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inzm

出会い


「お疲れ佐久間」
「また明日な!」
「おうお疲れ」
 部活が終わって部員と別れて一人帰宅している途中だった。
 ふと、横の高校の校舎に目をやると屋上に女子生徒が立っていた。
 別に不思議なことは何もない。けれど何だか目を奪われて足を止めた。
「柵が無ければふらっと落ちそうだな……」
 佐久間は不安そうに少女を見つめる。
 そのことに少女が気付くことはない。ただ前を見ている。何を見ているのだろうか。
 少しの間、何の変化もなかった。
 そう、少しの間だけ。
 少女はゆっくりとフェンスに手をかけた。
「――」
 息を呑む佐久間。
 まさかとは思いつつも拭いきれない嫌な予感に鼓動が早くなる。
 声を掛けに行こうと思うのに、吃驚するくらい足は動いてくれなくて声も出ない。それは何かに封じられている様だった。
 だから、ただ少女の行動を見ているしかなかった。
 少女はフェンスを登り始めた。その動きは手慣れていてとてもスムーズだ。
 あっと言う間に上まで辿り着いて乗り越えてしまう。
「……」
 咄嗟に叫ぼうとしたが相変わらず声が出ない。
 お願いだから声出てくれ、と佐久間は必死になる。
 時間がない。
「……おい。おーい!」
 願いが通じたのかなんとか声が出た。
 その声に少女が気付いて佐久間の方を見る。
 そしてストンとフェンスの向こう側に降り立った少女は佐久間に手招きした。
 呼ばれたので急いで校門を潜り抜け少女のそばに行った。
 と言っても地上と四階上の屋上。かなりの距離がある。
「何してるんだ」
「自殺ごっこ」
 佐久間の心配を余所に少女は笑う。
「……」
 意味がわからない。
「中学生? 何部なの?」
 少女は自分勝手に話を始める。
「……サッカー部」
「へえ、そうなんだ」
「なぁ、先輩は何で自殺ごっこなんてしてるんですか?」
 今度は佐久間が質問する番。
「うーん。楽しいから」
「えっ楽しいんですか?」
「楽しいよ。死ねないのはすごく残念だけど」
 ふわふわとした笑みに惹かれるが、言っていることは全くふわふわしていない。
「……」
「わかんないか」
「わかるわけないです」
「残念。まあ、わかってもらおうなんて思ってないけど」
「……」
 本当に不思議な少女だ。
「目、綺麗だね」
 佐久間が黙ると話を変える。
「眼帯してるなんてかっこいいね」
「……あの、それより怖いので戻って下さい」
「フェンスの向こうに?」
「そうです」
「やだ。自殺ごっこは終わってないから」
 終わっていない。それは佐久間に衝撃を与えた。
「大丈夫。言ったでしょ?」
 佐久間の心情をわかってか安心させる様な口調。
「死ねないって」
 少女は笑って、なんの躊躇いもなく屋上から落ちた。
 佐久間の前に降ってきた。


to be continue…?


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