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沢山のアホ毛がぴょこぴょこと色んな方向に跳ねる適当にひとまとめに束ねられた黒髪。ブルーライトカットでレンズが少しオレンジがかったノンフレームの度入り丸眼鏡。グレーのパーカーに黒のパンツと黒地のランニングシューズ。してはいるんだろうけど、他の女性社員みたいにパッと明るい印象は受けないメイク。
真面目だけど地味で色気という言葉からは程遠い人。それが俺の苗字さんに対する印象。
苗字名前さん。イベントに関する業務を担ってるスタッフさん。元々は記事の校閲とかを担当してたらしい。らしいっていうのは、俺がQuizKnockに入る前の話だから。
「だーれに見蕩れてんだい」
「うぉっ、びっくりしたー」
この人は須貝さん。苗字さんをQuizKnockに引き入れた人。
「苗字さんって休みの日もあんな感じなんですかね?」
失礼だけど、家では干物を極めてそうだな。失礼だけど。
「名前?あー、乾はアイツの外回りの格好見たことないか」
「外回り?」
苗字さんはイベントの企画案が通ると、外回りの仕事が増える。その間、朝は早めに夜は遅くにタイムカードを押すためだけにオフィスに出退勤していることは知っているけど、俺が居ない時間帯なこととタイミングの悪さもあり、苗字さんが外回りの日に顔を合わせたことはなかった。
『来週の月曜、8時半くらいに着てみ』
フレックス制のQuizKnockでこんなに早く出勤したのは数える程度しかない。抑えきれない欠伸を手で隠して執務室に向かうと、行ってきまーす。行ってらっしゃーい。の掛け合いが聞こえてくる。執務室に入ろうとしたら、聞き覚えのある声の人とすれ違った。
「あ、乾。おはよう」
「あ、おはよう、ございます…」
…あんな人居たかな?
振り返って玄関に向かう後ろ姿をジッと見つめてみるけど、見覚えがない。視線を感じたのか、玄関を出る際に一度振り返って小さく手を振るその人に慌てて会釈で返す。
グレーの細身のパンツスーツに、アレンジされた黒髪は艶やかだった。しっかりとは見れなかったけど、メイクをしていても分かるくらい綺麗な顔立ちをしていたし。すれ違った時に何だかいい匂いもした。
「好みだったなぁ」
「入口で何ボーッとしてんの」
「あ、すいません」
淹れたてのコーヒーを持った須貝さんに声をかけられて我に返る。
「そういやぁ、さっきすれ違ったんじゃない?」
「あー、新しく入った人ですか?凄く綺麗な人でしたね」
「はっはっはっ、そうだろう?凄く綺麗な人だろう?名前」
へー、あの人名前さんって言うのか。名前さん。ん?名前さん?まさか…
「苗字さん!?」
「そう、苗字名前」
思わず、嘘だろ!?と声を上げる俺を笑いながらコーヒーを飲む須貝さん。いや、笑い事じゃないんですけど。
アホ毛は?眼鏡は?あのやる気のない姿は?何でいつも、今日みたいな格好じゃないんだ!?
「いやぁ、ビビるよなぁ。干物の本気」
「ビビるって言うより混乱してます」
俺の言葉にまた笑っていつもの席へ戻ってく須貝さんを横目に、気持ちを落着けるためにため息をひとつ付くと、山本さんが出勤してきた。
「おはようございまーす。あ、乾。さっき駅で名前さんと会ってこれ貰ったからあげる。僕も貰ったんだけど、乾にもあげてだって」
皆には内緒ね!と、白い缶を置いてく山本さんにお礼を言って、温かい缶を手に取る。cafe au laitと書かれたパッケージ。
「眠いのバレてたのかな」
プルタブを引き起こして甘いそれを胃に流し込む。そういえば、苗字さんとすれ違った時、紅茶みたいな匂いがした気がする。香水つけてんのかな。
「明日聞いてみよう」
あと、カフェオレのお礼も言おう。
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