ymmt
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「誕生日おめでとう〜!」
「ありがとうございます!」
沢山の人に祝ってもらった、いつもより遅い帰り道。数年前はこんなにも沢山の人に誕生日を祝ってもらうなんて、全く想像してなかった。おめでとうの言葉を貰う度に、凄く嬉しくてどこかむず痒い。今年も幸せな気持ちのまま誕生日を終えられそうだなぁ。
「山本くん!」
「苗字ちゃん!お疲れ〜」
「お疲れ。駅までご一緒しても?」
「もちろん!一緒に帰ろ」
並んで歩く苗字ちゃんは同期で同い歳。そして僕の好きな人。いつもなら帰る時間は合わないんだけど、こうちゃん達と一緒にオフィスでお祝いしてくれたから、今日は珍しく一緒に帰れてラッキーだ。
今日のことを話したりクイズを出し合ったりして、最寄りの都営地下鉄までゆっくり歩いたつもりだったけど、楽しい時間はあっという間で。ホームに続くエスカレーターを避けて、あえて階段で降りる。それでもやっぱり直ぐにホームに着いてしまって、都合の悪いことに電車も三分後に来てしまう。あーあ、もう少し話したかったな。
「改めて誕生日おめでとうございます」
「ありがとうございます」
苗字ちゃんを見送ってから帰ると言ってみたけど、今日は疲れただろうから帰ってゆっくり休んでと返されてしまった。無理強いするわけにもいかないし、大人しく残り二分で到着する電車を最後尾で待つことにする。
「あ、そうだ。もう一個」
あからさまに静かになる僕を他所に、苗字ちゃんが何かを思い出してそのまま言葉にした。アナウンスが電車の到着を告げる。この電車を逃してでも、苗字ちゃんともっと話がしたい。
「好きだよ、山本くん」
じゃあ私JRだから、また明日。と手を振って降りてきた階段を上る苗字ちゃんの後ろ姿を、呆然と見つめる。開いた口が塞がらない。サラリと言われた言葉達を何度も脳内で反芻するけど、理解が全然追いつかない。
僕を置いて過ぎ去ってく電車の風でやっと我に返って、慌ててその背中を追いかける。階段を転けないように一個飛ばしで駆け上がる。先程、一緒に歩いた道を好きな人が僕に背を向けて歩いてる。
「苗字ちゃん!」
名前を呼んでその腕を掴まえると、驚いて振り返るその顔に思いの丈をぶつけた。
「カッコイイことしないでよ!」
「え?」
「もっと好きになっちゃうじゃん」
僕の言葉に二回瞬きをして、ふふっと吹き出す苗字ちゃん。そんな苗字ちゃんを見て、じわじわと恥ずかしくなってくる僕。
他にもっとかっこいい言い方あっただろ!と、心の中で自分に突っ込みながら、苗字ちゃんの視線から逃げるように下を向く。苗字ちゃんの右腕を掴む自分の左手が目に入った。
いや、下を向いてちゃ駄目だ。
左手を力を抜いて、僕より柔らかい右手を優しく握る。
「僕も好きだよ、苗字ちゃん。よかったら、僕と付き合ってください」
ドキドキする心臓とは裏腹に、心は随分と落ち着いている。
苗字ちゃんの顔を見ると、数秒前の僕みたいにじわじわと顔を赤くして、よろしくお願いしますと照れくさそうに笑ってくれた。
苗字ちゃんの最寄り駅まで手を繋いでゆっくり歩きながら、今までで一番幸せな気持ちを噛み締めて、残り僅かな僕の誕生日を過ごした。