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inzm

神のタクトでどうにかしたい


 チカチカとランプが点滅する携帯。
「メールだ」
 開くと10件のメール。
「ゆりか、か」
 最近毎日のようにゆりかからのメールがくる。日に日に増えている。
 ゆりかと出会ったのはインターネット。最初はネットだけの付き合いだった。波長が合い、毎日のようにやりとりをした。メールをするようになったきっかけはネットで知り合ったサッカー好きの人たちと集まった時に連絡先の交換をしたことだった。
 “ごめん見てなかった”そう返信を打ちかけたとき、ゆりかからの着信。
「もしもし?」
『あ、神童くん……良かった』
「ちょっと携帯側に置いてなくて」
『何してたの?』
「お風呂に入ってたんだ」
『ゆりかはお風呂に携帯持ってくよ? いつ大事な連絡くるかわからないし』
「あぁそうだね……」
 いつものことながら電話に出たことを後悔する。
『今週末練習なかったよね? 試合の次の日はオフでしょ?』
 神童のことなら何でも知ってるし、覚えてる。
「あぁ。でも霧野と自主練しようって話してて」
『また霧野くん? 1日くらい……』
「サッカーしてないと落ち着かなくてさ。ごめん。試合も近いし集中したいから連絡するのやめてくれないかな」
 ゆりかの話を遮るように、早口で言う。
『ゆりかは神童くんのこと応援したいだけだよ? ゆりかのメール迷惑だった?』
 今にも泣き出しそうな声。
「あ、いや……」

 いつもそうだ。泣かれるといたたまれなくなって強く言い切れない。もうやめてくれ。そう言って突き放せばいいのに。メアドも電話番号も変えてしまえば連絡がくることもないのに。オレはそれが出来なくて、はぐらかして逃げてる。
 泣かれると、大丈夫だよって頭を撫でたくなる。

『……よね』
「えっ?」
『やっぱり迷惑だったんだよね。しばらく連絡するのやめる。だから――』

 ゆりかを見捨てないで。

 そう言って彼女は電話を切った。
 神童はただ茫然と通話終了画面を見つめていた。

 サッカーみたいに上手く切り抜けるワザを使えればいいのに。


fin.



(12/05/29)
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