kwmr
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「もーー!!聞いてよ須貝さん!!」
お行儀悪くソファの背もたれを越えて、僕と須貝さんの間に無理矢理入り込んでは、勢い良くドカリと座った苗字は、ぷんすこと音喩が付きそうな顔をしている。
「おーおー。どうしたのよ、そんな怒り散らかして」
「先週、後輩に合コン誘われたって言ってたじゃないですか」
「あー、あれな。結局行ったんか?」
後輩が気になる人が居るって言うから、くっつけるために一肌脱いでやろうと思って行ったんです!と、続ける苗字は話の勢いも良くてそう簡単に止まりそうにない。
このぷんすこ具合を見ると、良いことはなかったんだろうけど、僕が聞く必要はないだろう。そう思い、この場を離れようと思ったのだが、僕のジャケットの裾は話の続きが気になるのか、苗字のお尻の下敷きになっている。無理に引っ張るのも気が引ける。僕を追い出さない辺り、聞かれても問題無い話だろうから、勢いが増しそうな愚痴に少しだけ付き合ってやろう。
「二対二って話だったのに、当日になって向こうが一人増やして三対二になった上に、三十分遅れて来たし!後輩ちゃんが向こうに、お店予約しといてねって伝えてたのに予約はしてなかったし!挙句、料理は勝手に男共だけで頼んで、何食べたい?の一言も無し!しかも一人は、一言も聞かずにお茶漬け一人前だけ頼んで、ソイツ一人で食べ切ったんですよ!?明らかに取り皿も渡されたのに!それで割り勘!!ほんっっっとに有り得ない!!私だってお茶漬け食べたかった!!!」
食べたかったんだ、お茶漬け。
「じゃあ僕と行く?お茶漬け」
「行く、お茶漬け食べたい。..ん?え、おちゃ、...え??」
合間で雑に相槌を打っていた須貝さんから、先程まで黙っていた僕の方へと向く苗字の顔は面白い。どうやら、ぷんすこはポカンと選手交代した様だ。
スマホの画面に指を滑らせると、思っていたよりこの手の専門店が多いことを知った。星の数とレビュー数付きで。ありがとう大先生。
未だに唖然と口を開けたまま僕を見る苗字に、大先生の検索結果を見せ付ける。
「お茶漬けの専門店とかあるらしいよ。良さげなところ数件送っとくから、気になるとこ選んどいて。それと、ジャケットの裾踏んでる」
「え?あー、裾..ごめん...」
理解が追いつかない顔で軽くお尻を上げる苗字に合わせて、ジャケットを引いて撮影部屋を後にする。さて、スケジュールの確認をしよう。翌日が休みの夜なら、一軒目は苗字が好きそうな呑み屋にして、二軒目にお茶漬けも良いな。
「いまのなに」
「どう考えても、デートのお誘いでしょうよ」
扉を閉めきる前に耳に入った二人の会話に、ひっそりと楽しみが膨れた。きっと今の僕の頭上には、一つの音符が跳ねる様に踊っていることだろう。