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名前設定
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表情筋を大きく動かすことなくテキパキと働く姿は、仕事だけをしに来てるって感じがして、他の人は少し取っ付きづらいんだと思う。
「苗字さんって福良さんと二人きりの時だとどんな感じなんですか?」
「え〜、それ知ってどうするの」
色んな人から受けてきた全く同じ内容の質問を、俺お得意の人好きのする笑顔で流す。最初こそ真面目に、ああ見えて可愛い所もあるんだけどねなんて答えていたけれど。それは俺だけが知ってればいいし、浅い興味しかない人達に名前のことを教える必要もないなって思ってからは適当に流すようにしてる。
「彼女さん無愛想で怖い顔ばっかりしてて福良さんカワイソー」
私だったら〜と、続けられる言葉達も耳にタコが出来るほど聞いてきたし、本当に怖い顔ばっかりしてる様に見えているんだとしたら、このバイトの女の子の目は節穴だと思う。いい加減黙ってもらうために口を開こうとしたら、一方的に話している女の子になんて目もくれず、話のネタにされた張本人が俺の元へと寄ってくる。
「拳。帰るよ」
「はーい。鍵当番の人は忘れないようにお願いします。じゃ、お疲れ様〜」
「え!?ちょ、ふくらさん!」
呆然と立ち尽くす女の子に背を向けて名前と職場を後にする。会社を出て人目も憚らず手を差し出すと、何の抵抗もなく手を繋いでくれる。付き合いたての頃は手なんて絶対繋いでくれなかったのが今じゃ懐かしいなぁ。
同棲してる部屋に二人で帰って手洗いうがいを済ませたら、料理をする名前の隣で俺は米を洗う。この時間が結構好きだったりする。面と向かってだと答えてくれなさそうな質問も、料理をしている時は答えてくれることがあるから。
「今日の、ちょっと妬いたりした?」
「誰彼構わずフラフラ着いて行く様な男とはそもそも付き合わない」
これは、俺が名前にベタ惚れなことは分かってるから女の子と喋ってるくらいじゃ妬く必要なんてないってことかな?
確かに俺がフラフラ着いて行くのは名前だけだねって笑うと、拳は私を無条件で信頼し過ぎって眉を下げて小さく笑い返される。これはちょっと呆れてるけど嫌な訳じゃない時の表情。
こんなにも分かりやすいうえに可愛いのに、無愛想とか怖い顔だなんて全く失礼だと思う。仕事中も、自分達が発信するものが如何に楽しみながら学びが得られるものになるかを真面目に考え過ぎて目が据わってたり、たまに糖分が足りなくなって眠気と格闘してるせいで眉間に皺を寄せたりしてるだけなのに。話しかければ鋭い視線だって柔らかくなるし、冗談には少しだけ目尻を提げてくれる。俺の可愛い彼女は無愛想でも怖い顔でもない。
名前を見つめたままニヤニヤして黙りこくる俺を怪訝そうな顔で見つめ返してくれることなんか、前だったら有り得なかっただろうな。頑張ってアタックして良かった〜。
「やっぱり俺は名前が好きだなぁと思って」
「嫌ってほど知ってる」
そりゃそうだろうね。何回フラれても好きだよって言い続けたのは俺だから。"福良くんは胡散臭いから嫌だ"って理由で諦めると思う方が俺は間違いだと思うよ。
最終的に名前が折れる形で付き合い始めたけど、一年半経った今じゃ恋人として好かれてることが分かるくらい名前からもスキンシップをとってくれるようになったし。
耳貸してと言われて、米を研ぐ手を止めて少し屈む。ここには二人しか居ないのに、わざわざ包丁を置いてから俺の耳横に手を当てて内緒話をしようとする可愛い行動なんか、会社のみんなは想像もつかないだろうな。もちろん教える気なんてないんだけどね。
「私も拳が好きだよ」
そう言って不意打ちで耳にキスしてくれる事も、自分でやっといて顔を赤らめる所も。今度は俺から恥ずかしさでキュッと結んでるその口にキスをしたらもっと赤くなる所も。
こんなに愛らしい名前を知らないなんてカワイソーだけど、やっぱり俺だけが知ってればいいよ。