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Fate/The Knight of The Blue Carbuncle~千年古都と幻の聖杯~

――深夜、京都駅。
人気がないそこを、徘徊する者がいた。
「なるほど、大阪の梅田程ではないが……ここはいささか入り組んでいる」
「……また、私の記憶を覗かれましたね?」
「ごめんね、僕たち久しぶりの下界で珍しいことばっかりだからさ……」
「いえ……道の記憶くらいならば、支障はございませぬが」
しばらく歩いて、ようやく大階段の部分に到達する。
「――待て、結界を張るならばここで十分だ」
「本当に、ここでよろしいのですか?」
「不都合ならば、適宜張り替えるよ……。”僕ら”には、その能力が与えられているからね」
「仰せのままに」
徘徊する者――賀陽院春水は身体の主導権を“彼ら”に与えた。
「――さて、早々に終わらせて帰るぞ」
「――そうだね、姉さん」
依り代の彼女から主導権を与えられた“彼ら”は、そのまま持ってきた神楽鈴を両手で持って呪文を唱え始める。
それは美しい響きであり、確かな祈りを込めたものであり。
――どうかこの戦いで、我らの民に、危害、及ばぬよう。
その祈りを込めて発される言葉は、京の都を篤く加護しうるものであった。
『暁天日光天照皇之御光(ぎょうてんにっこうあまてらすすめらぎのひかり)』――。
それは、“彼ら”にしか使えないもの。

千年の古都を舞台にした戦いが、今始まる。

******

――なんてことだろう。
魔術師の末裔ながらも、聖杯戦争によって戦うサーヴァント達を偶然見てしまった。
「――なるほど、確かにここでは容易く人の目に入ってしまう」
片方の紺の軍服を纏った中性的な容貌のサーヴァントが相手の攻撃を容易く弾いた後に、そう言った。
「――キャスターの“私”としても、アーチャーの“あなた”としても……。むやみな戦闘は……したくないでしょう?」
「理解が早くて助かるネ、君は。そういう存在は好ましい、あとは君の正体が分かればいいのだが……」
「――おや、正体にお気付きでない?」
「……残念ながら」
するとキャスターは、隠れている自分の方に歩いて来た。
――ええ!!
自分は、どうしようもないままその場にいることしか出来ない。
すると、キャスターが自身に興味を失くしてしまったと見たアーチャーが、
「いや、2つまで絞れているところだがネ……。決め手に欠ける、と言おうか」
と、言葉を発する。
そのアーチャーの言葉を背後から受け取ったキャスターは、アーチャーの方ではなく自分に向けて嬉しそうな微笑みを見せた。
「――ふふ、存分に迷っていただければ……。“この格好”をした甲斐があったというもの」
「――君を暴いてみせるとも、私の名にかけて……」
次の瞬間、アーチャーは姿を消していた。
キャスターは、ホッとため息をついた後、
「失礼しました、お嬢さん」
自分の元に来て頭を下げた。
「え……!!え……??」
「――あなたの家までお送りします。この国の人の安全を守らないと、私は怒られてしまうので」
「えっと……」
「大丈夫、何かあったら私が護りますから」
「は、はぁ……」
キャスターの言葉のままに、自分は歩き出す。
――それにしても、綺麗な人だな……。
雪のように白い肌。
黒檀のような長い髪。
辰砂のような赤い唇。
キャスターの美しい横顔を見て、思わず惚れ惚れとしてしまう。
それに嫌な顔一つせずに、
「あなたの魔術師の気質が、サーヴァントを見つけやすくなっているのでしょうね」
キャスターは自分の手を優しく取った。
「あ……」
「――この手に令呪が宿ったらば、“我々”は全力で協力しましょう」
「そんな、まさか……」
私がマスターなどと言いかけたが、
「そのまさか、が……今回起こっている。現に“我々”が、ここにいる」
「えーっと……」
「さてさて、こんな辛気臭い話を買い物帰りにされたくはないですよね。しかも本ならば、早く読みたくて仕方ないでしょう」
――買った本が知られたら、ヤバそう……。
まさか、この美しいキャスターに買った本が大人向けの本だとは口が裂けても言えなかった。
当たり障りのない話をキャスターと数分ほどしたら、家についた。
「――そうだ、これ……よかったら、もらってください」
キャスターは、自分に勾玉型のお守りを渡した。
「……ん?」
「かわいいでしょう?部屋にでも飾ってください」
「ああ……ありがとう、ございます」
「では、おやすみなさい。良き夜を、良い夢を」
キャスターは、そのまま歩いてどこかへと帰っていった……。
――色々ありすぎたな……。
部屋に入って買った本を読んでキリが付いたころに、枕元にある勾玉のお守りを手に取った。
――勾玉……ということは、あの人は日本由来のサーヴァントなのだろうか。
だが、纏っていた衣服は紺の軍服……つまり洋装であり決め手には至れなかった。
――まあいいか、あの人は「令呪」が宿ったら……とか言っていたけど、そんなことはないだろうしね。
枕元においておくと、寝返りを打ったときに踏んでしまって不謹慎かもしれないと思ったため、まだ許してくれるだろうと思いつつポイと数十センチほどの机の上に放り投げた。
――寝よう。
そう思ってすぐ、眠りへと落ちていった。

