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「はぁ」
疲れた。本当に疲れた。丸一週間とんでも激務をこなした私を褒めて欲しい。コンビニご飯を無理矢理胃に押し込める作業。基、食事を済ませたら予め湯船に張っておいたお湯に、貰い物の入浴剤を落とす。ぼちゃん。低い音を立ててしゅわしゅわゆらゆらと底へ沈んで行く入浴剤を無の感情と共に数秒だけ観察して、お風呂に入る準備をする。あ、入れたやつ何の匂いだっけ。確認するのも面倒臭いや。
下着と導入化粧水だけ置いて、未だ溶けきれずしゅわしゅわと小さくなっていく入浴剤を見ながら、高級なお香みたいな匂いのするお湯に浸かる。
「はぁ〜」
身体が温まっていく感覚と共に疲れがじんわり抜けるような。リラックス出来る良い匂いも相俟って、幸せな気持ちのまま失神出来そう。上縁面に後頭部を預けて目を閉じる。寝落ちる程の眠気ではないけど、寝れそうではある眠気。風呂で眠るのは危険だと分かっていながら目を閉じずにはいられない。
眠らないように明日のお休みは何をして過ごすか考える。観にいきたい映画が二本。溜まった洗濯物は三日分。冷蔵庫にはミネラルウォーターとサラダチキンと卵。冷凍庫には白米とアイス。映画は諦めた方が良さそうだ。どうせ私のことだから起きるのは早くても十時頃。そこからベッドから出られず一時間近くはスマホを触りながらゴロゴロと無駄な時間を過ごすんだろうな。きっとシュンくんが居たら、九時過ぎには無理矢理起こされて、映画一本くらい観れる計画を上手いことたててくれるんだろうけど。忙しいシュンくんと過ごす休日を色んなパターンを思い描いて、誘われるように温かい空間に浸る。
「おーい、風呂で寝んなー」
ふわふわとした気持ちのままシュンくんとの過ごす癒しの時間を堪能していると、目の前に居るはずのシュンくんが横から声をかけてくる。うーん、何で横から聴こえるんだろう。
「名前〜。生きてるか〜?」
「..シュンくん?」
「おー、貴方の駿貴くんだぞー。疲れてるのは分かるけど、風呂で失神は危ないからせめて目を閉じるのはやめなさいって言いましたよねー。これで五回目だから罰な」
「いでっ」
眠気には強い方でお風呂で失神する時は自分から目を閉じた時だと知ってての罰を頂く。重めのデコピンのおかげで漸く目が冴えてきた。どうやら考え事をしながらちゃっかり失神してしまっていたらしい。流石は体育会系寄り理系男子。デコピンをくらった痛みが地味に長引く。何故私の居住空間に彼が居るかって?お互いの合鍵を持つような仲なんすよ。てれてれ。
さっさと身体洗って出てきなさいよと風呂場を出ていく理系彼氏のお申し付けに逆らうことなく、ちゃきちゃきと済ませたら、浴槽の栓を抜いて私の煮汁と別れを告げる。下着を身につけてから導入化粧水を顔に馴染ませて、パジャマの袖に腕を通す。
「あ、お風呂の栓抜いたけど良かった?」
「入ってきたから大丈夫」
予備の歯ブラシのある棚を勝手に開けて、未開封の歯ブラシを手にしている所を見ると、彼もこの部屋に随分と慣れたものだなと感心する。もちろん彼が使う分を含めて常備してあるので使ってもらって何ら問題はないし、勝手に開けていい場所は教えているのでこちらもノープロブレム。
そんな彼が私に目をやったかと思うと、右手に持った未開封の歯ブラシをテーブルに置いて洗面台の方へ。不思議に思いつつ、スプレータイプの化粧水を二回にわけて顔に吹き付ける。手のひらで馴染ませてる間にシュンくんが戻ってきて何かをコンセントに挿している。鏡越しに確認するとその手にはドライヤーが握られている。
おお、なんと素晴らしい時短。愛しい彼氏に髪を乾かしてもらうという幸せを味わいながら、スキンケアを終わらせられた後に自分でドライヤーという面倒臭い工程を行う必要がない。ここが極楽か。
買い出しリストを作った後に歯磨きを済ませてベッドに入り込むと、先に歯磨きを済ませて横になってたシュンくんに腕を引かれて抱き込まれた。
「お待たせハニー」
「待たせ過ぎよダーリン!」
何処かで聞いたことがある裏声に、完コピガイを思い浮かべてしまうのはきっと私だけではないはず。Miss Grangerはダーリンなんて言うんだろうか。嫌味でなら使いそうだな。そんなことを考えながらシュンくんの腕の中で目を閉じた途端、聞き慣れない通知音の独奏が寝室に響く。びっくりして飛び起きたら彼の腕の中へと引き戻される。
「この通知音、シュンくんのでしょ?」
「おー。気にしなくていいから寝なさい」
寝なさいと言われましても、鳴り止まない軽快な音を聴きながら寝るというのは些か無理があるのですよ。こんなに通知が来てるんだから仕事で何かトラブルでもあったのでは?と思っていたら通知音を消しやがった。本当に大丈夫なんだろうか。
ていうかそもそも今何時だろう?時計も見ずに寝る準備をしていたから時間の把握が出来てない。
少し起き上がってベッドサイドテーブルで良い子に座る置時計に手を伸ばす。0時を過ぎたばかり。0時にこんなに通知が来るなんて珍しい。..ん?0時に通知?
「シュンくん」
「ん?」
「今日何日?」
「いいから寝んぞ」
うわ、そうだ。絶対そうだ。あまりの忙しさに今日の日付をすっかり忘れてたけど、絶対そうじゃないか。
「シュンくん」
「なに」
「ごめん。プレゼントとか何も用意出来てない」
「アータがシュンくんに渡せるプレゼントはアタクシと今一緒に寝ること」
彼氏の誕生日にプレゼントを用意していないどころか日付すら確認していない彼女失格な女を許してくれる優しいナイスガイが彼氏で私は大層幸せだ。
「シュンくん」
「もう寝なさい」
「起きたら映画観に行きたい」
「小さくなっても頭脳は同じの名探偵な」
ファンタスティックな動物は?って聞けば、字幕はレイトショーしかないと目を閉じたままスマホも見ずに言うもんだから、私が言いそうなことを予想して予め調べてくれてた事が分かる。この人ほんとに私のことよく分かってるな。
愛情を感じながら心地好いうとうとに身を任せる前に、大事なことを伝えなきゃ。きっと彼は一番に言って欲しくて、わざわざ通知音を消してまであえて通知の内容を確認しなかったのだから。
「おめでとう駿貴」
「おー。あんがと」
プレッシャーキスを贈ると、ゆっくり目を開けて嬉しそうに笑うものだから、私まで嬉しくなる。どちらからともなくもう一度だけ唇を重ね合わせて、幸せな気持ちのまま今度こそ二人で心地好い眠気に身を任せた。
貴方にとって充実した素敵な一年になりますように。