kwmr
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本の頁を優しく捲る姿。脱いだ上着を両手で持ち歩く姿。髪をゆるく結わえてから小さく手を合わせて箸を綺麗に持つ姿。長いフレアスカートを軽く摘んで階段を昇り降りする姿。
どれをとっても仕草の一つ一つが、まるで前世が貴族のお嬢様のように上品なその人を、とんと見なくなった。
学年も学科も同じだが、特別仲良くなる機会を逃した僕に現在の彼女の動向を掴む縁はなかった。
「河村くん?」
復学の手続きを済ませたその日、僕に声をかけたのは記憶の隅っこへ追いやったその人だった。
「苗字さん」
「久しぶりだね。卒業したと思ってた」
「休学してたから」
「そうなんだ」
少し痩せた?と聞く彼女の方こそ、痩せたように見える。僕の記憶に残る面影は、ほんのもう少し筋肉質でふくよかだったように思う。そうでもないよと適当に返す僕の考えを察したのか、彼女が自身の事情を簡潔に話し始める。
「私も休学してたんだ。病気が見付かって入院。丸々ずっとってわけじゃないけど、入退院を繰り返して年明け頃からやっと落ち着いたところ」
「そうなんだ」
さっきからどんなに拭っても手に汗が滲むし、たった一言を喉から絞り出すのに精一杯。この緊張は、友人未満の知り合いだからか、はたまた別の感情から来るものなのか。駆け足になる脈の落ち着かせ方も併せて誰か教えて欲しい。
「じゃあ私こっちだから」
「うん。じゃあ」
小さく振られる手にならって、ぎこちなく手を上げる僕。背を向けた彼女が三歩進んだところで、あ。と立ち止まって振り返った。
「そういえば、YouTube見たよ。河村くんって凄く面白いんだね」
「え゙っ」
嘘だろ。
アレを見られて減るものなど僕は持ち合わせてないはずだが、言い知れぬ恥ずかしさが胃のあたりからふつふつと湧き上がってくる。
「2極点。私は好きだよ」
思い出しているのか楽しそうに、それでいて何処か悪戯にコロコロと笑うその顔に落ち着き始めた脈が先程よりもダッシュで走り出してしまった。
ああ、頼む。誰か、五月蝿くてたまらない脈の止め方を今直ぐに教えてくれ。