kwmr
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僕は苗字名前の元彼を知っている。
苗字は元彼をこうちゃんと呼んでいた。僕の知人を思い浮かべた人が居るかもしれないが、僕らより歳上の全くもって別人。顔は乾をもっと大人っぽくさせた感じ。性格は須貝さんみたいな人。身長は福良くらい。伊沢のように定期的にトレーニングを行っていて、外ではコンタクトで家では眼鏡をかけていたらしい。
何故、彼女の元彼情報に詳しいのかって?散々、惚気と別れた時の泣き言を聞かされたのでね。まぁ、時間が彼女を癒すだろうと思い、隙を狙って傍に居続けて約2年。幸せになりたいと零した苗字に、これから恋人になる人間の理想を聞いたら、元彼以上に最高な人だと言われた。別れてからは外している右手の薬指で輝いていたリングの幻覚が見える気がする。
「占いだと私は結婚するし子供も出来るんだって」
「ふーん。じゃあ幸せになれるんじゃない?」
「そろそろ恋人作ること考えてもいいのかなー」
別れた当初に比べると随分晴れやかな顔で苗字が話す。一体どんな心情の変化があったのか。あれだけ暫く恋人は要らないと言っていたのに。未来に対する前向きな言葉に諦め始めていた僕の心が、これを逃すと次はないと告げるようにグラスに入った氷と共に音を立てて揺れる。
「そろそろ僕を意識してくれてもいいんじゃないかい」
「え?」
「似てる部分が1つもないから、余計に思い出さなくて済むだろうし。何より僕はこの5年間、苗字名前という人間だけをずっと想い続けてる一途な高学歴という優良物件なんですよ」
5年分の表面張力は、たった1滴落とされてしまえばそれはもう簡単に崩れる。自信のなさから、やたらと上手い言葉を紡ごうとしたり敬語が混じったりしてしまう。何と格好の悪いことか。
「…完璧に忘れたわけじゃないし、河村にそういう意識したことないから、今付き合うと忘れるための道具にしちゃうよ」
「意識してもらえるよう努力します」
気付いてはいたが、言葉にされると少し傷付く。しかし、ここで食い下がらないと一生意識されないままかもしれない。それなら、君に深く濃く残った痕を僕が少しでも浅く薄くしたい。上手く行くかは分からないし、君の記憶にも大して残らないかもしれないけれど。それでも、君の今とこれからを僕で埋める努力くらいなら許されたっていいだろう。
「絶対は約束出来ないけど、貴方と幸せになる努力を隣でさせてください」
「私も、私なりに努力します」
不安7割、困惑2割、期待1割。
多分僕も似たような目をしてるんだろうな。苗字が僕の告白に戸惑ってるように、僕も彼女の応えに戸惑っている。苗字のことだから冗談はやめろと笑って流すとばかり思っていたから、見たことない表情で何とも言えない視線を向けられている事実に先程から煩い心臓が余計煩くなる。
友達で居続けることを選ばなかった僕と苗字に、恋人として笑顔で手を繋ぐ未来が在るか知りえないけれど。今は安堵と喜びの溜息を抑えられずに顔を隠す僕を、照れ臭そうに笑う苗字との未来をどこまでも信じていたい。