Meine Freyja、卿がもしこのまま俺を拒めば……俺は陛下にエリザベート・フォン・ホーエンツォレルンに逆心ありと奏上するが?」
耳元でその言葉を聞きた瞬間、ピタッとエリザベートの抵抗が止んだ。
「お辞めくださいませ……!そのような讒言、帝国の平和を乱しかねませぬ!」
「しかし特異点事象(シンギュラリティ・ワン)たる卿や卿らの艦隊は、俺という身分の保証がなければたちまち銀河のならず者となろう」
エリザベートは、激しく戸惑う様子を見せた。
何一つ間違ってはいないが、自分の決定がもたらす代償があまりに大きくて。
もしや、ロイエンタールは全て計算している上でエリザベートを求めたのだろうか。
……と、考えが至った瞬間エリザベートはやはりこの時空のロイエンタールにも勝てないのだと悟った。
ロイエンタールの金銀妖瞳を見つめる。
――私、閣下の金銀妖瞳(ヘテロクロミア)のお色……とても美しくて好きですわ。
と前の時空で何気なく言った時、彼は悲しそうに笑っていた。
遺伝による虹彩異色症だから彼による責任ではないし、地球時代の大作ファンタジー小説の映画版の主人公の俳優は同じ症例の人だった。
だが、ロイエンタールは金銀妖瞳(ヘテロクロミア)に強いコンプレックスを持っているようだった。
そして、後にエリザベートはミッターマイヤーからこっそりと彼の女性不信の原点を教えてもらった……。
エリザベートはロイエンタールの頬を包み込み、
「……かわいそうな閣下、あなたには無償の愛を教えてくださる方がいらっしゃらなかったのですね」
思わず、そう、言葉が溢れた。
「…………ほう?」
「それは男女の性愛では決して得られぬものでございます。それはお互いの快楽を伴うものでございますから。無償の愛……見返りを求めぬ愛……。オスカー、生まれてきてくれてありがとう」
エリザベートは、ロイエンタールを抱き締める。
「……………………?!?!?!?」
ロイエンタールは混乱しているようだった。
――俺は……。
ふわりと柔らかなものに、包まれている感覚がする。
ロイエンタールの過去も現在も未来も全てを受け入れ、尚も愛し、見返りを求めぬという無償の愛。
それは、斯くも温かいものだったか。
「――エリザベート……」
ロイエンタールは、エリザベートと口付けを交わす。
「ロイエンタール閣下……」
「――俺を救ってくれ、Meine Freyja」
「私にできることでしたら……」
エリザベートは長く虚空に伸ばされていたロイエンタールの手を取ることを決めた。
そっとエリザベートは目を伏せる。
――ごめんなさい、アード。
心の中で、生死の分からぬ別時空の夫に謝る。
――君は優しい人だな、シシィ。ロイエンタールにまで、慈悲を向けるとは。
――ごめんなさい、でも、放っておけなくて。
ファーレンハイトは、何も言わずエリザベートを抱き締めた。
――ごめんなさい……一緒に逝けなくて。
――いいや……生きているからこそ、君に……君が、できることもある。
ファーレンハイトは、エリザベートの頭を撫でる。
――また会おう。君が歩み終わるまで、俺や君の父上は幾らでも待っているさ……。
――ありがとう、アード。あなたも、優しい人ね。
――さて、どうだろうな。死んでいなかったらロイエンタールを殴り殺していただろうよ。
――やっぱりそうだろうと思った……。
エリザベートは呆れ返った。
――だがシシィはまだ生きている。その世界で成すべきことがあるから君は特異点(シンギュラリティ)になった。良き旅を、シシィ!……俺はずっと、シシィを愛している。
ファーレンハイトとエリザベートは、口付けを交わした。
――ありがとう、アード。……いってきます!
目を開けたエリザベートは、ロイエンタールに優しく微笑んだ。
「エリーゼ……」
ロイエンタールはエリザベートと唇を重ねる。
初めは重ねるだけの、そして徐々に深いものに。
お互いの憂いと戻れぬ関係になるという誓いを飲み干すかの如くの深い口付け。
ロイエンタールの口腔内に残る赤ワインの味が、エリザベートにも渡される。
「……あ……」
ロイエンタールの手はエリザベートの豊満な両の胸を愛撫せんとした。
白く滑らかな肌に、ロイエンタールを刻み込んでいく。
「んんっ…………」
ロイエンタールが左の胸の飾りを口に含むと、エリザベートはロイエンタールの頭を撫でた。
なぜだかそうしなければならないような気がした。
ロイエンタールは乳飲み子のように必死に胸の飾りを愛撫する。
許されなかった分を、取り戻すかのように。
ロイエンタールの気の済むまで、とエリザベートは時折の強い刺激に耐えながら優しく頭を撫でていた。
しかしロイエンタールとて自分のためだけにエリザベートの身体を攻めているのも悪かろうと、エリザベートの太腿を撫でた。
「……んっ……!!」
スルリと一撫ですると、エリザベートの身体が震える。
少しだけ左脚が上がったのを見逃さず、ロイエンタールはエリザベートの内腿に手を忍ばせた。
そして、何度か優しく撫でた後に秘められた花芯に指を伸ばす。
「……っあ……!!」
すぐに蜜壺の入口を見つけられ、そこから溢れる蜜を掬い上げられて花芯に塗りつけられる。
「あっ…………ああっ…………!!」
「ここは気持ちいいと、教えられているんだな」
口付けの合間に、ロイエンタールはニヤリと笑う。
「――いい子だ、エリーゼ。……大分こちらも解れてきたな」
ロイエンタールは、ゆっくりと蜜壺に指を入れてゆく。
「…………!!!」
「久しぶりか?少しだけキツいな……まぁ、その方が俺も抱き甲斐がある」
少し笑ったロイエンタールがエリザベートの蜜壺の中を何度か指で探った後、もう知ったとばかりにエリザベートの弱いところを重点的に攻め上げてきて、エリザベートはビクビクと身体を震わせる。
そのためか蜜壺からは止めどなく愛液が溢れた。
「本当はもっと愛してやりたいところだが……俺ももう我慢できないんでな、許してくれ」
すっかり快楽に浸っていて開かれたエリザベートの脚の合間に入り込むと、ロイエンタールは何度か自身を入口で擦った後エリザベートの蜜壺に自身をゆっくりと挿れていく。
「ん、んんっ…………!!」
指とは比べ物にならないロイエンタールのものを、エリザベートは必死に受け入れようとする。
それが愛の証であると知っているから。
「……っは……流石だな、全部入ったぞ」
「本当……?よかった……」
心から嬉しそうなエリザベートの顔を見て、ロイエンタールは背中がゾクゾクする。
――めちゃくちゃにしてやりたいな……。
ロイエンタールの自身を包む蜜壺の肉の感覚を、もっと味わいたい。
Meine Freyjaの美しい姿を、もっと見たい。
「エリーゼ…………!!」
気付けば、エリザベートと両手を絡めてキスを交わしながら蜜壺を堪能していた。
「あっ…………ああっ…………!!」
エリザベートは何度も絶頂しながら、逃れられぬが故にロイエンタールを受け入れ続けている。
「エリーゼ…………エリーゼ…………エリーゼ!!」
一番奥を突くと共に、エリザベートとロイエンタールは同時に絶頂を迎える。
激しい呼吸がようやく落ち着くと、二人はもう一度キスをした。
最早そこに、言葉は必要なかった。
1/1ページ