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「そのプリン、美味しい?」
「うん、食べる?」
「食べるー」
福良はオフィスでたまにコンビニスイーツを食べる。そのどれもが、SNSで見かけて気になってたものや、スイーツコーナーで見て諦めたものばかり。その度に、福良がうんと言うなら買おうと思い、美味しい?と聞くのだが、必ず一口くれる。その一口は一切目当てにしていないうえに、福良相手に下心なんてイチミリ足りともないのだけれど、食べるかと問われればそりゃ食べたい。
「はい」
「あ」
遠慮せず透明なプラスチックのスプーンに乗ったプリンを、口を開けて待つ。うん、美味しい。
元々関節キスなんて気にしない質だし、福良に対してそんなこと気にもならない。最初こそ、福良は気にならないのかを気にしたけれど、気にする素振りも気配も全く感じないので、それすら気にしなくなった。
「もういらない?」
「ん〜、もう一口だけいい?」
「いいよ」
また舌に乗る甘さに頬が緩む。あ〜、幸せ。
私の隣で河村が甘やかし過ぎだと言いたげな視線を福良に送っているけど、当の本人はその視線をニコニコと交わして、同じスプーンで残りのプリンを口に運ぶ。美味しかったから帰りにコンビニ寄って買お〜っと。
「名前ちゃん」
「ん?」
「はい」
福良が向けてくるそれは最後の一口。いいの?と聞けば、好きな味でしょ?と笑顔で返す福良は、天使なのかもしれない。もしくは私を甘やかす天才。呆れた顔をした河村が空の紙コップを片手にキッチンへ向かうのを横目に、私は喜んで口を開ける。舌に乗せられる甘さを堪能していると、福良が問題ですと口を開く。
「俺は何でいつも名前ちゃんに一口あげるでしょう」
「福良が天使だから」
「あはは、人間だよ!」
楽しそうに突っ込んでくれる福良と笑い合うこの空間。なんと平和なことか。
「で?正解は?」
「名前ちゃんに意識して欲しいから、でした」
俺はいつも意識してたよ。関節キス。
先程と同じ笑顔なのに、全然天使じゃない。誰だよ福良は天使とか言った奴。小悪魔どころか、小悪魔どころかー、あー何だ、策士?変態?兎に角油断ならん激ヤバ男子じゃないか!さっきまでの平和な空間を返せ!
口の中が乾き出すのを感じて、小さく震える手でペットボトルの蓋を開けて麦茶を流し込む。
「少しは意識してる?」
「麦茶一口分だけ」
「やったね」
平和ボケしてますって感じのほんわかスマイルに、脈がドクドクと早足になる日が来るなんて、誰が思っただろう。少なくとも私は初めましてを交わした日から、ただの一度だって思ったことはなかった。
福良の手の内で転がされてる感が否めない。手の内どころか、福良が作ったジェットコースターに乗せられてる気分だ。
「明日は何食べたい?」
「...季節限定の抹茶モンブラン」
「え〜抹茶苦くない?」
このジェットコースターなら悪くないかもしれないと思っている事すら癇に障る。このムカつく気持ちすら福良の計算のうちかもしれない。
「福良」
「ん?」
「野菜が食べれるようになったら考えてあげる」
「え〜それはズルいよ〜!」
余裕で笑う福良に、三分の一も飲んでない麦茶が入ったペットボトルを押し付けて、河村がいるキッチンへと逃げた。
キッチンに入ると、カフェオレでいいかと聞いてくれる河村に頷いて、お湯を沸かす河村の足元で膝を立てて座る。
「福良に何か言われた?」
「福良は天使なんかじゃなかった」
「アイツが天使なら世も末だねぇ」
全くその通りである。
熱いよ。と渡されたカフェオレを両手で受け取る。コーヒー独特の芳ばしい香りを嗅覚で感じながら、まだまだ熱いカフェオレを少しだけ飲む。
「落ち着いたらおいで」
「うん、ありがとう」
「お礼はエナドリでいいよ」
顔の熱がゆっくり引いていくのを感じながら、業務に戻る河村の背中に改めて感謝の念を送る。福良にエナドリも買わせよう。もう暫くは無駄に抗ってみることを心に決めて、"エナドリも追加!"の一言をメッセージアプリで送り付ける。
さて、私も好い加減業務に戻らないと怒られるかな。
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