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遺却


「忘れてしまえればいいのに……いや、忘れてくれればいいのに私のことなんか」
 彼女から心の声が漏れた。それに本人は気づいていない。
「そんなの悲しい」
 思わず返事をしてしまった。
「えっ」
「誰かに忘れられるってつらいよ」
 君が誰を思ってそれを言っているのかはわからない。でもそれが悲しくつらいことだというのはわかる。
「今の方がつらいよ」
 涙で潤んだ瞳、やっと彼女の本音に触れた。それはすぐにでも壊れてしまいそうで伸ばしかけた手が止まる。彼女の抱えているものがわからない。ずっとわからなかったモノが少しわかるかもしれない。それがわかってからこの手を伸ばそう。壊してしまってはいけない。やっと偽りのない彼女を見れたのだから。それがほんの少しでも。
「今も未来もずっとつらいに決まっている」
「そんなの」
「忘れてほしいの」
「みんな私のことなんか忘れてしまえばいい」
 彼女の涙腺は崩壊した。
「もういいよ、それ以上何も言わないで」
 抱きしめた。壊れてしまうんじゃないかってくらいの力で。もういい、本当のことなんて言わなくていい。こんなにも苦しめるのなら今まで通り偽っていて。そんな気持ちを込めて、彼女の涙が枯れて、いつものように笑うまで抱きしめた。


(14/05/17)
終わりが見えなくなったし久しぶりで キ ャ ラ 崩 壊 …ごめんなさい
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