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「手合わせしてくれ!」
 縁側でお茶を飲む俺のところに彼は走って来た。
「そんなに慌てて、どうしたか」
「強くなりたい」
 彼の目は真剣であった。強張ってもいた。
「ほう、また突然だな。昨日も勝利をおさめて帰城しておるではないか」
「これじゃだめなんだ」
「何がだ?」
「あの人が想うその人は俺より強くて、だからその人より強くならなきゃ……」
 まるで話が見えないと思っていたがそういうことか。
「焦る必要はない。お前さんはお前さんであろう」
「でも、苦しいんだ。過去の記憶が焼けた時になくっていることより、あの人が好きなのは骨喰藤四郎であって俺ではないのが。あの人と過ごした時間の記憶がないのが、苦しくてつらくて仕方ないんだ」
 一度、骨喰藤四郎は戦闘で破壊されている。彼はそのあとこの本丸にやってきた骨喰藤四郎だ。主は彼が来る前から骨喰のことを想っているのだが、時折彼ではない骨喰を見ているように見える時がある。それが苦しいのだろう。
「ほら、涙を拭いて。長く生きればいい」
「長く生きる?」
「そう、お前さんが敵(かたき)にしておるその人のように主の前からいなくならなければそれで良い。だから焦る必要はない。焦りは禁物、死を招きかねんからな」
 きっと主はもう骨喰を失うまいと、二度と過ちを繰り返すまいと思うばかり彼越しに過去の骨喰を見てしまうのだろう。だから、
「お前さんは死んではならないのだ、もう主を悲しませてはならないぞ」
「ありがとう、三日月」
 強張りは消え、いつもの彼に戻っていた。



(17/9/17)

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