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ランドセル48色で驚いてちゃいけない


【三月三十日】
 春だし日記でもつけてみようと思う。
 でも何かあったわけじゃない。
 もうすぐ終わる春休みが暇なだけ。宿題をギリギリにするタイプじゃないから。

【三月三十一日】
 今日は一日空を見てた。
 三月が終わる。あーあ、あと一週間で春休みも終わっちゃう。
 何か面白いことないかな。

【四月一日。エイプリルフール】
 今日も一日空を見てた。てか、ほんとに何か起こるとは思わなかった。
 エイプリルフールだから嘘なんじゃって思ったけどそれは午前中までだから嘘じゃなかった。
 寝ちゃって起きたら背中に女の子が乗ってた。
 何が起こったのかよくわからない。おつかれだったのかすぐ寝ちゃったから詳しい話聞けなかった。
 これからどうなるんだろう?
 あ、彼女の名前は「うーたん」。



●day 1―― 4/1
 日が沈んできた。
 ベッドの上、空を眺めていた少年は気持ち良さそうに眠っている。寝る前と違うのは幼い少女が背中にひっついていること。
「ん……」
 背中に重さを感じ、目を覚ました。
「……!」
 振り返り、少女と目が合った少年はそっと目を逸らした。
「おにーたん、起きた?」
 少女が少年を呼ぶ。
「おにーたんって呼ぶな。お前誰だよ」
「うーたんだよ! おにーた……あ、おにーちゃん」
 少年が振り向かないからうーたんは肩を掴む手に力をいれた。
「お前の兄貴じゃない」
 それでも少年は振り向かない。
「うーたんより年上に見えるからおにーちゃん」
「なんでここにいんだよ」
「……――」
 返事がないから振り返ったらうーたんは寝ていた。
「なんでこのタイミングで寝るんだよ」
 すやすやと眠るうーたんの髪を撫で、少年はため息をついた。


●day 2―― 4/2。
 少年は朝食を済ませ、うーたんの分を手に自室に戻ってきた。
 うーたんはまだすやすやと眠っている。
「起きろ」
 机に朝食を置き、うーたんの体を軽く揺する。
「……ぅ……」
 うーたんは眠たそうに目をこすった。しかしそれは無意識でまだ眠っているようだ。
「起きないと朝ご飯やらねぇぞ」
「……やだ。食べる……」
 うーたんは少年の袖を掴んだ。

「ごちそうさまでした」
 朝食を食べ終え、満足そうなうーたん。
「ほんと美味そうに食べるよな」
「だっておなかすいてたし、おいしかったんだもん」
「で、お前は何者なんだ?」
「お前じゃないよ、うーたんだよ。うーたんはまほうつかい」
「魔法使い?」
「あ、違う。試験に落ちたから見習い。あとてんしとのハーフ!」
「はぁ?」
 わけがわからない。少年はイライラした。
「だから、うーたんはてんしとまほうつかいの子どもでまほうつかいの試験に落ちたの」
「で、ここに来た理由は?」
「試験に落ちたら結婚って約束があって、落ちたから結婚しなくちゃいけなくて……でもいやで、逃げようとまほう使ったら失敗した……」
 しょぼんとした様子のうーたん。
「ごめん」
 強く言い過ぎたと反省する。
「ていうか、その年齢で結婚すんの?」
「うーたんの世界では年齢あんまり関係ない。ちなみにうーたんはにんげんで言うと七歳!」
「七つも違うのか」
「ほらやっぱりおにーちゃん」
 うーたんは嬉しそうにニコニコ笑った。



【四月二日】
 うーたんは天使と魔法使いのハーフの魔法使い見習いでした。
 人間で言うと七歳って向こうの世界では違うのか?
 とりあえず結婚が嫌で逃げてきたけど行く場所ないらしいから構ってあげることにした。
 うーたん可愛いから特別……じゃなくて暇だから。

【四月三日】
 うーたんが魔法の練習付き合ってって言うから付き合った。
 全然わかんなかったけどとりあえず本とにらめっこした。
 で、わかったことほんとに魔法はある。

【四月四日】
 今日もうーたんと魔法の練習。
 レベルがさっぱりわからない。これじゃ駄目なのかな。
 うーたんの説明じゃ試験の難しさが伝わらなかったけど頑張ってた。
 春休みもあと四日。