******

――同時刻、某所。
「……面白くねぇなぁ」
得意のカードで負けて、一気に盛り下がる。
「――そう言いなさんな、ライダー殿」
「別にいいぜ、真名でも“黒い准男爵(ブラック・バート)”でも。なぁ、“犯罪界のナポレオン”よ?」
ニヤリと彼は笑った後、
「で、キャスターとかの真名は分かったのか?」
と、煙草を付けながらライダーはアーチャーこと“犯罪界のナポレオン”……ジェームズ・モリアーティに聞いた。
「――現状、キャスターの彼女は“2人”まで絞れたよ」
「……なっ!あいつ、女だったのか。そりゃあ……俺の号令が効かないはずだな」
「いや、キャスターに性別は適切ではないだろう。何と言おうか、あのキャスターは“体に2つの英霊を宿している”といったところか」
「……はぁ?」
意味がわかんねぇ、とは言わないもののライダーは不快感を露わにする。
「――ロバーツ、せっかくのいい顔が台無しだぞ」
ライダーのマスターと思しき男性のバーテンダーが、グラスを拭く手を止めた。
「じゃあ、マスターは意味がわかるのかい?」
「私に魔術師の素養はないのは分かっているだろう。元々君を呼んだのも……多分、ここのバーの名前が『ジョリー・ロジャー』なだけで」
しかし看板になるレベルの働き手のイケメンが増えて何よりだとも、とそのまま流れるような仕草でライダーとアーチャーにウイスキーを差し出した。
「仕方ないネ……。準男爵に教えてあげよう、恐らくキャスターは“神霊”の分霊だ」
それを聞いた瞬間、ライダーは思わずウイスキーを吹き出しそうになってしまう。
「――おい、それは俺やお前では太刀打ちできねぇだろ。まぁ、あいつがカリプソだったら是非恩寵に預かりたいもんだがな……」
「キャスターは恐らく人間の体に“天照大神”と“月夜尊”双方の分霊を宿している。すなわち、この国の民の総氏神……」
「アーチャー、キャスターは他の奴に任せようぜ。ところで、お前の懸案であるセイバーは誰か分かったのか?」
生前の「勝てない戦はしない」という自身のポリシーに該当してキャスターは敵わぬ相手だと判断すると、ライダーはすぐに話を切り替えた。
「――いや、まだセイバーは現界していないらしい。未だ役者は出揃わず……といったところか」
「そうか……まぁ、海賊が元ネタの英霊なら……楽しく戦えそうだがな……。砲撃戦は御免だぜ」
ライダーは自分の喉元をそっと撫でた……。

