ymmt
名前設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「祥彰はさ」
「ん?」
「私が死んだら悲しんでくれる?」
まるで今日の夕飯は何がいい?って聞くみたいに、名前ちゃんはその質問を、何でもないことみたいに本を読む僕に投げかけた。
「えっ、何で?どこか悪いの?」
「んーん。何となく」
先日受け取った健康診断の結果は健康そのものだったから、本当に何となくなんだろうけど、やっぱり何かあったのか勘繰ってしまう。でも、僕には名前ちゃんが心で何を思ってるかなんてどんなに考えても分からない。今の僕に分かることは、名前ちゃんが居ない世界は想像しただけで、顔に出てしまうほど苦しくて悲しくて辛いってことだけ。
「悲しいよ。悲しいし、辛い」
「そっか。うん、ありがとう」
眉を寄せる僕に向けてゆるく腕を広げて、おいでと誘い込む彼女をしっかりと抱き締めて、温もりを共有する。
大丈夫。名前ちゃんはここに居る。生きてる。
目いっぱい腕に力を入れて彼女の存在を確かめる様に抱き締めると、小さくて柔らかい手が優しく慣れた手つきで僕の頭を撫でる。
「嫌な思いさせてごめんね。大丈夫。まだ死なないよ」
「うん」
「健康だし、自ら死ぬつもりもないから」
「うん」
「だから私より長生きしてね」
「…がんばる」
いつだっけか、置いてかれるのが苦手だと教えてくれた。あれは、こういう意味もこもってたんだって今になって分かる。僕だって名前ちゃんに置いてかれるのは嫌なのになぁ。でも、名前ちゃんが苦しむ方が嫌だから、頑張って長生きしなきゃ。
溢れる涙を彼女のパーカーの肩口に押し付ける。きっと名前ちゃんのことだから怒ったりせず、今から愛情いっぱいで慰めてくれる。
「祥彰」
「ん?」
「好きだよ、愛してる」
ほらね。名前を呼ばれても肩口から顔を上げようとしない僕を、たった一言で簡単にそして素直に顔を上げさせるんだ。
さっきまで頭を撫でていた手で、頬に伝う涙を拭われる。深い愛情を向けてくれる名前ちゃんの目にも涙が溜まってて、それを見たら止まろうとしていた涙がまた流れる。もう何で泣いてるかなんて分からない。悲しくなんてない。ただただ名前ちゃんが愛しくて、止まらない涙と同じくらい好きって気持ちが溢れてくる。
目元に一つキスをする名前ちゃんに誘われるように、静かに泣きながら僕は柔らかい唇に何度も何度も噛み付いた。
お互いが生きてることを確認するみたいに、ゆっくり丁寧に優しく重ね合わせて、そのまま迎えた朝に僕達はもう一度だけ温もりを分け合った。