●day 5―― 4/5。
 河原。
「うーたん、次は五六八ページやるよ」
 本を開き、うーたんに見せる。
「ここきらいやだー」
「でもやらないと試験受からないよ?」
「うぅ……」
 仕方ない、と観念したそのとき、
「やっと見つけた」
 突然後ろから誰かの声がした。
「……!?」
 うーたんの体がぴくっと反応する。
 振り返るとそこには二人の男女がいた。
「誰?」
 少年が問うと同時、しがみつくうーたん。
「この子の両親です」
「えっ……」
「返してください」
 母親が言う。
「いや、ぼくは奪ったわけじゃ……」
「うーたんがおにーちゃんにお願いしたんだよ」
「どっちでもいいわ。さぁ帰るわよ」
「やだ! 帰りたくない。うーたんまだおにーちゃんといる」
「いい加減にしなさい」
「あ、あのっ。少しだけ時間をくれませんか? ぼくの春休みが終わるまででいいんです」
「春休み?」
 首を傾げる父親。向こうにはない制度のようだ。
「あーえーと、とりあえずあと三日!」
「うーたん帰りたくないよ?」
「いいから黙ってて」
「よし、待とう。三日で説得してくれるんだね」
「あなた甘すぎます」
「結婚しないなんて言わせないためだ。結婚がどれだけ大事かわかっているのか」
「わかってるけど……」
 いまだ。そう思った少年はうーたんの手をひっぱり逃げた。

「ねぇ、うーたん帰りたくない」
「帰らないと試験受けれないぞ? それにうーたんはこの世界にいちゃダメなんだ」
「おにーちゃん、うーたん嫌い?」
「嫌いじゃないよ」
「ほんとに?」
「ほんと。この本にも書いてあったでしょ? 長期間人間といちゃダメだって。一人前の魔法使いになるんでしょ」
「うん……おにーちゃん守れるようなまほうつかいになる!」
「えらいよ、うーたん」
 少年はうーたんの頭をくしゃくしゃとなでた。うーたんは嬉しそうに笑った。



【四月五日】
 うーたんの両親が来た。
 すぐに連れて帰られるのは阻止したけど三日後には帰っちゃう。
 別れがくるのを忘れていた。
 出会いには別れがある。
 明日は思い出作りにどこかへ連れて行こう。

【四月六日】
 遊園地に行った。
 うーたんは初めてだったから反応がいちいち新鮮だった。楽しそうで嬉しそうなうーたん。
 ジェットコースターにはまって十回乗らされた。仕返しにお化け屋敷に連れてった。うーたん号泣。
 一緒に食べたソフトクリームがおいしかった。ぼくがチョコでうーたんはバニラ。一口交換もした。

【四月七日】
 ラストだし思い出つくろうってことで水族館に行った。
 昨日あんなに騒いだのに今日もすごいはしゃいでた。
 すぐ、「おにーちゃんアレ! キレイ」とか「あのお魚さんおっきいよ!」とか報告してくれた。
 イルカショーとペンギンのえさやりを見たのが印象に残ったみたい。
 帰り道、うーたんに「まほうつかいになって絶対戻ってくる。おにーちゃんと結婚する」って言われた。



●day 7―― 4/7。
 水族館からの帰り道。手をつなぎ歩く二人。
「今日、すっごく楽しかったよ」
 うーたんがニコニコ笑顔で言う。
「それは良かった」
「ね! うーたん決めた!」
「ん?」
「帰ってまほうつかいになって絶対戻ってくる。うーたん、おにーちゃんと結婚する」
「ぼくなんかでいいの?」
「おにーちゃんがいいの」
 うーたんは握る手にぎゅっと力を込めた。

 夜、寝る前に、
「おにーちゃん、うーたん好き?」
 と、うーたんが聞いた。
「うん、好き」
 と言って、泣きそうなうーたんを少年は抱きしめた。


●day 8―― 4/8。
 魔法の練習した思い出の河原。
「やっぱりうーたん帰りたくない」
「ダメだよ、お父さんとお母さん来てるんだから」
 遠目に見える両親の姿。
「でも……」
「魔法使いになるんでしょ」
「うん……うぅ……バイバイおにーちゃん」
 泣きながら手を振って、重い足取りで少年の背中に乗る。
 出会ったときと一緒。
「バイバイ、うーたん」
 そう言ったらすっと背中が軽くなった。
 少年の目には涙がたまっていた。



【四月八日】
 うーたんが来てちょうど一週間。
 ついにうーたんが帰った。
 てことは春休みも終わり。
 楽しかったよ。ありがとう。

【四月九日】
 今日から学校。
 新しいクラス。久しぶりに会う友だち。
 別に何も変わらない。
 携帯の待ち受けはうーたんとのツーショット。


【○月△日】
 うーたん元気かな?
 試験上手くいったかなぁ
 今、幸せ?


(12/10/25)
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