******

――今日は何事もなく帰れそうだ。
否、昨日が色々ありすぎたのだ。
今日はお守りも持ったし、きっと何もないだろう。
「御用だ……御用だ……」
――うん、きっとこの聞こえる声は気のせいだ。
「……やばいな、これは」
逃げようとした寸前、
「――やっとまた顔を見せたな、バーサーカー」
紺の軍服を着た昨日のキャスターが、姿を見せた。
その瞬間、バーサーカーと呼ばれた存在は無言でキャスターに刀を向ける。
「――おや?お前、また違う個体か?……でも、何にせよ厄介な相手そうだ」
キャスターは腰にあった2本の剣を引き抜いて、防御の構えを取った。
バーサーカーは真っ直ぐキャスターに向かってくる。
その一撃一撃には、明らかな殺意があった。
「――私のことは気にしないで、早く……あなたは逃げなさい!」
――あれ、どうしてキャスターの人はコロコロと口調が変わるんだろう?
そう思った次の瞬間、バーサーカーはキャスターを突き飛ばす。
「……っつ!!こいつ、強すぎる……」
キャスターは剣を構え直そうとしたが、喉元に剣を突き付けられて身動きが取れない。
「キャスターさん!!」
思わず、声を上げてしまった。
すると、バーサーカーの視線は自分に移る。
「――待て!殺したいのは“我々”だろう!」
すると、そのバーサーカーは片手でキャスターの首を絞めた。
「……あ……っぐ……!!」
――ダメだ、このままあの人を殺してはならない!!
思わず、一縷の望みをかけた。
「――――告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
誰かが来るのならば、と。
すると、青白い光が世界に満ちる。
――ああ、まさかまさか、この現れ方は!
「――サーヴァント。セイバー。ここに参上した。此度は英雄の様に君の刃となろう」
――こんなに、美しいサーヴァントが来るなんて。
「さて、詳しい紹介は後にしようか。まずはそのキャスターから離れてもらおう」
セイバーはそう言うと、青い宝石に覆われている剣をバーサーカーに振りかざした。
「……!!」
バーサーカーはキャスターを手放してセイバーの剣を受ける。
「は……は……」
その場にキャスターは崩れ落ちた。
「――君は……」
「……!!」
セイバーの言葉で、バーサーカーは瞬時に霊体化した。
「行ったか……」
キャスターは、ほうとため息をついた。
「人間の体に2つの神霊を宿しているキャスターの君には、なかなか他のサーヴァントの相手は難しいだろう」
「……一目見て気付くか、さすが世界一の名探偵だな……」
「君はなるべく気を付けた方がいい。今回のサーヴァントの知識量では一番“強い”が、その反面人間の身体が本体ともあって一番“弱い”存在でもあるからね」
「――忠告痛み入る。その様子なら、またお前とはそう遠くないうちに会うだろう。……いや、お前なら協力は惜しまぬ。シャーロック=ホームズ……ああ、お前ならな」
キャスターは一礼して剣を収めると帰っていった。
「はわわわ……大乱闘スマ●シュブ●ザーズみたいな世界一の名探偵……」
「君が僕を呼んだマスターなのかい」
セイバーは問答無用で自分の手元を取って令呪を確認した。
「まぁ、ここでは誰かに聞かれてしまうだろうから……話はあとで」
そういうと、セイバーは霊体化……すると思ったら、パイプを咥えた毛玉のような犬に姿を変えた。
「え……なにこれ……殺人……(現場によく来る)毛玉……?」
その言葉を無視して、セイバーは歩き始める。
夜の闇に紛れた、アサシンからの探索を逃れるように――。

******

家に帰った瞬間、セイバーは元の整った容貌の青年に戻った。
「顔がいい……」
セイバーは、そう言われるとゆったりと微笑んだ。
……といっても、よく見ると片頬は青い宝石に覆われていて表情の特定を少し困難にさせていた。
「その青い宝石って……」
「――これはガーネットだ」
「ああ……“青いガーネット”の……やはり、あなたはホームズ……」
「君、いつ人が来てもいいように……机にあからさまに大人向けの本を置くのはどうかと思うよ」
「え……ああーーーーっつ!!!」
机の上には、昨日買った美術の課題の資料……男性の裸がたくさんある本が無造作に置かれていた。
「全く……でも、僕は君のサーヴァントだ。最後まで戦うよ、さあ……此度の聖杯戦争を……解き明かそうじゃないか」
セイバー……シャーロック=ホームズは、大胆にもこの世界に宣戦布告をした……。
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